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第23回 説明文の読みの学習をもっと楽しく――「ダイコンは大きな根?」(1年)

そがべ先生の国語教室

2017年5月23日 更新

宗我部 義則 お茶の水女子大学附属中学校副校長

30年の教師生活で培った豊富な実践例をもとに、明日の国語教室に役立つ授業アイデアをご紹介します。

第23回 説明文の読みの学習をもっと楽しく
――「ダイコンは大きな根?」(1年)

説明的文章の読みの学習というと、いつも、段落の関係、段落の要点、指示語の内容、要旨……そんな用語が頻出するパターンにはまっていませんか? 私自身かつてはそうでした。でも、そもそも「説明文を読むおもしろさ」って何だろう?と考え、「知らない世界、知識にふれる楽しさ」なんじゃないかなと思ったとき、内容がわかる楽しさを前面に出して学習を展開した方がおもしろいんじゃないかと気づきました。

当然のことながら、読みの学習は「教材を」ではなく「教材で」言葉や読み方を学んでいけるようにするものですが、文章構造(形式面)や読解のしかた(技能面)を学んでいくのに、それらをむき出しにするのではなく、「初めて知る楽しさ」「知識が広がる楽しさ」につながる「内容がわかること」を前面に出しながら、言葉の使い方や読み方のコツなどをその中で経験し学んでいく形へと工夫してみようということです。
1年生の学習材である「ダイコンは大きな根?」を例にしてみましょう。こんなふうに展開しました。

  • 今回ご紹介する実践事例は、3年前に平成24年度版教科書を使って行ったものです。平成24年度版教科書と、現行版(平成28年度版)教科書では、本文の一部と段落構成が変わっています。現行版と異なる部分は、適宜、赤字で補足説明を入れますので、ご留意のうえ、お読みください。

第1時

1.題名読み

「ダイコンは大きな根?」というタイトルは、読者に問いを投げかけていて目をひきます。読みの学習では「早く読んでみたい」「中身が知りたい」と思わせたら成功。ここはオーソドックスに題名読みで関心をもたせます。
「ダイコンは、漢字で『大根』と書くけど、私たちが食べている白いところはダイコンの大きな根なのか? という問いですね。どう思いますか?」と問いかけました。そしてひとしきり話し合った上で、「その問いの答えを見つけながら読んでみましょう」と誘って通読することを告げます。
このとき、「読みながらあと二つやってほしいことがあります」と次の二つの課題を提示しました。

(1) 読んで初めて知ったことに線を引く。
(2) おもしろかったか、わかりやすかったか、という観点で、10点満点で文章を採点する。

生徒たちは二つ目にびっくりしました。「え? 教科書の文章を採点しちゃっていいんですか?」というので、「思った通り点数を付けてみて!」というと、いっそう読む意欲が高まったようです。

2.課題読み

【課題1】 題名読みの答え
通読してさっそく題名の問いの答えを話し合います。
この教材ではあまりズバリの形で書かれていないので、要点を捉えて問いに対する答えの形にまとめる必要があります。例えば、次のような形です。

「ダイコンは大きな根と書くが、実は、根は白い部分の半分から下の方だけで、上の方は胚軸というダイコンの茎にあたる器官である。」

  • 現行版の教科書では、4段落に「(つまり)ダイコンの白い部分は、根と胚軸の二つの器官から成り立っているのです。」とズバリ答えになる部分があります。

生徒たちそれぞれがいろいろなまとめ方をしますが、「半分から下が根、上は茎(胚軸)」という要素がきちんと押さえてあればよしとします。
実は、これが文章の要旨の骨ですね。問いの文に対する答えを探して読むというのは、小学校でも何度も経験してきた読み方です。ですから生徒たちは簡単に答えを導き出します。1年生の最初の説明文ですから、「さすがですね!」と褒めて自尊心をくすぐっておきましょう(笑)。

【課題2】 「初めて知ったこと」の共有
次に「読んで初めて知ったこと」を出し合います。段落に番号をふらせ、「第1段落で初めて知ったことがありますか?」と順に聞いて、あれば発表させます。
生徒たちから出たのは例えば、次のような点です。

  • 3段落 ダイコンの食べている部分は根だけでなく、上の方は茎だということ。
  • 5段落 胚軸の部分は水分が多く甘い。→ 胚軸は根で吸収した水分や葉で作られた糖分を運ぶから。
  • 6・7段落 根の部分は辛い。→ 大切な栄養分を土の中の虫に食べられないように。
  • 7段落 辛み成分は、ふだんは細胞の中にある。→ 細胞が破壊されると辛みを発揮する。
  • 8段落 上と下を使い分けると辛い大根下ろしや甘い大根下ろしが作れる。
  • 8段落 強く直線的に下ろすと細胞が壊れて辛みが増し、円を描くように下ろすと甘くなる。
  • 上記の段落番号は、平成24年度版教科書によります。

誰かが発表すると、「それ、うちのお母さんは知ってた!」などと発言があって、ひとしきり盛り上がりました。全員が「初めて知った」でなくても、○○さんにとっては初めてだったということで認め合うことにし、板書していきました。
お気づきでしょうか。これらはほぼこの文章の要点です。生徒から出されるたびに板書していき、生徒たちもそれをノートに写していきます。段落ごとの要点をまとめろというとうんざりする生徒たちですが、何の苦もなく要点まとめをしていきました。
「読んでいて、へぇっと思った部分を整理してみたら、文章の要点がよくわかりましたね。次回は、みんなの採点結果を発表し合ってみましょう。楽しみです。」と第1時を閉じました。

第2時

【課題3】 「採点結果」の共有
「(1)おもしろかったか」「(2)わかりやすかったか」の採点結果を学習班ごとに集計して、報告し合います。それをクラス全体で集計し直すと、あるクラスでは次のような結果になりました。<4クラスとも(1)も(2)もほぼ9点前後>

(1) おもしろかった  8.6点
(2) わかりやすかった 9.1点

そこで、高得点であることを認め、なぜおもしろいと思ったのか、なぜわかりやすいのかを話し合いました。下の板書は、このクラスで出された「わかりやすい理由」です。

画像、板書例

  • 段落番号は、平成24年度版教科書によります。
  • 「~を見ながら考えてみましょう」とカイワレダイコンを対照しているからわかりやすい。
  • 「……甘いのが特徴です。いっぽう……辛いのが特徴です。」のように、文末をそろえてあるから読みやすい。
  • 3段落でダイコンの仕組みの説明をして、4段落で「なぜ?」とつないで、6段落で説明。この展開が上手い。

などなど、さまざまな「わかりやすさの秘密」が指摘されました。ここも小学校での学習経験が生きていると言えるでしょう。たくさんのわかりやすさが出たところで、「今回は、この文章を読んで初めて知ったことがいろいろあったし、わかりやすい説明のコツもたくさん見つけましたね。ではこれで「ダイコンは大きな根?」の学習を終わります」というと、生徒たちはまたびっくり。「え? 2時間しかやってませんよ」と。

「もっとやりたいですか?」と冗談のように返しながら、

「内容も書き方もいろいろなことがわかったけど、いろいろわかると、もっと知りたいと思ったり、ではこういうのはどうなんだろう? と疑問が湧いてきたりすることがありますよね。何か勉強して一つのことがわかるということは、別のわからないことが生まれてくることでもあります。今回は野菜のしくみの話でしたが、もっと知りたくなったことありますか?」

と投げかけました。すると「文章の最後にもあったけど、他の野菜はどうなんだろう? と思った。」という子がいたので、これ幸いと取り上げて、

「ダイコンとよく似た、ニンジンやカブはどうなんだろうね。ダイコンと同じかな?」

と投げかけました。生徒たちもいろいろに予想します。ニンジンは形も似ているから同じだと思う。カブは下の方にひょろっとした根っこみたいなのがあるからそこだけ根ではないか。
そこで「次の時間に調べてみよう」と投げかけて、第2時を閉じました。

第3時~第5時 「読む」から「書く」へつなぐ 

スライド(下写真)を示して、新しい課題を与えます。

画像、スライド

  • ミッション1 ニンジンとカブのつくりについて調べる。
  • ミッション2 調べてわかったことを家族に説明する文章を書く。

生徒たちは、作文を書くと聞いた瞬間に「え~!」と反応。そこで、今回は「なりきり作文」というやり方で書くことを話しました。
「なりきり作文」というのはつまり、筆者の文章をそっくりまねして書くのです。まねというより、使える部分はそのまま使ってかまいません。筆者の文章を一種のテンプレートのようにして、必要なところだけ書き換えていくつもりでもよい。そんなふうに説明しました。生徒たちも初めての試みにおもしろそうという反応に変わりました。ここからは、各過程の様子をごく簡単に紹介します。

インターネットで調べる

iPadを使ってネット検索で調べました。最初はどんなキーワードで探したらよいか見つからない生徒も少なくありませんが、しだいに情報を見つけて共有していきました。「え? そうなんだ!」「おもしろい!」と、ダイコンとはまたちがうニンジンやカブの作りに、驚いたり予想があたったと喜んだり(これをお読みの先生方も、ご自身で探してみてください。きっとおもしろいと思いますよ)。

ともあれ、「伝えたい」と思う内容を見つけた生徒たちは、「書く」ことへの抵抗などすっかり忘れてしまった様子。そう、人はもともと「伝えたい生き物」なのです。

構想を練る・下書きする

調べてわかったことを材料にしてニンジンとカブの仕組みを説明する文章を書きます。ふだんの構想段階と少し違うのは、生徒たちが何度も教材文を読み直し始めること。まねた文章にするために、そのまま使えそうな部分を考えたり、言い回しを参考にしたりするために誰に言われずとも何度も何度も読み直しをし始めるのです。

ところで……、生徒たちは教材文を下敷きにして使える部分をそのまま使ってまねっこ作文をしようとしますが、実はここで一つ仕掛けをしていました。ニンジンとカブという二つの野菜を取り上げさせているため、一つの野菜を取り上げた教材文をそのまま真似するだけでは書けないのです。「ニンジンは……カブは……」と、両者に触れて書かなければならないからです。こうした一工夫で、生徒たちはまねをしているつもりで、ところどころにオリジナルの文章を創出していくことになるのです。(ただし、逆に教材文ではダイコンの上下を比較するときに使った「○○は……、いっぽう△△は……」という言い回しが、「ニンジンは……いっぽうカブは……」というふうに使うことも予想できますね。)
さて、だいたい構想が立ったらノートに下書きをします。

清書および完成作品例

レポート用紙にペンで清書し、色画用紙の台紙に貼り付けます。
単に作文を書いて清書するというだけでなく、台紙に貼り付けることで一つの「作品」を作る意識になれますね。台紙は裏側を表紙として折って見開きの本の形にしました。
当然、この作品は展示します。この年は、文化祭の教科展示コーナーに展示しました。「主体的な学び」がキーワードになっていますが、こうしたちょっとした工夫で「本物」になっていくのです。
生徒の参考作品例を示します。

生徒作品

おわりに

説明文の読解指導では、「段落相互の関係」や「要点のまとめ」などを学ぶ機会があってよいのは言うまでもなく、そうした指導を否定するのではありません。しかしいつもいつもそれではいろいろな未知の知識や認識に出会えて楽しいはずの説明文の読みの学習が、退屈で面倒くさいものになってしまいます。

中学校3年間で、できるだけいろいろなバリエーションを体験すること。そしてその一つ一つが本物感のある表現活動と結びながら「読む必然性」のあるものになるようにしていくように工夫すること。
説明文の学習はまだまだ楽しくなりそうですね。

次回は、「星の花が降るころに」(1年) を使った実践をご紹介します。

宗我部義則(そがべ・よしのり)

1962年埼玉県生まれ。お茶の水女子大学附属中学校主幹教諭。お茶の水女子大学非常勤講師、早稲田大学非常勤講師。平成20年告示中学校学習指導要領解説国語編作成協力者。編著書に『群読の発表指導・細案』(明治図書出版)、『夢中・熱中・集中…そして感動 柏市立中原小学校の挑戦!』(東洋館出版社)、『中学校国語科新授業モデル 話すこと・聞くこと編』(明治図書出版)など。光村図書中学校『国語』教科書編集委員を務める。

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