みつむら web magazine

第21回 古典を深める(1)――「旅に生きる~おくのほそ道~」

そがべ先生の国語教室

2017年4月13日 更新

宗我部 義則 お茶の水女子大学附属中学校副校長

30年の教師生活で培った豊富な実践例をもとに、明日の国語教室に役立つ授業アイデアをご紹介します。

第21回 古典を深める(1)
――「旅に生きる~おくのほそ道~」

先月、学年主任として3年間見守ってきた3年生たちが旅立っていきました。春は旅立ちの季節でもありますね。
さて今回は、第18~20回に引き続き、古典シリーズです。古典学習を「深める」というのをテーマにしてみます。

「深める」と言えば、「主体的・対話的で深い学び」というのが、新しい学習指導要領のキーワードの一つです。「主体的・対話的」までは、子どもの姿としても授業の工夫の仕方としてもイメージしやすいのですが、「深い学び」というのがなかなか難しく、そして大切な部分ですね。
「深い学び」というのはどういうものか、どうしたら「深い学び」に至るのか。古典学習の事例を取り上げながら、そんな視点も含めて本稿を書いてみます。

「学習指導要領」改訂の動きの中で要請されたことの一つに、「現代の文化・社会の在り方や日本人としての生き方等にもつながる古典の学習の充実」があります。そのためには、古典の文章を理解し読み味わうだけでなく、現代の文化や社会と対照して考えたり、自分自身の考え方や生き方と結んで意味づけたりすることが大切になると考えます。

私は、「古典学習」では「共感体験(=「今も昔も変わらない」という感動)」と、「異化体験(=「その時代はこんなふうだったのか」という発見)」とが大切と考えますが(第18回参照)、そうした学習体験を通して、今を生きる自分や現代の社会との関わりにおいて古典作品の意味づけ・価値づけができると、古典学習の意義が実感され、作品理解も一層深まるのではないかと考えています。

「旅に生きる~おくのほそ道~」では、「おくのほそ道」という古典作品を中心において、芭蕉や日本人の「旅」を考えたり、そのことを通して自分や日本人の感じ方や考え方を見つめてみたりする学習体験の成立を目ざしました。ごく概略をお示しすると、次のような学習材・展開で行いました。

学習材

(1) 「おくのほそ道」の本文と対訳
ア. 「序」「平泉」教科書教材
イ. 「『おくのほそ道』ところどころ」というプリント(自作)
※「旅立ち」「草加」(旅立ちの思い)、「日光」「遊行柳」「白河の関」(古人・古歌との交流)、「須賀川」(地元俳人との交流)、「松島」「平泉」(俳枕の創出)、等を抜粋した全訳対照のプリント

(2) 「評論文」
ウ. 「旅を旅する」森本哲郎 (『おくのほそ道行』 平凡社 1984年)
エ. 「旅する心とは」佐佐木幸綱 (佐佐木幸綱他 『芭蕉の言葉―「おくのほそ道」をたどる』 淡交社 2005年)

(3) 「芭蕉の言葉」
オ. 「きのふの我に飽くべし(旅寝論)」他の芭蕉の弟子への指導言をいくつか紹介。

学習展開(全9時間)

第1時 旅人と我が名呼ばれん(「旅」と芭蕉)

  • 「旅」のイメージ(旅と旅行の違いの検討)
  • 「おくのほそ道」はどんな作品か

第2時 月日は百代の過客(序章を読む)

  • 旅への思いや旅の目的を読み取る。

第3時「おくのほそ道」に対する評論を読む

  • 「旅を旅する」を読んで森本氏の論について検討する。

第4時「おくのほそ道」ところどころ

  • 全訳を読んで芭蕉の旅について考える。

第5時「旅する心とは」を読む

  • 古典の一節を引用しながら論じるという二つ目のモデル(一つ目は森本氏の文章)。

第6時 文章の構想を立てる

  • 芭蕉の言葉を読み、彼の考え方にふれる。
  • 「評論・批評・随想」など文章のスタイルを選択して構想を立てる。

第7・8時「評論・批評・随想」を書く

  • 構想をもとに材料を活用して執筆する。

第9時 お互いの文章を読んでコメントし合い、学習のまとめをする


この単元では、「おくのほそ道」を読んで「旅」に対する気づきや感想、自分の考えなどを書く、という学習を行います。上のような「学習材」を用意したのは、古典を読みながらその一部を引用しつつ自分の考えをまとめるという言語活動がとても高度なものなので、その支援のためです。

次回は、支援の具体的な内容をご紹介します。

宗我部義則(そがべ・よしのり)

1962年埼玉県生まれ。お茶の水女子大学附属中学校主幹教諭。お茶の水女子大学非常勤講師、早稲田大学非常勤講師。平成20年告示中学校学習指導要領解説国語編作成協力者。編著書に『群読の発表指導・細案』(明治図書出版)、『夢中・熱中・集中…そして感動 柏市立中原小学校の挑戦!』(東洋館出版社)、『中学校国語科新授業モデル 話すこと・聞くこと編』(明治図書出版)など。光村図書中学校『国語』教科書編集委員を務める。

関連記事

記事を探す

カテゴリ別

学校区分

教科別

対象

特集