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第35回 「楽しい授業」と国語科の基礎・基本と

そがべ先生の国語教室

2022年11月2日 更新

宗我部 義則 お茶の水女子大学附属中学校副校長

30年の教師生活で培った豊富な実践例をもとに、明日の国語教室に役立つ授業アイデアをご紹介します。

第35回 「楽しい授業」と国語科の基礎・基本と

気持ちよく晴れた10月の3連休の土曜日。「ことばと学びをひらく会」という全国規模の国語の研究会で、シンポジウムに登壇しました。「楽しいことばの学びをひらく ――楽しいからこそ深まることば、深まるからこそ楽しい学び」という主題を掲げた研究会です。シンポジウムでは、藤森裕治先生(文教大学教授)の司会進行のもと、「ことばの学びをひらく楽しさとは?」というテーマで、青山由紀先生(筑波大学附属小学校教諭)、鹿毛雅治先生(慶應義塾大学教授)らと楽しく語り合いました。

終盤で、フロアからいくつかの質問が寄せられたのですが、時間も迫っていて、きちんと取り上げてお答えすることができませんでした。そこで、今回は、いつもとちょっと趣向を変えて、それらの質問に対する私の考えを述べてみたいと思います。

Q.宗我部先生と青山先生の授業の様子を見て、子どもたちがダイナミックに動いている様子が伝わってきました。先生方は、国語の授業で子どもたちにどこまで「型」を教えますか?

ここでいう「型」とは、小学校の教室などで「〇〇だと思います。なぜなら……。」「〇〇さんに賛成です。……だからです。」みたいに発言の型を掲示して指導するようなことでしょうか。その「型」であれば、私の場合、相手が中学生ですから、小学校のように掲示物を貼って発言の型を指導する……ということはしていません。しかし、「型」は知っていて、かつ、それにとらわれずに自在に話したり書いたりできるのがよいと思っています。また、授業中の発言をとらえて、「今のところ、とてもよい意見だね。きちんと理由を述べる言い方で言い直せると、なおよいね!」などと、やわらかく意識させることは行っています。

現在、光村図書のデジタル教科書(学習者用・指導者用)には、開発段階で私のほうから「ひらめき言葉ボックス」という機能(ワーク)を提案し、実装されました。これは、「伝え方・考え方の型」として生徒たちに活用してもらおうというアイデアをもとにした機能です。発表の準備をする際に、参照できるようになっています。

「型」として、中学生にもきちんと指導したいのは、
(1)根拠と理由を分けて主張する言い方
(2)比較する言い方
です。

(1)については、根拠となる事実と、それが主張と結び付く理由(理由づけ)とを意識することで、使い分けることができるように指導しています。「走れメロス」(2年)で例を示します。

  • 私は、山賊たちは王様の命令でメロスを待ち伏せしていたのだと思います。………(主張)
  • メロスが「私には、命の他には何もない。その、たった一つの命も、これから王にくれてやるのだ。」と言ったとき、山賊は「その、命が欲しいのだ。」と答えています。………(根拠)
  • メロスが「王にくれてやる」つもりの「その、命が欲しい」という山賊の答えは、メロスが約束を果たして王に命を差し出すことができないようにここで命を奪うと言っていると読めるからです。………(理由づけ)

(2)については、AとBを比較する際には、「比較の観点をそろえること」と、「Aは〇〇だが、Bは□□である。」という言い方があることを意識させるように指導しています。

「リンゴは赤いけれど、バナナは長い。」というのは、比べているようで、実は比較になっていません。
「リンゴは赤いけれど、バナナは黄色い。」なら、色を観点にした比較。
「リンゴは丸いけれど、バナナは細長い。」なら、形を観点にした比較ですね。

などと教えてあげると、中学生は、理屈については理解します。ただ、これを使いこなすには日々の徹底が大切です。

もう一つ、中学生の「型」は、このように「型として体に染み込ませる」ことよりも、実際の生きた文章を参照したり、時には模倣したりすることで、「知って、使いこなせるようになる」のも大事なことです。
「ダイコンは大きな根?」(1年)の授業では、「筆者の文体をそっくりまねして、他の根菜について説明する」という課題を楽しみながら、

  • ……でしょうか。……と思うかもしれませんが、そんなに単純ではありません。
  • 下のほうは……です。いっぽう、上のほうは……です。

といった筆者の表現をまるごとなぞることで、「論理的でわかりやすくカッコいい述べ方(型)」を学ぶのです。これなどは、型を押しつけるのではなく、いつのまにか体に取り入れてしまう方法です。本来、「視写」というのも、そういう意味のある活動だったのです。「にほんごであそぼ」(NHK Eテレ)という番組で、幼児に文学の一節を暗唱させることが流行りましたが、無理強いして暗記させるのではなく、リズムを楽しんでいるうちに覚えてしまうというところこそが大切だったのです。ちょっと似ていますね!

「ダイコンは大きな根?」の詳細はこちら。
第23回 説明文の読みの学習をもっと楽しく――「ダイコンは大きな根?」(1年)

Q.楽しい授業の提案、実践事例、とても魅力的で取り入れてみたいと思います。いっぽう、若い先生たちが増えている昨今、基礎・基本をしっかり押さえた授業に取り組んでもらいたいとも思うのです。どのようにアドバイスするとよいでしょうか。

ベテランの先生からの質問でした。各学校では、世代交代もどんどん進んでいますから、ベテランの先生は、ご自身も授業を楽しみつつ、若い先生への助言もしていく必要があるのでしょう。

国語科は実技教科です。国語科の基礎・基本=言葉の実践力(話す・聞く力、書く力、読む力等)は、実際に言語活動を行う中でしか身につきません。そして、「本気・夢中」で言語活動に取り組むときこそ、生徒たちは、「どうしたら効果的に伝えられるか」と工夫したり、「こういう情報が欲しい!」と本気で読もうとしたりします。だからこそ、彼らを「本気」「夢中」にさせることが大切なのです。生徒たちが楽しんで活動する授業は、生徒の力を伸ばします。逆に、しかたなく、いやいや活動している授業では、結局、力がついた実感が思ったほど返ってこなかったりします。

いっぽう、国語科では昔からよく「『活動あって学びなし』ということにならないように!」などと言います。「楽しそうに活動しているけれど、何を学び、どんな力がついているのかよくわからない、という授業にならないように注意しよう」という意味です。

では、「生徒が活動を楽しみ、学びも充分に行っている授業」への鍵は何か。

私たちは授業を構想する際に、「今回は、こういう伝え方、こういう読み方を学ばせたい」と考えて、授業の目標や評価を位置づけます。そして、この「学ばせたい伝え方や読み方」などを必ず使う状況になるように、言語活動や学習展開をデザインします。
そう!ここなのです。つまり「授業のねらい」と「言語活動や学習展開」とが、分かちがたく結び付くようにすること。これが私たちプロの教師の工夫のしどころなのです。これがきちんとできていれば、「活動あって学びなし」などという状況には決してなりません。

若い先生方は、こういうところがまだうまくできないことがあります。どうしても、「授業のねらい」と「言語活動や学習展開」の結び付きが弱かったりすることが起こりがちです。
ベテランの先生方は、「『楽しい授業』『生徒たちが取り組みたくなる楽しい言語活動』は君にはまだ早い!」と言うのではなく、楽しそうな活動のどこで、どうすると、よりしっかりと授業のねらいと結び付くのかを助言してあげてください。

こんなことを言っている私自身、駆けだしの頃は、授業を見に来た指導主事の先生に、「生徒は楽しそうに活動していたね。これからも生徒たちといっしょに授業を楽しんでいくとよいですね。でも、この活動を楽しむと、どこでどんな力がつくのか、もっと丁寧に検討しましょう。毎月、勉強会をやっているから、参加してみませんか?」とご指導をいただいたことがあります。この先生の、この言葉が、授業作りを楽しみながら力のつく授業を開発しようと考える今の宗我部の出発点です。

Q.「そがべ先生の国語教室」を楽しみにしています。こういう授業のアイデアはどういうふうに思いつくのでしょうか。

この問いも、よくお尋ねいただきます。そういわれても、何か特別な秘訣があるわけではないのですが、率直にいえば、いつも「何かおもしろいネタがないかな?」「楽しくて力のつく授業になる教材がないかな?」と考えていると、そういうネタや教材の“もと”に出会うことがたくさんある、ということです。

例えば、「ダイコンは大きな根?」(1年)の授業で生徒に示した課題の「ニンジンとカブはダイコンとよく似た根菜だけど、どこまでが根でどこから茎か」という情報は、職員室のおしゃべりの中で理科の先生からいただいた「根菜うんちく」です(笑)。「君は『最後』の晩餐を知っているか」(2年)で扱った2枚の「最後の晩餐」は、美術の先生との会話から。職員室のおしゃべりは、授業のアイデアの宝庫です。大切なのは、おもしろい話題、材料に出会ったとき、どうにか授業に生かせないかな?と考えてみることです。

「君は『最後の晩餐』を知っているか」の授業の詳細はこちら。
授業リポート「評論を読む」――「君は『最後の晩餐』を知っているか」(2年)

例えば、『三びきのコブタのほんとうの話』(岩波書店)という本を見つけたのは、家族で出かけた山梨のえほんミュージアム清里です。これをたまたま手にして、「お!これはメディアリテラシーの授業に使える。待てよ!『三びきのコブタ』のストーリーを狼が語るこの絵本みたいに、『少年の日の思い出』の語り手をエーミールにしたらどうなる? 『走れメロス』の語り手を、メロスに寄り添う語り手ではなく、セリヌンティウスや王にしたらどう語る? これは、元の物語を別の角度から読み解くことになるし、物語の『語り』ということを体験する活動になるのではないか?」と思いついたら、早速、授業の構想を練ってみるのです。

時には、家族がネタを提供してくれることもあります。「書き出し小説」のアイデアは、天久聖一さんの本『書き出し小説』(新潮社)を長女が「お父さん、これ知ってる? おもしろいよ!」と教えてくれました。読んでみたら、これはすぐ授業で使えるな!と思ったのです。書き出しを工夫することは、「書くこと」の指導の重要な要素の一つです。それをこんなに楽しく遊びながら学べたら……。「よしそれなら、いっそ現在出回っているたくさんの小説の書き出しを生徒に集めさせて、一気に読み比べながら、どっぷり書き出しに浸らせてみるのもおもしろい。それこそ読書指導の一つのアイデアにもなりそう!」

「書き出し小説」の授業の詳細はこちら。
第29回 「書き出し小説」に挑戦(1) ――「構成や展開を工夫して書こう」(2年)

日常の新聞やニュースにもネタはたくさん! アイドルの曲の歌詞にさえ! 身の回りには教材になりそうな「言語文化」があふれています。
そうした素材がアンテナにかかってくるには、「読むとはどのような行為か」「伝えるときに大切なのはどういうこと?」「そもそも説明するってどういう言語活動?」などと、日頃から「国語の力」「言葉の技能」「思考の方法」、その他、国語を取り巻くさまざまな専門知識に触れて、「私たち国語科は何を教える教科なのか?」について興味や関心を広げていくのも大切かもしれませんね。

宗我部義則(そがべ・よしのり)

1962年埼玉県生まれ。お茶の水女子大学附属中学校主幹教諭。お茶の水女子大学非常勤講師、早稲田大学非常勤講師。平成20年告示中学校学習指導要領解説国語編作成協力者。編著書に『群読の発表指導・細案』(明治図書出版)、『夢中・熱中・集中…そして感動 柏市立中原小学校の挑戦!』(東洋館出版社)、『中学校国語科新授業モデル 話すこと・聞くこと編』(明治図書出版)など。光村図書中学校『国語』教科書編集委員を務める。

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