通常学級での特別支援教育
2019年9月20日 更新
川上 康則 東京都立矢口特別支援学校主任教諭
通常学級で特に気をつけたい特別支援教育のポイントを、新任・若手の先生方に向けて解説します。
川上康則(かわかみ・やすのり)
1974年、東京都生まれ。東京都立矢口特別支援学校主任教諭。公認心理師、臨床発達心理士、特別支援教育士スーパーバイザー。立教大学卒業、筑波大学大学院修了。肢体不自由、知的障害、自閉症、ADHDやLDなどの障害のある子に対する教育実践を積むとともに、地域の学校現場や保護者などからの「ちょっと気になる子」への相談支援にも携わる。著書に、『通常の学級の特別支援教育 ライブ講義 発達につまずきがある子どもの輝かせ方』(明治図書出版)、『こんなときどうする? ストーリーでわかる特別支援教育の実践』(学研プラス)など。
第39回 “HSC”感受性が強く、人一倍繊細な子
今日のポイント
- 情報や刺激の受けとめ方は、個人差がある。敏感に感じ取る特性として、近年、「HSC(Highly Sensitive Child 人一倍敏感な子)」という考え方が提唱されている。
- HSCの特性をもつ子どもの内面世界はとても豊かで、相手の気持ちを鋭く読み取ってしまうところもある。担任として関わる際は、ものごとの受けとめ方の深さや複雑さを認めることが大切である。
- 関わりのコツとしては、慎重さや共感性や感受性を理解し、その内面世界を言葉で代弁(または翻訳)してあげながら、成功体験を積ませることが不可欠である。
今回取り上げるのは、感受性が強く、繊細な一面がある子についてです。近年、アメリカの心理学者、エレイン・アーレン(Elaine Aron)先生が「HSC=Highly Sensitive Child」という考え方を提唱し、明橋大二先生が「ひといちばい敏感な子」と翻訳して紹介しています。
情報や刺激への感受性は個人差があります。何か起きてもそれほど気にしないタイプもいれば、必要以上に強く物事を受け止めてしまうタイプもいます。
教師になるには前者のタイプのほうが向いていると思います。日々、さまざまなことが起きる学校という現場においては、それらをいちいち気にしていて、落ち込んだり、後に引きずったりしていては務まりません。早く切り替えられる人のほうが向いています。
しかし、世の中には後者の特性をもつタイプの人もいます。前者のタイプの教師が後者タイプの子どもの担任になる場合は、その理解に特に細心の注意を払う必要があります。なぜなら、「単なる気持ちの問題」とか「気のせい」、「そのうちよくなる」といった言葉で簡単に片づけてしまうことが少なくないからです。
内面世界を理解することからはじめよう
人一倍敏感になりやすい領域・内容は、状況・感覚・相手の気持ち・生活リズムや物事の受けとめ方など多岐にわたります。
(1)些細な変化にもよく気がつき、その変化が苦手
- 驚かされることが苦手
- すぐにビックリする
- 避難訓練やサイレン、非常ベルなどを怖がる
- いつもと違う雰囲気・におい・人の動きに敏感に反応する
- 細かいこと(人の外見の変化、物の移動など)によく気づく
- クラス替えや転入学などの大きな変化にうまく対応しきれない
- 慎重で、石橋を叩いて渡るようなところがある
- 人前での発表が苦手(視線を過度に意識し、緊張してしまう)
- 刺激に影響を受けやすく、すぐに疲れてしまう
(2)感覚の過敏(特に触覚・痛覚・嗅覚・視覚・聴覚)が強い
- 服の布地がチクチクすると感じる
- 靴下のゴムや縫い目や服のタグ・ラベルなどが当たるのを嫌がる
- 靴の中に入った砂を極端に痛がる
- 服がぬれると、すぐに着替えたがる
- 糊や絵の具や砂がつくとすぐに洗いたがる
- 痛みに敏感である
- 注射を嫌がる
- 洗髪・散髪・耳垢とり・爪切りなどを嫌がる
- くすぐられると苦しがるくらいに笑ったり泣いたりする
- 雷が怖い
- 小さな虫でも大騒ぎする
- 外に出るだけで疲れる
- 匂いに敏感
- 空腹や眠気で誰も手がつけられないくい荒れる
(3)相手の心や場の空気をよく読む
- 親の気持ちをよく読む
- 大人の対応の原因を「自分のせい」「自分が悪いから」と自分を責めてしまう
- 誰かが辛い思いをしていることにすぐに気づき、時に自分も苦しくなる
- 他者の気分に影響されやすい
(沈黙やため息、眉をひそめるような表情の人がそばにいると不安になる) - ものすごく人に気を遣う
- 否定的な言葉に落ち込みやすい
- 悲しいニュースなどでも気分が落ち込む
- 自分よりも弱い人にやさしい
- 平和主義
(4)認知面で優れた部分がある
- 年齢の割に難しい言葉遣いをする
- ユーモアのセンスがあり、場を和ませようとする
- 直感力にすぐれている
- 知的好奇心が高く、「なぜ」「どうして」と多くのことを質問してくる
- 大人が考えさせられるような深い質問をしてくる
- 思慮深く、ものごとを深く考える
(5)豊かな想像力、内面世界を持っている
- ときに空想にふけることがある
- 美術や芸術に深く心を動かされる
(6)生活リズムへの影響が大きい
- 興奮したり、落ち込んだりすると夜なかなか寝つけなくなる
- 静かに過ごすことを好む
- うるさい場所、騒々しい空間が苦手
(7)一度決めると、なかなか変えられないところがある
- 完璧主義なところがある
- 白黒はっきりさせたい気持ちが強く、なかなかグレーを認められない
- 正義感が強い(相手のズルいところなどが許せない)
(8)シングルタスクで、多くを受けとめきれない
- たくさんのことを求められると混乱したり、パニックになったりする
- 臨機応変な対応が難しい
- 失敗体験に弱い
どのように受けとめるか
HSCの特性がある子どもを輝かせるためには、その慎重さや共感性や感受性を理解し、その内面世界を言葉で代弁(または翻訳)してあげながら、成功体験を積ませることが不可欠です。
例えば、以下のような関わりが求められます。
- 普段から穏やかな口調・表情を心がける
- 指示や説明を多く伝えないようにする
- その子のペース、いいところ、興味・関心から関係づくりを始める
- 警戒心が発揮されているときは、無理強いせずに、スモールステップで進める
- 「この子にはこの子の世界がある」と本人の感じ方を信じる
- (大げさとか、うそを言っているとか、面倒くさいといった気持ちをもたないようにする)
- 大きな集団が集まる場や初めての活動のときは、遠巻きの参加を認める
- クラス替えなどの際は、十分に本人に説明をする(不登校などのきっかけにもなりやすい)
- 人前での発表では、部分的な参加を認めたり、失敗しないやり方(例えば、メモを見ながらの報告や、自分の席からの発表など)の提案などを行ったりする
クラスの中にいる子どもや、または学校に来ることが難しい子どもの理解に、この「HSC」の考え方がヒントになることを切に願います。
参考文献
明橋大二、HSCの子育てハッピーアドバイス HSC=ひといちばい敏感な子、1万年堂出版、2018年
上戸えりな、HSPの教科書 HSPかな?と思ったら読む本、Clover出版、2019年
苑田純子・高橋敦著、高田明和監修、敏感すぎて困っている自分の対処法、きこ書房、2015年
次回は、教室に不用意に吹かせている「風」について取り上げます。
Illustration: Jin Kitamura