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学習者用デジタル教科書を使ってみてわかったこと、変わったこと 【第4回】

学習者用デジタル教科書を使ってみて

2021年4月23日 更新

鈴木 秀樹・谷川 航 鈴木 秀樹:東京学芸大学附属小金井小学校教諭・東京学芸大学非常勤講師。谷川 航:東京都小平市立小平第三小学校主任教諭。

令和3年度から、文部科学省の学びの保障・充実のための学習者用デジタル教科書実証事業において、学習者用デジタル教科書の活用が、全国の半数近くの学校で始まります。そこで、以前から国語科の学習者用デジタル教科書を継続的に活用しているお二人に話を伺いました。

鈴木 秀樹

鈴木 秀樹

東京学芸大学附属小金井小学校教諭・東京学芸大学非常勤講師。慶應義塾大学大学院社会学研究科教育学専攻修士課程修了。マイクロソフト認定教育イノベーター。トランペット、CAI、村井実、I・イリイチ、サウンド・エデュケーション、対話型鑑賞、学級内SNS等々、これまでに関心を持って行ってきた全ての経験を、勤務校に着任してからの「ICT×インクルーシブ教育」に繋げて研究と実践に取り組んでいる。

谷川 航

谷川 航

東京都小平市立小平第三小学校主任教諭。東京学芸大学教職大学院教育実践専門職高度化専攻教科領域プログラム(情報)修了。初任校の東京都立北養護学校(現 東京都立北特別支援学校)病院訪問学級にて難病で治療中の子どもたちと情報機器を活用しながらベッドサイド学習を行なってきた経験が現在の研究に結びついている。漫画が趣味。蔵書が部屋に置ききれなくなり、デジタル教科書の影響もあって最近はもっぱら電子書籍に。

4.デジタル教科書を使いこなす

先生方の課題の設定が素晴らしいのではないでしょうか?
  子どもを動かす課題設定ができるから、デジタル教科書で、より能動的に動いた、というふうに感じました。
  課題設定のところで先生方が気をつけているところはありますか?
 

鈴木 子どもたちの心に引っかかったところをなるべく拾うようにしています。授業が終わった後、振り返りをForms(※)で取るのですが、その中で、多くの子が書いていたことだけでなく、1人しか書いてないけれどこれはみんなにひっかかるのではないかな、というところを見付けるところがポイントだったでしょうか。

  ※FormsはMicrosoftのアンケートツール。
Microsoft、Microsoft Formsは米国Microsoft Corporationの米国およびその他の国における登録商標または商標です。

 

子どもたちに眠っている、そういったところをうまく吸い上げて課題に繋げていくって言う感じでしょうか。
 

鈴木 初期はそうですね。ただ、6年生教材の「やまなし」の例でお話ししたように、最後は子どもたちのほうから「クラムボンがなんなのかやりたいんだよ」って言われるようになってきて。Formsの中から探してっていう手間も要らなくなっていきますね。最初の方は、子どもたちの中にある心のひっかかりみたいのを見つけてあげるのがポイントだったのかなと思います。例えば、同じ6年生教材の「海の命」だったら、「なぜクエを撃たなかったのか」という課題が定石じゃないですか。それで、昔やってうまくいった記憶があったから、デジタル教科書でも何の疑問をもたずにやってみたらうまくいかなかった。微妙にデジタルでやっていたこととずれていた。そこがはまっていないと、今までうまくいったからって、うまくいかない。今、「海の命」で気になっているのはここ、という鉱脈がありそうな課題をみつけて、みんなで考えていくっていうのがポイントかもしれません。

 

学習指導要領にも出ている「切実な課題をもってくる」ってことですよね。自分で登りたい山を作ってあげる。
 

鈴木 その単元を貫く中心テーマが見つかると楽だなって言うのはありましたね。5年生教材の「カレーライス」をやったときに、おとうさんと息子とどっちに共感できるかっていうのを、最初に読んだときにもめたんですよ。息子のほうに共感ができるって言う方が多かったんだけど、お父さん組にわりと弁が立つ子がいて、もめました。じゃあ、それを読み進めながら考えていこうか、となって、毎回の終わりにどっちに共感できるのかを聞いていったことがありました。それがだんだん変わっていって、最後は、どっちも同じくらいだなっていうのが一番多かったのですが、変化をみんなで共有しながら読んでくような統一テーマが最初に見つかると楽ですね。「海の命」だったら、太一に一番影響を与えたのはだれか、など。そういう大きなテーマがあると、子どもたちは必死に読むんですよ。国語としては邪道かもしれないですけど。

 

谷川先生は昨年度、別のクラスのサポートをしていましたが、どうでしたか?
 

谷川 そのクラスも、すごく国語が楽しそうでした。業者テストですが、国語だけ学力上がってきて、テストでも最初から答えることを放棄する子どもが以前は一定数いたんです。それが全然いなくなった。間違えているとしてもなんか書く、やってやる、みたいな。無回答がほぼゼロになりました。デジタル教科書を使っていないクラスは、無回答多いんですよ。そこは大きな違いだと思います。今年度は2年生を担任していて、「お手紙」の音読をやっていますが、もう「お手紙」の授業が終わりなのかって授業中泣いてる子もいて。「お手紙」の授業はグループで音読を録音しながら授業を進めたんです。かえるくんがかたつむりくんのところに走っていく場面では、最初「ダダダ」っていう本物の足音入れよう」とか、「カエルって走らないよね。ピョンピョンって」とか。ここは自信たっぷりに読んだ方が良いのかとか、いろいろと深いところまで話していて、教科書の学習ページに音読の事例が書いてあるけど、それよりもだいぶこだわってやったのかな、という気がします。

 

同じ活動をしても紙の教科書と違ってくる?
 

谷川 こんなに音読発表会で盛り上がったことはなかったですね。教科書本文に「ゆっくり」とか「つよく」とか音読のスタンプものすごく押してましたよね。

 

オンラインや家庭学習での活用の可能性はいかがでしょうか。
 

鈴木 凝る子たちにとっては時間がいくらあっても足りないです。だから宿題と言うより、家でも続きができるという環境は、すごく嬉しいでしょうね。

谷川 デジタル教科書で学習するようになって保護者の方もこんなに音読が変わるのかって驚かれてるんです。家でも音読して録音したり、書き込む活動が家庭学習に入るとなると宿題だからイヤイヤやるということではなく、楽しんで取り組むと思います。うちのクラスでは音読をもっとやらせろということで、1年中「お手紙」をやりたいって言ってくるんだけど、そうはいかないって言ってます。

鈴木 その宿題いいなって思うのは、今、大学の授業で理科専攻の人たちに「初等国語科教育法」を教えているのですが、国語が嫌いだったという学生の理由の第2位が音読でした。音読の宿題を出すとそうなりかねない。音読の切実感があるということで、それはすごくいいなーって思いますね。

谷川 漫然と取り組む音読は退屈ですからね。今は学年全体でデジタル教科書を活用した音読に取り組んでますけど、楽しくて楽しくてしょうがないという感じです。

 

スタンプって、デジタル教科書にスタンプ機能で押して使っているのですか。
 

谷川 はい。最初は、「ここを悲しそうに読む」とか「嬉しそうに読む」とか言ってたんだけど、そういうスタンプがないじゃないですか。悲しく読むためには、高く読むのか低く読むのか、大きく読むのか小さく読むのかを考えさせました。大きく読んだととしても悲しいときもあるし、小さく読んで嬉しいときもあるし、どっちが雰囲気に合うのか、そのことを考える過程で読解活動が入ってくるんですよね。業者テストは全員100点でした。子どもたちが授業で追及していることに比べれば、次元が違うというか簡単すぎるんですよね、他にも、デジタル教科書に収録されている漢字のなぞり書きのアニメーションを朝学習でやってて、日本の子どもたちが長年苦しめられているであろう漢字練習も変わるかもしれない。ノートでの漢字学習も週2回半ページやってますけど、その量だけでもものすごく成果が上がってます。なぞり書きアニメーションで書き順も定着するから字形が美しい。それを毎朝自由にやらせてる。やらない子はいない。習っていない単元も自分で取り組む子がいます。

 

デジタル教科書を使っていない先生がいたとして、授業がなかなかうまくいかないって悩んでたら、何から始めたら良いってアドバイスしますか?
 

鈴木 デジタル教科書の間違わないはじめの一歩ですか。「要約」でしょうか。子どもたちが試行錯誤することを実感できると先生たちも変わるかな、といういう気がするのですよ。その意味ではマイ黒板の要約か、本文に線を引かせての要約かのどちらかでしょうか。

谷川 同じかな。サイドラインとか総ルビとか。授業がスムーズになって、マイ黒板が使えるようになれば楽しいかなと思います。それで、子どもたちがこんなに前のめりに授業に取り組むんだっていうことが実感できれば、変わってくるんじゃないかな。

先生方はご自分のクラスで使っていましたが、全校で使い始めたらどうなるでしょうか?
 

鈴木 ちょっと時間はかかるかもしれませんが、授業イメージが変わってほしいなと思いますよね。附属小金井小の先生たちは元々子どもたちから色々引き出す授業をやるのに長けているからそんなに大変じゃないかなとは思いますけど。でも、今までやってこなかった先生たちには抵抗も大きいと思うので、そこはうまく変わっていってくれるといいな、と思っています。

谷川 子どもたち主体の授業っていうのを大学生の頃にたくさん見せてもらった。あれをやりたいな、っていうのが自分の根底にあったんですよね。そんな目標がある人は授業が大幅に変わると思います。逆にそういうイメージが無い人は、目指すものが無いと、難しいのかもしれない。でも、子どもたちがガーっと話し合って、考えが練り上がっていくのを見ると、先生たちは嬉しいんじゃないかな。みんながそうなれば国語力は全国でアップして…学校はもっと魅力的な場所になると思います。

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