
「飛ぶ教室」のご紹介
2018年5月11日 更新
「飛ぶ教室」編集部 光村図書出版
児童文学の総合誌「飛ぶ教室」に関連した企画をご紹介していきます。
スペシャル対談「『往復短歌』の舞台裏」服部真里子×木下龍也 [後編]
「飛ぶ教室」第53号の特集は「『好き』の気持ち」。この特集にちなんで歌人の服部真里子さんと木下龍也さんに、“高校生の恋”をテーマに短歌をおくりあっていただきました。後編では、短歌を作り続けるその源について伺います。


読者の反応が嬉しいから、作り続ける
木下 短歌を作るのを楽しく感じる?
服部 おいしいものができあがると、結果的に楽しく感じますね。料理を作っているとき、手を切ったりもするので、苦しさもありますが……でも、その過程も含めて、楽しいかもしれない。
木下 ぼくは、作るのが楽しくないので、読者という受け手がいないと、ただ苦しいだけで終わってしまうんですよね。
服部 自分のために料理しない、みたいな?
木下 そうですね。作って出して、食べてもらって反応をもらうのが嬉しいから続けていられる。
服部 あ、それわかる! 自分が食べておいしいと思うよりも、人に食べてもらっておいしいと言われるほうが、数倍嬉しい。でも、歌人でそんなふうに思う人は少数派かな?
木下 伝わる度合でいうと、そんなに人に伝わらなくていい、自分の表現を追求したいと思っている歌人が多いんじゃないかな。10人中3人がわかってくれたらいいなと思っている作り手が多いのかもしれない。
服部 わたしは……そっちのほうですね。
木下 ぼくは、10人いたら15人ぐらいにわかってほしい。それぐらいの気持ちでやって、やっと8人とか9人に伝わるんじゃないかと思っていて。
服部 とてもよくわかります。でも、10人においしいと言ってもらおうと思うと、どうしても平均的な味になってしまって。おそらく、水はみんなおいしく飲めるって知っているけれども、わたしの好みは、オレンジジュースだから、それを届けたい、という気持ちがあります。
木下 服部さんって、ちょっと変わった言葉を入れてくるじゃないですか。例えば、今回の往復短歌だと、「自分を僕と呼びたい夏よギンヤンマの婚(こん)は破線のごと輝いて」の中の「婚」とか。「婚」は結婚のことですよね?
服部 そうですね。
木下 文字に収めるために、「婚」という言葉を使えるんだなと思って。これは否定しているということではなくて……ぼくだったら、読者が読んだときに「ん?」って止まるかもと考えてしまって、怖くて、こういう言葉を使えない。自分だったら、「結婚」というだれもがわかる言葉にして、ほかの部分で文字調整すると思う。
服部 「婚」と「結婚」では与える印象が違う気がするんです。みんなには届かないかもしれない。でも、そういう言葉を入れるのが好きなんですよね。でも、少数派だけに伝わればいいとも思っていなくて。そこはバランスを取りながら、創作していけたらなと思っています。
これから目指すもの
最後に、これからチャレンジをしてみたいことがありましたら、教えてください。
服部 短歌の世界で著名な塚本邦雄や葛原妙子がしたことと同じぐらいの大きなことをしたいです。そのぐらいのことができなければ短歌をやる意味なんてないと思っていて、あのぐらい大きなことができたら素晴らしいなと思っています。これまでにだれも見たことがない美しさを、作ることができたらいいですね。
木下 ぼくは短歌の入り口になりたい。ぼく自身、穂村弘さんの本を読んで短歌をはじめて、たくさんのすばらしい作品に出会ってきたので、だれかが短歌をはじめる入り口として機能していきたい。これまで短歌にふれてこなかった人が、自分にもできるかも、と思ってくれるような歌をつくっていきたいです。
短歌ってよく“今流行っている”ってなるんだけど、ぼくから見ると、長年その取り上げられ方をされていて、それってどうなのかなって。だって、“小説が今は流行っている”って言わないじゃないですか。短歌を、普通に小説を読む人たちの普通にしていきたいという思いがあります。そのために、これからも伝わる短歌を作っていきたいです。
服部真里子(はっとり・まりこ)
1987年横浜市生まれ。歌人。2006年早稲田短歌会入会、作歌を始める。歌集『行け広野へと』(本阿弥書店)。「飛ぶ教室」44号に「海痩せて」を寄稿。未来短歌会所属。
木下龍也(きのした・たつや)
1988年山口県生まれ。歌人。歌集『つむじ風、ここにあります』『きみを嫌いな奴はクズだよ』。岡野大嗣との共著に『玄関の覗き穴から差してくる光のように生まれたはずだ』。
「飛ぶ教室」53号の内容は、こちらからご覧いただけます。
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