
授業を「見える化」する「構造化シート」を用いた授業改善
2025年4月24日 更新
真壁佑輔 札幌市立上野幌中学校 教諭
道徳科の授業に悩みをもつ先生方に、「構造化シート」を使って自分の授業を見える化することによって、授業改善につなげるヒントを解説します。
授業改善の概要
担任教諭3名に「許せないよね」(光村図書「きみが いちばん ひかるとき2」)の教材で授業を実施してもらいました担任教諭は一般的にいうベテラン教諭、中堅教諭、若手教諭の3名です。
その後、各授業について構造化シートを作成し、互いの授業について交流するワークショップを開催し、自分の授業の構造化シートと比べて見ることで、新たな気づきや授業改善に関わる視点を獲得できると考えました。
特に若手教諭が、ワークショップで自身の授業について客観的に見ることで気づきを得て、授業改善の視点を得ることができました。その後、2回にわたって担任が行う道徳授業を構造化シートで見える化したことで、授業改善が目に見えてわかる結果となりました。
下の図は、若手教諭が行った授業のうち1回目「許せないよね」(左)と、3回目「桃太郎の鬼退治」(右)の構造化シートを示しています。

※それぞれ1単位時間(50分間)を一枚にした全部を示した(黒のバーは中心発問場面を示す)
それぞれの担任教諭の気づき
若手教諭
若手教諭は授業①の直後のリフレクションで「子どもたちからたくさん意見を聞きたい」と発言し、道徳は子どもから意見を聞くことが大切だという指導観を表出しました。
これに対し、授業①の後に構造化シートを用いて行ったワークショップでは、「横に伸ばせてる部分が少なく、縦に長く伸びているところが多くなっている」ことに言及し、実際には子どもから意見を十分には拾えていない、または子どもの発言を得られていないことに気づきました。
ここで言う「構造化シートの縦が長く伸びている」ことは、教師の発問が次々に繰り出され、子どもの意見が広く出ていない様子が見える化された結果です。また、横に伸ばせていないということは、子どもから多面的多角的な意見が出なかったことを意味しています。
次に、ベテラン教諭の構造化シートと比べて見ることで「横に伸びていて、子どもたちの意見を整理・補助しながら、子どもたちの意見がたくさん出るように構成されている」と若手教諭が目指す授業の姿に直結するイメージを得ることにつながりました。
さらに、ベテラン教諭や中堅教諭の発言から、若手教諭は「発問の言葉選びの重要性」も再認識し、自身の授業で生徒の発言が少ないことの要因に「発問の言葉選び」という視点があることに気づきました。
ここで重要なのは、若手教諭が自ら経験したことをもとに、ベテラン・中堅教諭とフラットな関係でともに語り合うことを通して、自分自身が授業改善の視点を語ったことにあります。もし、ベテランや中堅教諭が一方的に「あなたの授業は発問が悪い」とか「全然子どもは発言できていない」とか言ってしまうと、若手教諭はもう二度と道徳科の授業をがんばろうとは思えなくなってしまいます。
ベテラン・中堅教諭
興味深いことに、一般的にはベテラン・中堅教諭は若手教諭に「指導・助言」する立場にあることが多く、一方的な話になることが多いように思われますが、今夏のワークショップでは、「他の先生の授業が自分と違う視点で行われたことを知り、その結果を見ることで学びになる(ベテラン教諭)」、「リフレクションして、この人のこういうところがいいから後でまねしてみようかなとか…(中堅教諭)」というふうに、ベテラン・中堅にとっても構造化シートを用いて行うリフレクションを通して学び直し、「自分の授業でもやってみたい」とか、「この発問は自分はやらない」という教師自身の選択肢を増やすという意味で学びほぐし(ストレッチ)の機会になっていることがうかがえました。
実はベテラン・中堅教諭こそ授業に悩みがあり、その機会を求めているのかもしれません。しかし、校内での立場や年齢などさまざまな要因からそういったことを言い出しづらくなってしまっていることが推察されます。
若手教諭(A教諭)
- 自分の授業は、横に伸ばせてる部分が少なく、縦に長く伸びているところが多くなっている。
- C教諭のものは、横に伸びていて、子どもたちの意見を整理・補助しながら、子どもたちの意見がたくさん出るように構成されている。
- 発問に対して子どもの意見の広がりが「見える化」されたことで、自分は子どもたちのやり取りで横の軸を広げたいという思いがある。
- 「構造化シート」があるおかげで、1つの発問にかける時間や今は子どもの意見を聞くといったマジネジメントを意識するきっかけになった。
中堅教諭(B教諭)
- 後半みんな同じようなことを聞いているけれど、言い回しで全然違う結果になっている。
- 予想される反応を自分が本当に最後に聞きたいことにつなげていくことが大切。
- 授業をふだん振り返ることがほとんどなかったので、視覚的に自分が何をしたのかを振り返ることができる。同じ教材で3枚のシートを比較したことでよりイメージしやすい。
- リフレクションして、他の先生の発問や展開のしかたなどを後でまねしてやってみようと思った。
ベテラン教諭(C教諭)
- 発問の語尾やニュアンスによって、子どもたちが何を考えて何を言うかは全然違う。
- 構造化シートで「見える化」した状態で、自分の考えを聞いてもらったり、アドバイスを言ってもらえるのがよい。
- 共通教材で授業をやって相談したり、他の先生の授業が自分と違う視点で行われたことを知り、その結果を見ることで学びになる。
授業改善の一歩を踏み出す
若手教諭はその後、道徳授業に対して前向きに取り組み続け、時折当時の構造化シートを見ながら「縦」と「横」のイメージを思い出しているそうです。そしてベテラン教諭も当時のワークショップを振り返り、若手教諭はもちろんのこと、自分自身にとっても貴重な体験だったと語っています。
いずれにしても、同じ教材を互いに構造化シートという「共通の土台」を介して対話を行ったことで、自分自身の中にある授業観を見つめ直し、まずは自分のやりたい授業に近づけていくことが道徳科授業改善のモチベーションになります。
最近では、私が所属する札幌市道徳教育研究会でも授業者が授業観(「思い」)を語り、その実現に向けて研究部員が自校で授業を実践して報告する、ビデオ記録を通して授業者の悩みに向き合うことを通して指導案検討を行うようにしています。当然、研究会としての主張はありますが、授業者が納得していないものを実践するよりも、授業者が納得して「自分の」授業を実践し、楽しまなければ道徳科授業の改善には至らないのではないかと考えています。
3回にわたる「授業改善のススメ」をお読みいただきありがとうございました。
何かの参考になり、そして全国の先生方が道徳科授業を「楽しい!」と思って日々の実践に取り組まれる姿を想像しながら、私自身の糧にさせていただきます。
【参考・引用】
真壁佑輔(2024)道徳科授業における発問の言葉の違いに着目した授業づくりの視点:担任教諭による授業後の交流における気付きから、第58回全日本中学校道徳教育研究大会紀要、p52-57
真壁佑輔・中村邦彦(2025)道徳科授業を可視化する「構造化シート」の開発,日本教育工学会2025年春季全国大会(第46回大会)講演論文集, p231-232
松尾睦(2011)『職場が生きる人が育つ「経験学習」入門』、ダイヤモンド社
光村図書(2020)『中学道徳2 きみがいちばんひかるとき』
Illustration: こずまも
真壁 佑輔(まかべ・ゆうすけ)
札幌市立上野幌中学校 教諭
札幌市道徳教育研究会 研究部長、日本道徳教育学会北海道支部(中)研究部長(2024年度)。
2025年北海道教育大学大学院教育学研究科高度教職実践専攻修了、教職修士(専門職)。
2023年には、「中学校における「特別の教科道徳」の指導体制と評価方法の工夫:ローテーション道徳の効果とエクセルファイルポートフォリオの活用」で上廣道徳教育賞優秀賞を受賞。
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