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『ココロノナカノノノ』刊行記念 戸森しるこ特別エッセイ

ココロノナカノノノ

2023年9月1日 更新

光村図書 出版課

母の妊娠と家族、中一少女の心の模様を描いたYA小説『ココロノナカノノノ』に関する情報をお届けします。

「フタリノノノ」戸森しるこ

今から数年前、わたしが児童文学作家としてデビューした頃だったと思いますが、「のの」という名前の小さな女の子と、とあるカフェで偶然会ったことがあります。お母さんと一緒に食事をしていました。「のの」という名前の響きがかわいらしく、漢字の選び方もめずらしくて個性的で(ここでは念のため平仮名にしますが)、印象に残りました。いつか「のの」という名前の女の子を書きたいな、と思いながら、持ち歩いていたノートに、その名前を書きとめました。

そうして時は流れ、「飛ぶ教室」から連載依頼をいただきました。思いついた作品タイトルは、「ココロノナカノノノ」です。野乃という名前は、主人公である姉の寧音よりも先に決まっていました。漢字は変えましたが、あの子の名前と同じ「のの」。物語のキーになる、とても大切なキャラクターです。

連載を開始して一年が経過したある日、その奇跡は起こりました。

それはちょうど「飛ぶ教室」の編集者さん宛にメールを書いていた時でした。部屋でつけていたテレビから、あのカフェのある町の映像が流れはじめたのです。「おお!」と思いながら、画面に注目しました。街角でインタビューをした相手の家についていって取材するという人気番組で、駅前でインタビューされているのは、小学校高学年くらいの女の子と、そのおとうさん。しばらくぼんやり見ていましたが、「ん? んんん??」となり、思わず立ち上がってテレビに近寄るわたし。

「のの」って言ってる!! あの子だ……!!!

こんな偶然ってあるでしょうか。すごい。小さな頃に一度会ったきりなので、さすがにお顔では分かりませんでしたが、お名前の漢字が特徴的だから気がつきました。テレビ越しの運命の再会です。わぁ、ずいぶん大きくなったのね。もうすぐ中学生じゃない。あなたのお名前との出会いから、この物語が始まりました。どうもありがとう。でも、亡くなっている子の名前にしちゃってごめんね。こんなことなら姉の名前を野乃にすればよかったかしら。でも「ココロノナカノネネ」より「ココロノナカノノノ」の方が絶対おもしろそうなのよ。わたしは中学生の野乃を書くことができなかったけれど、あなたはどうか素敵な中学校生活を送ってね。

どこかにこの話を書きたいと思っていました。
あの子が読んでくれたらいいなぁ~。

『ココロノナカノノノ』もくじ 画像
『ココロノナカノノノ』もくじ

戸森しるこ(ともり・しるこ)

児童文学作家

1984年埼玉県生まれ。児童文学作家。『ぼくたちのリアル』で講談社児童文学新人賞、児童文芸新人賞、産経児童出版文化賞フジテレビ賞受賞。『ゆかいな床井くん』で野間児童文芸賞受賞。

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