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人権はブレてはいけないもの 道徳で問い続ける

道徳と人権教育

2025年4月4日 更新

光村図書 道徳課

道徳教育の専門家である荒木寿友先生と弁護士の真下麻里子先生に「道徳」と人の権利である「人権」について語っていただきました。

真下:

人権を学んでいくうえで、気をつけなければならないこと。それは、人権には、多様な正解があってはならない場合があることです。例えば、「この人はいじめられてもしかたがないから、いじめてもいいよね。」とはなりません。

荒木:

道徳では、「答えは一つではない」と言いますが、答えが一つのものもある、ということですね。

真下:

もちろん、いじめにはいろいろなケースがあって、「こんなことをするあの人は嫌だ。」と思ってしまうのは、内心の自由として認められています。でも、そう思ってしまう背景や、これまでの経験など、そこには理由があるはずなので、それをシェアしていって、どうすればいじめという手段を取らずに解決ができるのか、そこにフォーカスしていく必要があります。ですが、そもそもの前提である「いじめはだめ」という部分がブレてしまうと、人権を尊重する解決にはならないのです。そういう意味で「優しさとは何か」などと同じように扱ってはいけないと思います。

荒木:

そうですね。道徳も、いくら「答えは一つではない」といっても、「生命の尊さ」などはブレてはいけないものです。「人権」もそれと同じなので、「思いやり」とか、「友情」などとは、違うものと考えたほうがいいんですね。

真下:

民主社会の構成員として、わかっておく必要があると思うんです。わかっていないと自分の権利も実現できませんし、侵害されたときに権利行使することもできなくなる。「知っておくべきこと」なのだと思います。

荒木:

知識として、社会科で扱う内容ですね。それと道徳を関連させていくのもいいと思うな。これからの道徳は、知識を得ることもすごく大事になってきます。他の教科と同じように、知識を基に考えていいと思うんです。生活経験だけではなく、知識を押さえながら考えていかなければ、逆に、自分の経験からしか考えられなくなってしまいますから。その点では、道徳の教科書にコラムがあって、知識を押さえていくというのはいいですよね。人権教育は、知的理解と人権感覚を養うことだと思いますが、社会科と関連させながら、道徳の教材やコラムでそれらを育むこともできるのではないでしょうか。そうやって知ったことを、日常生活にどう還元していくかというのが大事だと思います。

真下:

特に、権利の縦ベクトルのことは学んでいってほしいですね。集団と個について書かれている教材は、まさに権利の縦ベクトルについて考えていくことができるのではないでしょうか。

荒木:

これからの道徳は立ち止まって、じっくり考えることが大切になる。人権の知識などをベースにしながら、「それでいいの?」「それってそもそもどういうことなの?」と、問い続ける。答えがすぐには出ないモヤっとした状態に堪える力、ネガティブケイパビリティー(*)や問いを考え続ける力がこれから求められると思います。

*ネガティブケイパビリティー
答えの見つからない問題に対し、不確かな状態で耐える力。

Photo : Tomohiro Watanabe

真下麻里子 荒木寿友 写真

荒木寿友(あらき・かずとも)

立命館大学大学院教授

教育学、道徳教育を専門とする。主な著書に『いちばんわかりやすい道徳の授業づくり』『ゼロから学べる道徳授業づくり』(ともに明治図書出版)などがある。光村図書小・中学校『道徳』教科書編集委員。

真下麻里子(ましも・まりこ)

弁護士/NPO法人ストップいじめナビ理事

全国の学校でオリジナルのいじめ予防授業や講演活動を実施する。主な著書に『弁護士秘伝! 教師もできるいじめ予防授業』『「幸せ」な学校のつくりかた――弁護士が考える、先生も子どもも「あなたは尊い」と感じ合える学校づくり』(ともに教育開発研究所)などがある。

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