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子ども理解の
「そこ大事!」

川上 康則

東京都立矢口特別支援学校主任教諭

子どもたちとの距離を埋めるための大事なポイントを整理して、具体的に解説します。

誰もが「子ども時代」を通ってきたはずなのに、子どもの気持ちが見えなくなるのはなぜでしょうか。それはきっと、大人になるにつれて子どもの頃に抱いていた気持ちとの距離が生まれてしまうからだと思います。教育や子育てでは、子どもをより深く理解することが何より大切だと言われています。本連載では、子どもたちとの距離を埋めるための「そこ大事!」と思えるポイントを整理していきます。

第1回 重要な他者(Significant Others)

2021.04.23

「クラリネットをこわしちゃった」という曲があります。父親からもらったクラリネットの音が鳴らずに「どうしよう」と困惑する歌です。
 タイトルに「壊した」と書かれているため誤解を生みやすいのですが、実はクラリネットは壊れてはいないそうです。

原曲はフランス語で、「オパッキャマラド」の部分は「Au pas, camarade」と表記されます。これは「友よ、一歩一歩行こう」という意味です。
 出したい音階の音が出せずに焦る我が子に向かって、「大丈夫だよ、練習して、一つ一つ音を出せるようになっていこう」と励ます父親の台詞です。

大丈夫だよ、練習して、一つ一つ音を出せるようになっていこう

この「オパッキャマラド」は、子どもたちが期待している大人の関わりの基本です。
 うまくできないことに混乱し、いら立ってパニックに陥ったり、「もういいや」と無気力になったりする子どもたちの気持ちに寄り添いながら、「大丈夫だよ、一つ一つ乗り越えていこう」と歩調を合わせて前に進むような関わりを、子どもたちは求めています。

ところが、学校という場にいると、どうしても、その中で重視される勉強や運動ができるか、対人関係にトラブルがないか、リーダーシップがあるかなど、定まった価値観に沿う子どもばかりが評価されてしまうところがあります。
 また、子育てにおいても、時間に追われたり、周囲の視線に戸惑いを感じたりしながら、うまくいく方法だけを追い求めたくなるときがあります。子どもたちの思いがどこかに置き去りにされたままということはないでしょうか。
 そうした大人側の凝り固まった視点や態度は、もしかしたら子ども一人一人の本来の「音色」を消してしまっているのかもしれません。

子どもの音色が輝くまで、温かいまなざしをもって「大丈夫だよ」と伝えていくこと……、このような役割を果たすことができる存在を「重要な他者(Significant Others)」と呼びます。
 「重要な他者」の存在は、日常生活を送る上での情緒面の育ちを支えます。親や教師といった大人がその大きな役割を果たし、成長していくにつれて友人や恋人なども含まれるようになっていきます。そのような出会いを経て、子どもの内面が築き上げられていきます。
 人が、自分とは何かを見つめ、築き上げていく過程では、周りの環境やそこから得られる情報が大きな影響を与えます。
 その影響の大きさを考えると、安心感や信頼をもたらす「重要な他者」との出会いは子どもたちにとっての「心の発達の栄養」と言っても過言ではありません。人との出会いによって、子どもは育っていくのです。

今、子どもを取り巻く人間関係の中に「重要な他者」はどれだけ位置づけられているでしょうか。

Illustration: 熊本奈津子

川上 康則

1974年、東京都生まれ。東京都立矢口特別支援学校主任教諭。公認心理師、臨床発達心理士、特別支援教育士スーパーバイザー。立教大学卒業、筑波大学大学院修了。肢体不自由、知的障害、自閉症、ADHDやLDなどの障害のある子に対する教育実践を積むとともに、地域の学校現場や保護者などからの「ちょっと気になる子」への相談支援にも携わる。著書に、『子どもの心の受け止め方』(光村図書)、『〈発達のつまずき〉から読み解く支援アプローチ』(学苑社)など。