
授業を「見える化」する「構造化シート」を用いた授業改善
2025年4月17日 更新
真壁佑輔 札幌市立上野幌中学校 教諭
道徳科の授業に悩みをもつ先生方に、「構造化シート」を使って自分の授業を見える化することによって、授業改善につなげるヒントを解説します。
授業を振り返るには?
前回は、道徳授業のハードルを下げ、学習指導要領解説編に示されている授業評価の観点から、自分の授業にとって改善のポイントはどこなのかを見つけることから始めましょうと述べました。
そのためには、自分の授業を客観視することが必要です。学習指導要領解説には、授業評価の観点とともに「授業に対する評価の工夫」が示されています。主に(ア)授業者自らが授業記録をもとに振り返る、(イ)他の教師からのフィードバックによって振り返るの2点について述べられています。
【授業に対する評価の工夫】
ア 授業者自らによる評価
授業者自らが記憶や授業中のメモ,板書の写真,録音,録画などによって学習指導過程や指導方法を振り返ることも大切である。録音や録画で授業を振り返ることは,今まで気付かなかった傾向や状況に応じた適切な対応の仕方などに気付くことにもなる。生徒一人一人の学習状況を確かめる手立てを用意しておき,それに基づく評価を行うことも考えられる。
イ 他の教師による評価
道徳科の授業を公開して参観した教師から指摘を受けたり,ティーム・ティーチングの協力者などから評価を得たりする機会を得ることも重要である。その際,あらかじめ重点とする評価項目を設けておくと,具体的なフィードバックが得られやすい。
「中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 特別の教科 道徳編」p118
授業記録の提案
これまで学校現場で主に使われてきた授業記録は「ビデオ記録」「音声記録」「手書きのメモ」といったものが挙げられるでしょう。しかし、どれも有効に活用されてこなかったのではないでしょうか。というのも、授業者と参観者との間で授業に対する認識に「ずれ」が生じているからです。
授業者は「○○をねらい」にして授業を行ったのに、参観者は「この発問では××」というように討議がかみ合わず、結局授業者は参観者に責め立てられたり、授業者としては討議の質問に耐える時間といった授業者にとっても参観者にとっても授業力が向上しない場になっていませんか? 同じ授業を見ているのに、人によって見え方は異なるということを前提に、授業討議を行う必要があります。そして、その際に、授業者と参観者の互いにとって「共通の土台」となる授業記録があれば建設的な場になるのではないかと考えました。
では、授業改善には何が有効か。松田・土田(2019)が行った調査で、学校現場の教師は「達人の授業をみる」ことが最も有効であると考えていることがわかりました。一方で、達人(エキスパート)の授業を見るだけでなく、「見える化」することで自身の授業との差異がはっきりし、改善点が浮かび上がります。まねしようとするにしても、それは完全なコピーを目指しているわけではなく、目の前の子どもの実態に応じて授業が行われることに意味があると考えます。
そこで、授業者と参観者の間に「共通の土台」として、「教師の発問」と「生徒の発言」を時系列に配置した「構造化シート」の活用を提案します。
開発した「構造化シート」
授業をビデオやタブレット端末で撮影し、ビデオ記録データのファイルをAIによる文字起こしが可能なウェブアプリに読み込ませることで数分間のうちにテキストデータが作成されます。作成したテキストデータから「教師の発問」と「生徒の発言」を抽出し,表計算ソフトを用いて構造的に配置することで授業全体の見える化を行うものです。構造化シートの作成手順(右)とイメージ図(左)を示します。
「構造化シート」のイメージ図
構造化シートの作成手順
① 教師の発問を挿入する。
② ①の教師の発問に対する生徒の発言を挿入する。
※生徒の発言が複数ある場合は、生徒Aの発言の記述の右側に生徒Bの発言の記述となるように横に挿入する。
※教師が複数の生徒の発言をまとめるような場合は、複数の生徒の発言の記述の下になるように横長に挿入する。
③ ②の生徒の発言に対して教師が問い返しや新たな発問を行った場合は、生徒の発言の記述の下に挿入する。
※生徒の発言に関連性のない発問の場合は、①の手順から新たに挿入する。
④ ③に対して、さらに生徒の発言があった場合は、その下に挿入する。
具体的なイメージをもっていただくために、実際の授業を構造化シートに表しました(下図)。
この授業は中堅教諭が実践した「許せないよね」(光村図書「きみがいちばんひかるとき2」)の1時間分の構造化シートのうち、特に中心的な発問の場面を切り取ったものです。
教師は、①「(主人公は)どうしたらよいかわからなくなった。この後どうなる?」と中心的な発問をした後、生徒が考える時間を確保しました。
再開時に教師は、②「 流されてしまうってどうなの?」と補助発問を行った後で生徒を指名し、
生徒Aが、③「だめだと思う。」と発言しました。
これに対して教師が、④「なんでだめだと思う?」と問い返したことで、
生徒Aは、⑤「自分の意見じゃないから。」と発言しました。
その後、中心的な発問に対して4人の生徒が発言しました。
たとえば、生徒Dは、⑥「固まって言い返せなくなっちゃう。」と発言した後、
教師が、⑦「固まった後どうする?」と問い返したことで、
生徒Dは、⑧「サヤが盗んだことには半信半疑だと伝える。」と発言しています。
生徒Dの自分ならどのような状態になるかという1回目の発言をふまえて、その後どのような行動をとるかという意見に結び付いています。
教師は 4人が発言した意見をまとめる形で、
⑨「4人の意見と流されてしまった人たちには大きな違いがある。」と新たに議論の視点を投げかけ、
⑩「責任ある行動って何だろう?」というふうに生徒の発言を生かして次の発問につなげました。
今回提案する構造化シートの特長は、「教師の発問」と「生徒の発言」のみで構成され、時系列に並べるというシンプルな構造にあります。これにより、特に「対話的」な授業であったかどうか、つまり生徒から多様な意見が引き出され、広がりや深まりのある授業になっているかどうかを視覚的に確認することができるようになります。
たとえば「教師の発問」に対する「生徒の発言」が横に広がっていれば、多様な考えを引き出したと考えられます。さらに「生徒の発言」に対して、教師が関連する発問で問いかけていれば、授業は階層的に深まっていたと判断できるでしょう。
次回は構造化シートを用いた授業改善の実践を紹介します。若手教諭が構造化シートを見る、比べることによって自分自身で授業改善の視点に気づき、授業構造が改善された実践です。お楽しみに。
【参考・引用】
真壁佑輔・中村邦彦(2024)道徳科授業を可視化する「構造化シート」の開発、日本教育工学会2024年秋季全国大会(第45回大会)講演論文集、 p621-622
松田憲子・土田雄一(2020)「特別の教科 道徳」についての小・中学校教員ニーズ調査2019、千葉大学教育実践研究 、23号、p39-54
光村図書(2020)『中学道徳2 きみがいちばんひかるとき』
Illustration: こずまも
真壁 佑輔(まかべ・ゆうすけ)
札幌市立上野幌中学校 教諭
札幌市道徳教育研究会 研究部長、日本道徳教育学会北海道支部(中)研究部長(2024年度)。
2025年北海道教育大学大学院教育学研究科高度教職実践専攻修了、教職修士(専門職)。
2023年には、「中学校における「特別の教科道徳」の指導体制と評価方法の工夫:ローテーション道徳の効果とエクセルファイルポートフォリオの活用」で上廣道徳教育賞優秀賞を受賞。