オランジェット・ダイアリー
2024年2月7日 更新
光村図書 出版課
愛媛県の宇和島市とアフリカのガーナが舞台の物語、『オランジェット・ダイアリー』に関する情報をお届けします。
『オランジェット・ダイアリー』(光村図書)は、愛媛県宇和島市のみかん農家の一人娘である本宮樹々と、ガーナ生まれ日本育ちの杉本リクが、進路や夢について考えていくYA小説です。作者の黒川裕子氏と、本作品の帯に言葉を寄せてくださった、カメルーン生まれ日本育ちの漫画家・星野ルネ氏に、それぞれの創作にまつわる思いを語っていただきました。
理想社会と現実社会の乖離
星野
子どもの頃聞いていた社会と実社会の違いってありませんでしたか? ぼくは、子どもの頃から、みんなで仲良く手を繋いで、ピース!って理想のようなものをだいぶ見て育ってきたんですけど、実社会に出たら、理不尽なことが多かれ少なかれあって、現実が急に押し寄せてくることに戸惑いがありました。今の若い子を見ていると、そういった乖離に適応できていない子が多いように感じます。
黒川
発達段階的にまだ早いでしょ、っていう配慮はあるかもしれないですね。なんでもかんでも見せていいとは思いませんが、そういった大人の気遣いによって見えなくなってしまっているものがあるかもしれないです。
星野
いじめはダメって言うけど、大人の中だっていじめがあるじゃないですか。どうしていじめをしちゃうんだろうな、これって何だろうなって、そういう本質的なことを子どもといっしょに話し合わなくちゃ。
黒川
わたしは逆に、大人になってから現実社会は思ったよりクリーンだなって感じたほうでした。
星野
え、そっちのほう?
黒川
目の前に病院がある酒屋で育ったんですが、朝八時から肝硬変を患っている患者さんがワンカップを買いに列を作るんです。そんな方々に「ほどほどに」なんて言いながら、両親がお酒を売ったりしているのを見てきました。
星野
リアルなものも見てきたんですね。
戦争はどうして起こるのか?
星野
ぼくは、日本の平和教育の仕方だと、どうして戦争が起こるのか一生分からないって思う。戦争をしている人を見ると、おそらくみんな自分とはかけ離れた世界にあると思って、ただ「ひどい」って思うとおもうんです。でも、夫婦やカップル兄弟だって喧嘩もするし、場合によっては暴力もある。日々のぼくらの営みの中の延長線上に争いがある。「戦争は遠くにあるもの」ではなくて、レベル1クラスのものとして、日々身近に接しながら生きているんだって。それに気がつかなきゃ。
黒川
キレイなものばかり見せていると、かけ離れていると感じるものがかなりありますよね。
星野
実は、平和を学ぶためには戦争そのものを知らないといけないんですよ。
黒川
それなんですよ。戦争はダメ、戦争はダメだけじゃいけないんですよ……。
星野
戦争はダメ、いじめはダメ。ただそれだけじゃなくて、そういった根本的な戦争やいじめのメカニズムを知らないと。普段自分が当たり前に肯定しているモノの先に、戦争というもの、いじめというものがあるんだと。
黒川
めっちゃくちゃ分かります……。
星野
「平和がいちばん」って祈り続けているのが、逆に平和にいちばん遠いんです。自分自身で考えていないから、簡単に「戦争がいちばん」にひっくり返りやすいとも言える。
黒川
言い方は難しいですけれど、残虐だ、可哀想だ、惨たらしいという一面からの書き方ではなくて、戦争のメカニズムももっと知識として伝えるべきだって思っています。今、あちこちで戦争が起こっていて、経済競争だって戦争の一形態。ずっと1945年後(戦後)にいるのではなくて、新しい戦争文学が必要だと思っているんですが、戦争についての本をどうやって書こうかと自分なりに考え続けているところです。
(2023年10月26日/光村図書本社にて)
(この対談の【本編】は、2024年1月25日発売予定の「飛ぶ教室」76号に掲載します)
黒川裕子(くろかわ・ゆうこ)
YA、児童書作家。著書に『となりのアブダラくん』『#マイネーム』『ケモノたちがはしる道』などがある。
星野ルネ(ほしの・るね)
漫画家、タレント。4歳直前で母の結婚に伴い来日し、以降、兵庫県姫路市で育つ。著書に『まんが アフリカ少年が日本で育った結果』などがある。
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