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第12回 物事の受け止めが極端な子 ――認知の歪み(Cognitive Distortions)

子ども理解の 「そこ大事!」

2022年4月26日 更新

川上 康則 東京都立矢口特別支援学校主任教諭

子どもたちとの距離を埋めるための大事なポイントを整理して、具体的に解説します。

第12回 物事の受け止めが極端な子
――認知の歪み(Cognitive Distortions)

物事の受け止め方が極端なケース

皆さんの周囲に、物事を極端に受け止めてしまう子どもはいませんか?
具体例として六つのエピソードを挙げながら考えてみましょう。

〈例1〉
一般的に考えると、ちょっとした不快感やイライラくらいを覚える程度の状況で、「最悪!」「最低!」「ムカつく!」「死ね!」「(対象に対して)消えてなくなれ!」というくらいまで言い切ってしまう。

〈例2〉
一般的に「BよりもAのほうがよいかな」と考える程度の状況で、「Aにすべき」「Aでないのはおかしい」「Aでなければならない」「Aになって当然」などと、「Aしかありえない」という考えを示す。

〈例3〉
勝ち負けや優劣が決まるような取り組みについて、「どうせ負けるからやらない」「一度ダメだったからもう二度としない」「自分ばかり嫌な気持ちになる」などと決めつけてしまう。

〈例4〉
別の子どもが褒められているのを見て、「あの子と同じようにすればいいんだな」と学んだり、「あの子と同じレベルは無理だけど、自分なりにがんばればいい」と気持ちを切り替えたりすることができず、「ずるい!」「自分はちっとも認めてもらえていない」「自分は否定され続けている」などと、相手や教師を責めるような発言をする。

〈例5〉
けんかなどのトラブルの原因について、周囲は双方に問題があったと感じている状況でも、自分の非をいっさい認めずに、「あいつが〇〇だったから」「あいつは許せない」「あいつは制裁を受けるのが当然」「自分は正しいことを言っている」「どうして正しいことを言っているほうが謝らなければならないんだ!」などと、主張を譲らない。

〈例6〉
一度落ち込んでしまうと、「またみんなに迷惑をかけてしまった」「自分がグループに入るとみんなつまらなさそうにする」「自分は本当にダメな人間だ」「こんな自分は生きている価値がない」などと、自分自身に向けた否定的な気持ちをなかなか覆すことができない。

これらのエピソードには全て、「物事の極端な受け止め」が関係しています。このように、物事の感じ方や受け止め方が極端であることを「認知の歪み」(Cognitive Distortions)といいます。

認知の歪みがあるときの特徴的な思考パターン

認知の歪みは、以下のような10の思考パターンを特徴とします。

  1. 全か無かの思考:物事を「白か黒か」「0か100か」で極端に考えてしまう。
  2. 行きすぎた一般化:少しのことでも「完全にこうだ」と言い切ってしまう。
  3. 心のフィルター:わずかな、よくない側面にこだわって、その物事や相手自体を受け付けなくなってしまう。
  4. マイナス化思考:よかったことへの関心が薄く、悪いエピソードばかりにすり替えてしまう。
  5. 結論の飛躍:根拠はないが、悲観的・否定的な予測をしてしまう。
  6. 過小評価・過大評価:自分の失敗や短所を過大に考え、長所や成功体験は過小評価してしまう。あるいは他者の成功ばかりを過大評価し、「自分は何もできない、劣っている」と考えてしまう。
  7. 感情的な決めつけ:相性が悪い相手を「嫌なやつ」と決めつけたり、周囲の助言があっても否定的な感情を覆せなかったりする。
  8. “すべき”という思考:自分の中の絶対的思考をもとに「~すべき」と考えたり、「すべきこと」をしていない相手を許せなかったりする。
  9. レッテル貼り:ネガティブな体験から、物事や相手に「役立たず」「ゴミ」「人として最低」などといった極端に否定的なラベリングをしてしまう。
  10. 誤った自己責任化(個人化):誰にも責任がない場合であっても、全てを自分のせい、あるいは全てを誰か(他者)のせいだと考えてしまう。

このように思考パターンを整理していくと、前述の六つのエピソードの背景も理解できます。物事を極端に受け止めてしまうことが原因だとわかれば、本人が、少なくとも悪気があって「くそ」「最悪!」「おまえのせいだ」などと言っているわけではないということも理解できます。

感じ方は人それぞれ、行動に働きかける

自分の認知の歪みに気づき、修正することを「認知再構成」といいます。認知再構成は、他者から「あなたのそういうところは認知の歪みだ」と押し付けられたり、「修正しなさい」と迫られたりしてもうまく進みません。
特に、軽度の知的障害があり、さらに認知の歪みもあるといった場合には、自分自身を客観視することが非常に難しく、周囲との受け止め方の違いや自分自身の思い込みを認識することは困難を極めます。

そこで、まずは「そんなふうに感じたんだね」「そう受け止めたんだね」と、その子なりの受け止め方にスポットを当てて共感するようにしてみましょう。そのうえで、行動については「別の選択肢もあるのではないか」と提案していくようなやり方を取るようにします。
長期的な視野に立って時間をかけながら、その子が、「自分とは少し程度が異なる感じ方が存在すること」や、「相手はまた別の受け止め方をしていること」に気づいていけるとよいと思います。

なお、認知の歪みは子どもだけでなく、大人にも見られます。教師や保護者の中にも、思い込みや決めつけが激しい人はいるでしょう。
認知面が、感情面の不安定さ(不安・心配が人一倍強かったり、怒りやイライラをうまくコントロールできなかったりするなど)につながることも少なくありません。今回の記事が、子どもとの間だけでなく、大人どうしの間での理解の溝を埋めるような関わりの糸口にもなることを願っています。


本連載は今回が最終回です。1年間、どうもありがとうございました。この「子ども理解の『そこ大事!』」は、主に発達心理学のキーワードを取り上げながら、子どもと向き合う全ての方々に大切な視点をお伝えすることを目的として始まりました。

最近は、教育現場で心理学的な知見を活用することへの関心が高くなり、「〇〇効果」や「〇〇法」などを紹介する書籍も散見されるようになりました。しかし、「すぐに使えるテクニックを身につけて、手っ取り早く子どもを操作しよう」といった小手先の目論見は、すぐに子どもたちに見破られます。

本連載には、すぐに使えるようなものは多くはないかもしれませんが、子どもたちが求める理解の本質に迫るように努めました。末永くお読みいただければうれしいかぎりです。

今日の「そこ大事!」

  • 物事の感じ方や受け止め方が極端であることを「認知の歪み」とよぶ。
  • 認知の歪みには特徴的な思考のパターンがある。感じ方や言動の背景にある思考パターンを知ることで、本人に悪気があるわけではないことが理解できる。
  • 認知の歪みに気づき、修正することを「認知再構成」という。認知再構成を迫ったり、押し付けたりするのではなく、受け止め方にスポットを当てて共感しつつ、別の行動の選択肢を示していくようにする。そして時間をかけて気づいていくことを目ざすとよい。

〈参考文献〉

松浦直己 著『教室でできる気になる子への認知行動療法 「認知の歪み」から起こる行動を変える13の技法』中央法規出版(2018年)

David D. Burns 著、野村総一郎 監訳、関沢洋一 訳『フィーリングGoodハンドブック』星和書店(2005年)p.126

本連載は、今回が最終回です。ご愛読、ありがとうございました。

Illustration: 熊本奈津子

川上 康則

1974年、東京都生まれ。東京都立矢口特別支援学校主任教諭。公認心理師、臨床発達心理士、特別支援教育士スーパーバイザー。立教大学卒業、筑波大学大学院修了。肢体不自由、知的障害、自閉症、ADHDやLDなどの障害のある子に対する教育実践を積むとともに、地域の学校現場や保護者などからの「ちょっと気になる子」への相談支援にも携わる。著書に、『子どもの心の受け止め方』(光村図書)、『教室マルトリートメント』(東洋館出版社)、『〈発達のつまずき〉から読み解く支援アプローチ』(学苑社)など。

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