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第34回 要約・編集で説明文を読む(2)――「クマゼミ増加の原因を探る」(2年)

そがべ先生の国語教室

2022年9月2日 更新

宗我部 義則 お茶の水女子大学附属中学校副校長

30年の教師生活で培った豊富な実践例をもとに、明日の国語教室に役立つ授業アイデアをご紹介します。

第34回 要約・編集で説明文を読む(2)
――「クマゼミ増加の原因を探る」(2年)

前回に続いて、ICTを活用した授業アイデアの二つ目をご紹介します。
第33回 要約・編集で説明文を読む(1) ――「クマゼミ増加の原因を探る」(2年)

「著者の代わりに発表資料をまとめよう!(スライド資料作成で読む)」

もう一つの授業アイデアは、スライド資料を作りながら、「探究する課題の設定→前提の確認→仮説の設定→検証と考察」という、「仮説検証型で説明する文章展開」を学ばせようというものです。
こちらは、教室内のLANを活用して協働作業がしやすくなったことで実現可能になったアイデアです。最初は、平成28年度版教科書で「幻の魚は生きていた」を使って実践しました。1人1台の端末環境が完備された今、そのころよりももっと手軽に行えるなあと思ったので、以下、令和3年度版の教材「クマゼミ増加の原因を探る」にアレンジしてご紹介します。

本教材は、筆者の沼田英治さんがご自身の研究成果を簡潔にまとめた文章です。文章全体が、次の小見出しで分けて示されています。

研究のきっかけ(研究課題の提示)
[前提]クマゼミの一生と、環境の影響を受ける時期
[仮説1]冬の寒さの緩和
[仮説2]気温上昇による孵化の時期の変化
[仮説3]ヒートアイランド現象による乾燥と地表の整備による土の硬化
まとめ

そして、それぞれの[仮説]について、次のような道筋で報告し、検討を進めていきます。

  • 前提(すでにわかっていること)
  • 仮説(もしかすると「こうではないか?」という問い)
  • 検証(実験や観察 → 考察=わかったこと、まだわからないこと)

この過程には、筆者の科学的なものの見方・考え方がよく表れており、それはすなわち、「言葉によって物事を見る・考える」ということの好例といえるでしょう。この道筋を追体験させることは、生徒たちがこうした「見方・考え方」を学ぶ体験になるはずです。そこで、こんな課題を投げかけます。

〈学習課題〉
筆者の代わりに「クマゼミ増加の原因」について発表するためのスライド資料を作ろう!

■手順1
分担を決める。
*4人班の場合……「研究のきっかけ・まとめ」を一人。「仮説1・2・3」をそれぞれ一人。

■手順2
担当部分の要点をまとめて発表用のスライド資料を作る。
*教科書中の写真や図表を使ってまとめてよい。(あらかじめデータを配付。あるいは学習者用デジタル教科書から引用)
*スライドには、要点を簡潔にまとめて記述する。長々と引用しない。
*スライドは、例えば次のように、必要に応じて適当な枚数を作成する。
仮説1と検証方法(実験等)……1枚
実験1の結果と考察……1枚
実験2の結果と考察……1枚
実験3の結果と考察……1枚
仮説1に対する結論……1枚

■手順3
班内でそれぞれの分担内容を検討して、必要な加除修正を行う。

■手順4
提出する。(分担部分についての工夫点や困ったことなどをコメントして提出する)

■手順5
お互いの発表資料を読み合って、よいと思ったところや工夫点について相互批評を行う。

■手順6
仮説検証型の論の展開について、資料作りを通して学んだコツ(仮説検証型で説明する際は、こんなふうに展開するとよい)をまとめる。

こんな感じで進めます。時間があれば、実際に筆者になったつもりで発表するとより効果的ですね。

「要約・編集」という言語活動

「発表用のスライドにまとめる」という学習課題(言語活動)は、(1)の「ワープロで要約」と同様に、実は、「要約・編集」の課題(活動)です。文章要約の活動を通して、内容の理解を深めるとともに、「仮説検証型の文章」の展開を学ぶことが可能になります。「発表用スライド」という設定は、こうした「研究成果の報告」型の説明文教材には応用しやすいはずです。「『言葉』をもつ鳥、シジュウカラ」(令和3年度版1年)などもその一つです。
もちろん、「発表用」としている目的の部分を工夫すると、さまざまなタイプの説明文・論説文教材に応用がききそうです。実際に「幻の魚は生きていた」では、「研究発表用スライド」の他、「一般向け報告会用」「テレビ番組での解説用フリップ」など、いろいろな状況を設定して、生徒たちに選択させました。生徒たちはそれぞれに楽しんで取り組み、さまざまなバリエーションの発表がありました。

ただし、こうして出力のバリエーションを広げて選択させると、学びに向かう意欲は高まるのですが、それぞれの目的に応じた展開や相手に応じた見せ方の工夫が必要になり、学習のねらいとしてはやや拡散しやすくなります。その点、「クマゼミ」や「シジュウカラ」は、「発表用の資料」としてまとめることで、読み書き関連の学習がシャープに行えそうです。教材に応じて、また、どんな読み方や述べ方を学ばせたいのかによって、設定を考えていくと、学習効果も高まっていくことでしょう。

宗我部義則(そがべ・よしのり)

1962年埼玉県生まれ。お茶の水女子大学附属中学校主幹教諭。お茶の水女子大学非常勤講師、早稲田大学非常勤講師。平成20年告示中学校学習指導要領解説国語編作成協力者。編著書に『群読の発表指導・細案』(明治図書出版)、『夢中・熱中・集中…そして感動 柏市立中原小学校の挑戦!』(東洋館出版社)、『中学校国語科新授業モデル 話すこと・聞くこと編』(明治図書出版)など。光村図書中学校『国語』教科書編集委員を務める。

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