みつむら web magazine

『今日も誰かの誕生日』刊行記念 二宮敦人インタビュー【後編】

今日も誰かの誕生日

2024年12月6日 更新

光村図書 出版課

ある日の誰かの誕生日を描いた、心揺さぶる短編集『今日も誰かの誕生日』に関する情報をお届けします。

児童文学総合誌「飛ぶ教室」で連載された短編小説「今日も誰かの誕生日」が単行本になりました。2回に分けてお送りしている二宮さんへのインタビューの後編。二宮さんの執筆の原動力とは?

二宮敦人さん/「今日も誰かの誕生日」書影

みんなといっしょに生きていたい

二宮:

『今日も誰かの誕生日』を読んでくれそうな方って、どんな話を求めてるんでしょうね。僕、読書遍歴が偏ってるから、一般的なものがわからなくて。

二宮さんは、どういう本を読んでたんですか?

二宮:

最初は親が買ってくれた児童書を読んでいましたね。自分で本を選べるようになってくると、図鑑を読んでいました。図鑑って、ズラッと情報が並んでいて、しかも説明が端的じゃないですか。なぜかあれにしびれました。美しいな、最低限の日本語でこの昆虫の特徴を示しきれるのか、と思いながら、見るのが好きでした。戦記物にはまったこともありました。第二次世界大戦の話だったら、『レイテ戦記』(大岡昇平/中央公論新社/1971年)などですね。描写が淡々としているんですよ。何月何日ここに陸軍第何部隊が上陸したって感じに。淡々とした記録に不思議と感情移入してしまって。ゲームの攻略本も好きでした。アイテムの一覧表に記載されてる情報を眺めるのが楽しくて。辞書とか類語辞典も好きでした。語源を調べるのも好きです。英語の語源を遡ると癒されていきます。

知ることに対する喜びなんでしょうか。でも、書くときは小説や物語も選ばれていますね。

二宮:

書くなら物語がいいかなあ。僕としては書くこと自体が快感なので、文章ならなんでもいいんですが、読み手の存在を考えると、なるべく少ない労力でたくさんの有意義な情報が得られるものを作りたいと思っているので。飲みにくい薬を飲みやすくするオブラートのように、物語は機能する気がするんです。

二宮さんの書かれるインタビュー記事やルポに、物語性を感じるときがあります。これも読み手に、情報がわかりやすく入るようにという工夫でしょうか?

二宮:

そうですね。実際にお会いしてみると、その人に感銘を受けるポイントがあるんですよ。この人のここが超好き!って。それを読者さんに伝えたいんです。「こういうポイントに感動した」ってことじゃなくて、「感動そのもの」を伝えたい。そのために僕が取れる手段は物語しかなくて。情報そのものは加工せずとも、出し方や順番で起承転結を作って、読者さんになるべく自分ごととして入り込んでもらう。できればそうしたほうが感動を伝える力があると思います。

二宮敦人さん

二宮さんは、物語の力を信じるきっかけがあったんですか?

二宮:

そもそも、伝えたいんだと思います。自分の感じた感動をどうしても伝えたくて、これなら伝わるかもって手に取った手段が物語だった、のかなあ。例えば、電話帳を読んでも物語を書けると思います。こんなに人がいるんだ!とか、コンビニがこのくらいの頻度で点在してるんだとか、僕は一々感動できると思うので。

一見、無味乾燥な情報からも二宮さんは物語が作れるんですね。

二宮:

そう! 勝手に作ってしまうんです。僕の頭の中で感じたことが、読者さんの頭の中でも再現されるような文章が、理想なのかもしれません。ほとんどテレパシーですね。そうしたら、僕も皆さんの仲間だと思えて安心します。根本には寂しい、わかり合いたいという気持ちがあるのかな。みんなといっしょに生きていたいなっていうのが、物語を書く根源の動機なんじゃないかなと思います。

理想の作品を目指して、日々書いていると。

二宮:

おそらく、理想的な文章って、一字一字に存在する理由がある文章だと思うんですよ。僕もそこを目指すんですけど、隅まで手が届かないときが結構あって。完璧なものはまだ作れてないですけど、そこを目指して頑張ってます。

執筆作業中は、やはり試行錯誤の連続ですね。

二宮:

これを「しんどい」とするんだったら、一年中しんどいですね。もしかしたら人生全部しんどいかも。今も手がけているお仕事の出口が見えなくて、しんどいですね。締め切りは近づくし……。『今日も誰かの誕生日』は一話ごとに書き上げる方式だったから、長編を一つ作るより、ずっと楽でしたね。第1話を書いた段階では、まだ作品についてうまく言語化できてなかったんですけど、「飛ぶ教室」が季刊誌で3か月の間があるから、その間に無意識に考えが深まるので。連載することで、今日話せるくらいに言語化できました。

今日もどこかで誕生日

「今日も誰かの誕生日」書影

最後に、『今日も誰かの誕生日』はどんな人に読んでほしいですか。

二宮:

いろんな人に読んでもらえたら嬉しいですが、本を読みたいかどうかは読む人にしかわからないことなので、自分からすすめるべきではないとも思っています。それでもあえて言うなら、寂しい気分の人かな。もし自分が読むんだったら、一人暮らしを始めたばかりのころとか、一人は気楽だけれど、世界にはたくさん人がいるはずなのに、自分一人だけみたいだなと感じたときに読んで、今日もどこかで誰かがパーティーをしているかもなあ、誕生日を祝っている人がいるのかもなあ、みんな同じ人間なんだなあ、ってことがわかったら、嬉しいかもしれませんので。

二宮さんに『今日も誰かの誕生日』第4話の冒頭部分を朗読していただきました!
YouTube「光村図書チャンネル」 作者・二宮敦人さんによる朗読『今日も誰かの誕生日』

二宮敦人(にのみや・あつと)

作家

1985年東京都生まれ。『!(ビックリマーク)』(アルファポリス)でデビュー。作品に『最後の秘境 東京藝大――天才たちのカオスな日常』『ぼくらは人間修行中――はんぶん人間、はんぶんおさる。』(以上、新潮社)、『世にも美しき数学者の日常』(幻冬舎)、「最後の医者は桜を見上げて君を想う」シリーズ、「郵便配達人花木瞳子」シリーズ(以上、TOブックス)、『サマーレスキュー 夏休みと円卓の騎士』(文藝春秋)などがある。

関連記事

記事を探す

カテゴリ別

学校区分

教科別

対象

特集