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トークイベント 陣崎草子×如月かずさ [後編]

「飛ぶ教室」のご紹介

2019年2月8日 更新

「飛ぶ教室」編集部 光村図書出版

児童文学の総合誌「飛ぶ教室」に関連した企画をご紹介していきます。

トークイベント「『子どもの本』をかくということ」 陣崎草子×如月かずさ [後編]

昨年11月9日、子どもの本の専門店「ブックハウスカフェ」にて『ウシクルナ!』(陣崎草子 作)と『給食アンサンブル』(如月かずさ 作)の発行を記念して、トークイベントを開催しました。作者のお二人が、創作のこと、児童文学のこと、これからの「子どもの本」のことを、広く、深く語ります。

シャワーを浴びるとアイデアが浮かぶ!?

これから挑戦してみたいジャンルはありますか? また、大人の本も書いてみたいと思いますか?

如月:今までいろいろなジャンルを書かせていただいていて、自分の好きな冒険小説、探偵小説、ハートウォーミング系の小説などを書いてきたので、これからもそれらを中心に書いていきたいです。新たに挑戦したいものは、児童文庫を書いてみたいですね。大人の本は依頼があったら書いてみたいです。ただ、児童書として書きたいものがいっぱいあるので、無理して書くということは考えていないです。

陣崎:私は、何を書くかというよりも、生き方そのものを変えようとしていますね。今の子どもたちは、抑圧的な環境に置かれているような気がしていて、それを変えるためには、まず大人が変わらなければならないと思っています。大人たちが不自由で好きに生きられない社会は、子どもたちが自由に好きに生きることを制限してしまうと思っていて。
そのうえで、挑戦のジャンルは冒険ですね。ただ、向こう15年~20年ぐらいは自分が書きたいテーマがあって、その中で大人の本は、いずれ書くと思います。

書きたいもの、テーマがたくさんあるというお二人ですが、それに欠かせないアイデアはどんなときに浮かびますか?

如月:ノートを前にしてうんうん唸っているときは、大抵いいアイデアが出てきませんね。逆に料理していたり、散歩していたり、原稿のことを頭の片隅に置いて別のことをしている状態のほうが出てきやすいかもしれません。

陣崎:私も歩いているときによく思いつきますね。絵と文章では、右脳と左脳の使い分けが起きていると思うんですが、歩くと交換作用が働くように思います。あとは、シャワーを浴びると、なぜか恥ずかしかったことや腹の立つこととか、突然思い出したりして、ネタになります(笑)。

如月:(笑)。シャワーを浴びているときはありますね。自分の好きな作家さんもそう言っているし、シャワーには何かあるかもしれませんね。

「はっきりと言えない」感覚が大切

創作のインプットのために、お二人は映画を見ますか? 好きな映画があったら教えてください。

如月:もともと映画を観ることは少なくて、マンガや小説、児童文学、アニメからのインプットが多いですね。最後に見た映画は……、2年半前の「ズートピア」。創作のインプットというよりは、面白そうだから観に行ったという感じです。

陣崎:ここ数年でインパクトが強かったのは、ヴィム・ヴェンダースの「pina/ピナ・バウシュ――踊り続けるいのち」とブロンティス・ホドロフスキーの「リアリティのダンス」。 この2本は、はっきり何処がと言えない質の衝撃がありました。この「はっきりと言えない」という感覚は、とても大切だと思っています。例えば、音楽や舞踏や絵を観たときの感動って、言葉の限界を超えていることがあります。言語表現は身体性がないぶん、そのあたりが弱いジャンルだと思うのですが、こういう言語化できない衝撃のある作品には憧れます。「リアリティのダンス」は監督の23年ぶりの新作なんですが、それくらい人生かけて生むからこそ、衝撃が宿る。そんな創作姿勢に戦きと憧れを感じます。

いちど作品から離れてみる

会場の方からこのような質問もきています。「作品の書き直しに苦心しています。アドバイスがあればお願いします」。

陣崎:作品を書くときの初期衝動で、「あの苦しさ」「あのイメージ」といったエモーショナルな「匂い」のようなものがふわっと湧いて、それを頼りに書きだすんですが、編集者さんから意見をいただいて文章の書き直しをしていくと、構築的になりすぎて初期衝動の「匂い」が消えてしまうことがあります。すると筋は通っていても面白味のないものになったりする。そういうときは、感覚的な右脳の動きを呼び戻すために、一度作品を放置したり、歩いたりします。そうこうするうちに、作品を貫く1本の線がふわっと見えて来ることがあります。
あとは、「他人の脳みそは自分の脳みそ」という信条があるのですが、小説講座の先生が原稿用紙2枚分くらい赤入れをしてくれたことがあって、電撃的に文章の書き方を理解できた瞬間がありました。そういうインパクトを与えてくれる人に出会うために必死に動くこともします。
それから、書くこと以前に、自分自身が人生に抱えている問題が作品を押しとどめているというケースもあって、その場合は、自分の心に深く潜ります。作品にも生まれるべき時期というのがあるのかなと。

潜るきっかけは、誰かが教えてくれるんでしょうか。

陣崎:不思議なことですが、自分が書いた作品に、自分の人生の問題について教えられることってけっこうあると思います。

如月:私は、基本的に書くことが苦手で、逆に直すことのほうが得意ですね。普段、最初はだれにも見せられないぐらい粗いものを書いて、それを修正しています。それから、さっき放置してみるというお話がありましたが、自分も作品から離れてみて、自分が書いているものの構成や構造を把握したうえで、エピソードや登場人物の追加や変更を検討していくことがありますね。

『給食アンサンブル』のカバー絵(表裏)。お話の主人公ではない、女の子と男の子が口元をスプーンで隠している。

6人の主人公の顔が描かれている『給食アンサンブル』の表紙絵(表裏)。

児童文学の役割と「これから」を考える

これからの子どもの本の役割やあり方を、どのように考えていますか?

如月:今、子どもの周りには、ライトノベルやマンガやアニメや動画サイトなどの娯楽がありますが、その中で児童文学が特別に尊いだとか、子どもをよい方向に導いていけるものだとは思っていません。一方で、児童文学だからこその優れた特徴もあると思っています。作品の誠実さだとか、丁寧さ、売り上げよりも子どものためを優先させることができる良心的な出版姿勢とかですね。以前に出した本で、編集者さんに「この本は万人受けしないだろうけど、必要としている子どもたちがいるから出しましょう」と言われたとき、そんなふうに思いました。児童文学だからこそ書ける物語をこれからも子どもたちに提供していくことが児童文学の役割だと思っています。

陣崎:私は、時代が転換期に来ていると思っています。経済優先を求めすぎた歪が出版界にも表れてきていると。丁寧に本を届けたいと思っている出版社や編集者、書店さんほど苦しんでいて、出版文化の危機をひしひしと感じている。経済的な理由から、出版社では年間の出版点数が決まっていたりして、作品の質よりも、まず出すことが優先されるような空気も感じます。以前は自分もその歯車の一つだったんですが、このような社会を変えなきゃならないと思ったときに、まず、自分自身を変えないといけないと思って、自分の魂がこもらないものは、思い切ってやらないことにしようと思うようになりました。これだけ憧れて、子ども時代の恩もある本の世界だから、真摯に「生まざるを得ずして、生まれる」を突き詰めていきたいと思っています。


陣崎草子(じんさき・そうこ)

大阪府生まれ。絵本作家、児童文学作家、歌人。『草の上で愛を』で第50回講談社児童文学新人賞佳作を受賞、同作でデビュー。小説作品に『片目の青』(講談社)、『桜の子』(文研出版)。絵本作品に『おむかえワニさん』(文溪堂)、『おしりどろぼう』(くもん出版)。歌集に『春戦争』(書肆侃侃房)。絵の担当作品に『高尾山の木に会いにいく』(理論社)、『ユッキーとともに』(佼成出版社)など、著作多数。

如月かずさ(きさらぎ・かずさ)

1983年群馬県生まれ。児童文学作家。『サナギの見る夢』で第49回講談社児童文学新人賞佳作、『ミステリアス・セブンス――封印の七不思議』(岩崎書店)でジュニア冒険小説大賞、『カエルの歌姫』(講談社)で日本児童文学者協会新人賞を受賞。作品に、『ラビットヒーロー』『シンデレラウミウシの彼女』『たんじょう会はきょうりゅうをよんで』(以上、講談社)など、著作多数。

お二人の書籍の詳細は、こちらからご覧いただけます。

ウシクルナ!はこちら

給食アンサンブルはこちら

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