みつむら〝ひと〟クローズアップ
2026年8月4日 更新
光村図書 広報部
このコーナーでは、光村図書の教科書づくりに関わる「ひと」にフォーカスして、その仕事や横顔を紹介していきます。
教科書の顔である表紙のイラストは、どのような思いを込めて、どのような制作過程で描かれているのでしょうか。令和6年度版 小学校国語教科書の表紙を描いてくださったイラストレーター・嶽まいこさんにお話をお伺いしました。
※このインタビューは、2026年6月に収録されたものです。
表紙は世界への入り口——物語を感じる絵
最初にこのお仕事のご依頼を受けたときは、どのように思われましたか。
自分が小学生のときに使っていた国語の教科書が光村さんだったんです。
当時使っていた教科書の表紙の絵の雰囲気や世界観は、ずっと頭の中に残っていて、自分の中では大事な記憶の一つでした。
そんな教科書の表紙に絵を採用してもらうことって、本当にうれしいし、光栄だし、責任も感じました。
嶽さんが子どもの頃に使っていた教科書の表紙の絵は、どのような雰囲気だったのでしょうか。
静かで重厚感のある絵で、吸い込まれていくような空気感があって。不思議な世界観というか、物語を感じてとても好きでした。
※嶽さんが使っていた教科書は、平成4年度版と8年度版(絵: 武宮秀鵬さん)です。
「教科書クロニクル」で見ることができます。
教科書クロニクル 小学校編 | 教科書クロニクル | 光村図書出版
嶽さんが描かれた10枚の表紙も、童話のようなファンタジックな世界観が特徴的です。全体に通底するコンセプトはどのように決めていったのでしょうか。
編集部からは、明るくてワクワクする雰囲気、ちょっとした発見があって、そこから対話が生まれるような、物語を感じる絵にしたいといったお話がありました。
そこから、表紙がさまざまな世界への入り口になっていて、その世界に入っていくような絵にできたらいいなと考えて、「街」をメインテーマにしました。
学年ごとに、さまざまな想像の街を訪れる。
この街には何があって、どんな人々が暮らしているのだろう。この扉の向こうに何があるのだろう。
そういった想像が広がる余地のあるものにしていくために、いろいろな街を描いていくことに決めました。
各巻の副題からイメージを膨らませて生まれた10の街
各巻の街のコンセプトはどのように決めていきましたか。
光村の国語の教科書には、それぞれに「かざぐるま」、「ともだち」といった副題がついています。編集部からは、この副題に関係する要素を絵の中に入れてほしいというご要望をいただいていました。
そこでまずは副題からいろいろなモチーフを連想していきました。
例えば1年上巻の「かざぐるま」だったら、風や雲や空。飛行船や風船。水色。思いつくモチーフを箇条書きにして、そこからイメージを膨らませて、どんな街にしていくかを固めていきました。

1年上巻「かざぐるま」
1年下巻「ともだち」の「本の街」や、3年下巻「あおぞら」の「海の街」は、一見するとすこし意外な感じがしました。
1年下巻「ともだち」は、本を通じて人とつながれたらいいなという思いを込めて、開かれた本の街をイメージしました。外の世界に対して開かれていてほしいと思い、みんなで本と遊んでいる感じを表現しました。
3年下巻「あおぞら」については、1年上巻「かざぐるま」ですでに空の風景を描いていたこともあり、すこし発想を広げて考えています。海の青は空の青を映していると聞いたことがあったので、空と海が青でつながっているような、そんなイメージで「海の街」にしました。
街のコンセプトが決まったあとは、どのように構図を考えていったのでしょうか。
全部の絵に共通して意識したのは、メインとなるモチーフ、その街の主人公となるモチーフを一つ決めることです。飛行船だったり、本の家だったり、おもちゃの恐竜だったり、赤い花だったり。そこから全体のモチーフを積み上げていきました。
2年上巻「おもちゃの街」のメインモチーフは恐竜なんですね。
そうですね。大きな生き物が出てくると楽しいかなと、ブロックでできた恐竜を描きました。恐竜って聞くと、子どもの頃、なんとなくワクワクした記憶もあって。
実は最初の案では、ジャングルのような草木を背景にしていたんです。
ですが、モチーフは、ブロックの恐竜や積み木の家などのおもちゃで構成されていたので、編集部との話し合いの中で、外より家の中にあるほうがしっくりくるという話になりました。
ただ、室内になるとどうしても閉塞感が出てしまうので、空を見せるために大きい窓を入れることにしました。絵に奥行きや抜け感を出すということは大事にしていましたね。

2年上巻「たんぽぽ」
10の街の中で、嶽さんの特にお気に入りの1枚はありますか?
どれも好きではあるんですが、ちっちゃいときの自分だったら、4年上巻の「宝石の街」がいちばん好きだったと思います。宝石や石、青色や青紫色が好きだったので、好きなものが凝縮されている絵ですね。

4年上巻「かがやき」
何度見ても楽しめるように——全ての巻に共通する仕掛け
嶽さんは書籍の装画のお仕事も多く手がけられています。今回、普段のお仕事との違いを感じられたことはありましたか?
いちばん大きな違いは、教科書は毎日見られるものだということですね。
児童書の装画もいろいろと手がけてきましたが、毎日見られるというのは本当に初めてのことでした。
なので、毎日見続けることに耐えられる強度というか、ぱっと見てすぐにわかってしまうようなものにはならないように、かつ、要素を詰め込み過ぎてごちゃごちゃした感じにならないようすることを意識して描きました。
子どもたちが飽きることなく、この奥はどうなっているのだろうといった興味がわくようなものを考えて、細かなモチーフを描き込んでいます。
そのような工夫の一つとして、全ての巻に共通して描かれているモチーフがあるのですよね。
そうですね。全ての巻の表紙のどこかに、3種類のモチーフを描き込んでいます。
まず、犬と猫です。親しみやすい動物がいることで、同志というか、「今回もいる」みたいにつながりを感じてもらえるといいなと思って入れました。
あとは星ですね。「6年間集めてきた星が、最後の6年生の表紙で使われている」というストーリーが浮かんで。6年「創造」の「虹の街」のメインモチーフである船をよく見ると、実は全部で10個の星が飾られています。「もしかして、他の巻にもあるのかな」みたいに気づいてくれる子がいたら楽しいなと。

1年上巻「かざぐるま」の表紙に描かれている犬、猫、星
見つけづらい星もありますよね(笑)。
裏表紙や、背表紙のところにある巻が難しいんですよね。難易度も巻ごとに違っています。そんなに簡単に見つけられたくはない(笑)、かといって難しすぎない、ぱっと見ただけではわからないぐらいの感じで描いてみました。
子どもたちを見守っているという思いを込めて
嶽さんが表紙を描いた教科書は、令和6年度から使われ始めました。その後、何か反響はありましたか。
本当にありがたいことに、今までの仕事にはないぐらいの大きな反響がありました。
SNSや個展で、教科書を使ってくれているお子さんや、そのお母さんがメッセージをくれたり、声をかけてくれたり。
いちばんうれしかったのが、あるイベントに出展していたときのことです。お母さんと一緒にいらっしゃったお子さんがいて。お母さんいわく、その子は自分では好きなものをあまり主張しないおとなしい子だったそうなんですけど、珍しく「僕、この教科書の絵が大好きなんだよねー!」と話してくれたのが国語の教科書の表紙のことだったみたいで。お母さんはそれに感激して、「だったら会いに行ってみようか」とそのイベントに連れて来てくださったんです。お母さんから丁寧なお手紙までいただいて、なんて幸せな仕事なんだろうと感動しました。
教科書にサインを頼まれて、もう本人の名前が入っているけど、これどこに入れたらいいんだろうと思いながら(笑)。横にサインさせてもらったのが、とても印象に残っています。
すてきなお話ですね。反響でいうと、先生方に教科書の表紙の秘密を紹介すると、とても盛り上がるという話を編集部から聞きます。まさに対話が生まれるのだとか——。
先生方もそうやって反応してくださるのはうれしいですね。
対話が生まれるというと、6年生の表紙で、それまでの巻に出てくるモチーフが集合することに触れてくださる方も多くいらっしゃいます。
最後の表紙は、「そばにいて応援しているよ」と、子どもたちを見守っているような思いを込めて描きました。

6年「創造」

嶽 まいこ(だけ・まいこ)
イラストレーター
1985年石川県生まれ。金沢美術工芸大学卒業。リクルートのマーケティング局でアートディレクター、同社ギャラリーで企画・制作に従事し2015年に独立。書籍装画、絵本、広告などのイラストレーションを手がけるほか、個展で作品を発表している。おもな児童書に『すきなこと にがてなこと』(新井洋行 作/くもん出版)、『クックククックレストラン』『ステッドのホテル』(くらささら 作/福音館書店)など。
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