「飛ぶ教室」のご紹介
2020年8月5日 更新
「飛ぶ教室」編集部 光村図書出版
児童文学の総合誌「飛ぶ教室」に関連した企画をご紹介していきます。
インタビュー 新人作家 有賀拓郎×新入社員
「飛ぶ教室」第43回作品募集「佳作」(54号掲載)、第45回作品募集「特別賞」(56号掲載)を受賞し、「飛ぶ教室」62号掲載の「明日のぼく」で、同誌デビューを果たした有賀拓郎さん。「飛ぶ教室」作品募集への投稿時代から、十代の心の揺れを捉えた作品を中心に描いてこられました。そんな有賀さんに、今回の掲載作品の背景を伺いながら、作品募集への思いや、これからのことを、2020年4月に光村図書に入社した新入社員(FとM)が伺います!
F:
こんにちは。私たちは、今年の春に光村図書に入社したばかりの新入社員です。
M:
有賀さんも、本誌(「飛ぶ教室」62号)でデビューが決まったということで、僭越ながら、私たちと同じ「新人」と言えるのではないかと思います(たいへん恐縮です!)。
F:
めちゃくちゃ親近感を覚えます……! 少し緊張しますが、デビュー作である「明日のぼく」にこめた思いや、作家となって思うことなどを率直にお聞きできたらいいな、と思います。
F・M 有賀さん、どうぞよろしくお願いします!
有賀:
こちらこそよろしくお願いします。
Q1 まず、掲載誌が届いていかがでしたか?
有賀:
本を開くのにこんなに緊張したのは初めてです。agoeraさんの扉絵とページのデザインがとても素敵で、しばらくそこを眺めていました。あのページ、凄く格好いいですよね。作品募集で掲載していただいた時とはまた違って、喜びだけじゃない色々が入り混じった感慨がこみ上げてきました。
Q2 62号掲載作「明日のぼく」についてお伺いします。今回男の子二人のお話でしたが、描いていていかがでしたか? これまでの作品と何か違うところはありますか?
有賀:
男子二人の物語はこれまでも公募に何度か書いてきました。最初の頃は、直球の友情モノが多かったのですが、その捉え方が少しずつ変わってきたような気がします。今作も友情が芽生える前の物語で、これまでの作品との大きな違いは、閉じ方が比較的ポジティブという点でしょうか。わりと、暗めの話を書くことが多かったので……。
自分もどちらかといえば主人公に近いタイプなので、他者に対する「羨ましい」気持ちを素直に表に出せる野木のような男子が近くにいたら、うっとうしく思いつつもひそかに羨ましいと感じるだろうなと思いながら書いていました。
F:
近くにいる友だちのような存在によって刺激を受け合う、そんな様子が描かれていたように思います。
Q3 では、有賀さん自身、掲載作「明日のぼく」のようにくじを引いて変わりたいという気持ちはありますか? また、あるとしたら、どんな人になりたいですか?
有賀:
変わりたい、というよりも、変わってみたい、という感じです。どんな性格になれたとしても、それが「いつもの自分」になってくると、それはそれでまた嫌になってしまいそうな気がして……。なので、わがままですが一時的にだけなれるのだとしたら「褒め言葉を素直に受けとれる人」や「感情表現が豊かな人」になってみたいです。
Q4 作品終盤に出てくる「ぼくという人間は、あのころから大して変わっていないのかもしれない。」という、主人公の池田の言葉に共感を覚えました。有賀さん自身も中学時代から変わっていないなあと思うことはありますか? それはどんなことですか?
有賀:
最近、大勢の前である方の小説を音読することがあって、他の人が読んでいる間に読めない漢字の有無をチェックしている時に、あの頃から変わっていない自分を実感しました。やったことがある人もいると思うのですが、席順から逆算して、自分はこの辺を読むことになるだろうな……っていう、あれです。ほかにもたくさんありますが、一番変わっていないのは、面倒くさがりなところだと思います。
M:
笑。確かに、子どもと大人では変わらない部分もありそうですね。
Q5 子どもと大人の違いってなんだと思いますか?
有賀:
子どもと大人の違い、難しいですね……。ラジオではこの前「雪が降って喜ぶのが子どもで、喜ばないのが大人」と言っていました。それなら「雨上がり、虹を探しながら歩くのが子どもで、水たまりに目を向けるのが大人」というのもありでしょうか。でも大人がまっ先に虹を探すこともあるでしょうし、水たまりに気をつける子どもももちろんいます。だから、お互いがお互いを含んでいるんだと思います。
大人はある程度経験が豊富で、生きる上での選択肢が多いということは言える気がします。でも子どもたちも、本からそれらを裏技的に手に入れられますね。
Q6 今回の作品を含め、中学生という繊細な時期を描いてきたのは、何か特別な思いがありますか?
有賀:
一読者としても、少年少女の葛藤を描いた小説や漫画に特に惹かれる、というのがまずあります。その時期特有の、爽やかさとほの暗さが同居したような、ひりっとする、そんな作品を創りたい、という想いが常にありました。
初めて人を本気で好きになったり、あるいは憎んだり、そういう時期だけに見られる物語というのがあるはずで、それを小説にしたいと思って書いています。
Q7 そもそも「飛ぶ教室」の作品募集に応募したきっかけはなんですか? これまでどんな思いで応募をしてきたのでしょうか。また、何か公募に関係するエピソードがありましたら、お教えください。
有賀:
公募の初体験は17歳でした。小学館の「きらら携帯メール小説大賞」という公募がかつてあって、その名の通り、携帯でメールを送るように応募ができました。
児童文学はずっと書いていましたが、どれも短編です。「飛ぶ教室」との出会いは大学生の頃、場所は新宿の紀伊國屋書店の児童書売り場でした。作品募集の要項に短編もあるのを見つけて、すぐにその頃書いていたものを送るようになりました。
しばらくは一次選考も通りませんでしたが、「もしも自分がデビューするなら、この雑誌から」という予感はずっとありました。ただ、それが的中した今思えば、あの予感は、願望を現実にするためのお守りのようなものだったのではという気もしています。
F:
お守りを大切に持ちつづけたことで、ひとつの目標を実現したと言えるかと思います。
Q8 これからどのような作品を書いていきたいですか?
有賀:
これというテーマが決まっているわけではないのですが、読んだ後、風景の見え方、感じ方がほんの少しでも変わるようなものを書いていきたいです。それは、ネガティブなものがポジティブに変わるという話に限らず、ただ、そういう世界もあるということを知るだけでも、子どもたちの考え方の幅を広げることに繋がると思うんです。
でも、時には「飛ぶ教室」56号に載せていただいたような、わけのわからないヘンなお話も書きたいですね。
中学3年生の時、図書館の先生が薦めてくれた中村航さんの『夏休み』(集英社)という小説が、それまでほとんど本を読んでこなかった自分に読書の面白さを教えてくれました。そういう、誰かのきっかけになるような作品を創れたら嬉しいです。
M:
作家としての第一歩を踏み出された有賀さん。
冷静でありながらも情熱を燃やす「同期」の姿に、強い刺激を受けました。
F:
同じ新人として、私たちも負けてはいられません。今後の有賀さんの活躍に注目しつつ、私たちも一日でも早く、一人前になれるよう、これから頑張っていきたいと思います。
F・M 有賀さん、本当にありがとうございました!
有賀拓郎(あるが・たくろう)
1989年長野県生まれ。「飛ぶ教室」第43回作品募集「佳作」(54号掲載)、第45回作品募集「特別賞」(56号掲載)を受賞。「飛ぶ教室」62号掲載の「明日のぼく」でデビュー。
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