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スペシャル対談 森絵都×長崎訓子 [中編]

「飛ぶ教室」のご紹介

2017年2月24日 更新

「飛ぶ教室」編集部 光村図書出版

児童文学の総合誌「飛ぶ教室」に関連した企画をご紹介していきます。

スペシャル対談「漫画と小説」 森絵都×長崎訓子 [中編]

特別編集長シリーズ第4弾「飛ぶ教室48号」発行を記念したスペシャル対談。長崎編集長のお相手は、『カラフル』(理論社・1998年)や、毎日中学生新聞に連載していた、不思議な旅をめぐるお話「Further sight 旅のかけら」(※)でご一緒し、以来、親しくされている作家・森絵都さん。
3回に分けてお送りしている今回は、中編。森さんの書く世界や「14歳」のこと、漫画の強みのお話です。

※2000年に理論社より短編集『ショート・トリップ』として発行。現在は集英社みらい文庫などで読める。

画像、森絵都・「飛ぶ教室48号」
左/「14歳は、すごく描きがいのある年代ですね」(森絵都)
右/森さんを特集した「飛ぶ教室39号」と、長崎さんが特別編集長を務めた「飛ぶ教室48号」

時代を意識する

長崎 森さんの作品って、子どものものも多いですよね?

絵本から中学生向けと、広くやってますね。大人の小説を書いてると、やっぱりときどき、子どものものが書きたくなるんですよね。

長崎 森さんと二宮由紀子さんを特集した「飛ぶ教室39号」を、もう一回読み直したんですけど、森さんは対談の中で、書くものに対して大人と子どもの線引きはしていないっておっしゃってますよね?

その線、どんどん薄れてきましたね。書きたいときに何でも書いている感じです。

長崎 デビューは子どものものですよね。子どもをモチーフにって、最初から決めていたんですか?

書き始めたのが20代初めだったので、上の世代のものよりは、自分の過ごしてきた時を書きたいと。やっぱり、「もの」って自分の体験したことから生まれてくると思うので。それに、その頃に、江國香織さんとか佐藤多佳子さんとか、10代を上手に描かれる方、新しい子どもの本が描ける方を見て、その世界が魅力的に映ったんです。

長崎 YAって言葉が生まれたのも、その頃ですか?

ちらほら耳にしはじめたころですね。新しい子どもの本のフィールドができつつあるという雰囲気がありました。

長崎 森さんの、時代の移り変わりの捉え方にも興味があります。最新刊『みかづき』(集英社)は昭和から平成にかけて三世代にわたって描かれているし、『クラスメイツ』(偕成社)のことを語った対談(「飛ぶ教室39号」)でも、「時代を意識する」っておっしゃっていて。

ストーリーを書くとき、この子はいつの時代に生きている子かなっていうのは、必ず考えますね。時代によって背景が違うから、人物の感じ方も多少なりとも変わってくるし。

長崎 なるほど。今回対談した、くらもちふさこさんにも時代の受け止め方をお聞きしましたけど、リサーチはあまりしないっておっしゃっていました。森さん、そのあたりはどうですか?

私もそんなにリサーチはしないですね。対談の中で、くらもちさんが、「受け身でいる」っておっしゃっていますよね。それにすごく共感します。生きていると、心に自然に引っ掛かることってあります。多くのことはいつの間にか抜け落ちて忘れていくけれども、でもずっと引っ掛かり続けることっていうのが、作品になっていくって思うんですよね。

画像、長崎訓子・森絵都

「14歳」の魅力

長崎 石黒正数さんのインタビュー(本誌:p82)の中で、14歳っていう年齢が出てきました。このほかにも、今回、中学生とかティーンといったものを感じることが多かったんですね。「飛ぶ教室39号」の森さんの対談でも、中学2年生、つまり14歳が話題になっています。そのあたり、けっこう共通しているなあって思いました。「中二病」って言葉もあるくらいですから、作品のモチーフとしても使いやすいとか?

すごく描きがいのある年代ですね。角度によっていろんな顔があって、でもつかみどころがないというか。だから、書くときに手を伸ばしたくなるのかもしれません。子どもと大人の狭間。子どもじゃないんだけど、まだ大人になり切れてない。そこが面白い。中学生って、大人じゃなくていい最後の年代かな。

「線」って何?

いがらしみきおさんの「無人野菜販売所」(本誌:p13)を読みながら、こんなふうに主人公の目線のモノローグっていいなって。もちろん小説でもそれはできるんだけど、ここ(本誌:p19、3コマ目)みたいに、そのときの主人公がどんな表情しているかっていうことも合わせて表現できるのは、漫画だからこそ。どんなに言葉を尽くしても語りきれないことが、一枚の絵でぱっとできる。それも漫画のすごくいいところだなって思います。

長崎 それはあるかもしれませんね。

ところで、くらもちさんとの対談でも話されていますが、絵を描く方って、よく「線」の話をされますよね。それって、絵を描かない人間にはよく分からないんです。絵が描ける人だけに見える何かなのかな?

長崎 うーん、特にくらもちさんは線の人なんですよね……。小説でもありますかね、そういう「線」にあたるものは? 文体とか? 漢字のあて開きとか?

考えてみたんだけど、思いつかなかったです。その「線」っていうのは、一目で分かるんですか?

長崎 テクニック的なものでもあるので、感受性のものだけじゃないかなあ。じゃあ、今度は「線」で特集しましょうか!(笑)


画像、長崎訓子・森絵都

人物写真:長岡博史

森絵都(もり・えと)

1968年東京都生まれ。作家。『リズム』でデビュー。著書『宇宙のみなしご』『つきのふね』『カラフル』『DIVE!!』『クラスメイツ』『みかづき』ほか。

長崎訓子(ながさき・くにこ)

1970年東京都生まれ。イラストレーター。文学漫画集『Ebony and Irony』『MARBLE RAMBLE』、作品集『Daydream Nation』『COLLAGES』ほか。

「飛ぶ教室」39号の内容は、こちらからご覧いただけます。

飛ぶ教室 第39号(2014年秋)

「飛ぶ教室」48号の内容は、こちらからご覧いただけます。

飛ぶ教室 第48号(2017年冬)

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