「飛ぶ教室」のご紹介
2017年2月28日 更新
「飛ぶ教室」編集部 光村図書出版
児童文学の総合誌「飛ぶ教室」に関連した企画をご紹介していきます。
スペシャル対談「漫画と小説」 森絵都×長崎訓子 [後編]
特別編集長シリーズ第4弾「飛ぶ教室48号」発行を記念したスペシャル対談。長崎編集長のお相手は、『カラフル』(理論社・1998年)や、毎日中学生新聞に連載していた、不思議な旅をめぐるお話「Further sight 旅のかけら」(※)でご一緒し、以来、親しくされている作家・森絵都さん。
3回に分けてお送りしている今回は、後編。長崎さんの本棚のことや創作漫画についてです。
※2000年に理論社より短編集『ショート・トリップ』として発行。現在は集英社みらい文庫などで読める。
左/「オリジナルで漫画を描くとしたら、子どもで描くと思うんですよね」(長崎訓子)
右/森さんを特集した「飛ぶ教室39号」と、長崎さんが特別編集長を務めた「飛ぶ教室48号」
「男っぽい」本棚の秘密
森 長崎さんは子どもの頃から漫画をたくさん読まれてますけど、親に「漫画ばっかり読んで!」みたいなことは言われなかった?
長崎 うちは親が率先して読んでいたので。英才教育されてたっていうか(笑)。だから、この本棚(本誌:p90)も両親の影響がすごくあるんです。二人ともいろいろなジャンルを読んでいて。父は途中から、『ゴルゴ13』(小学館)だけになりましたけどね(笑)。
森 究極の男!(笑) 長崎さんの本棚を見て、男っぽさにびっくりしましたけど、その影響もあるんですね(笑)。うちは姉と私の二人姉妹。そうすると、少年漫画って読む機会が全くないんですよ。なので、瞳に星が入ってない主人公はいないっていうぐらいに、本棚全部少女漫画(笑)。
長崎 普通はきっとそうなりますよね! なかなか男気はあふれない(笑)。
森 (笑)。でも、あだち充作品で、初めて少年漫画が読めたんです。『みゆき』や『陽あたり良好!』、『タッチ』。少年漫画の世界から、親しみやすい外交官がやっと来たみたいな感じで(笑)。もう本当に何回読んでも面白いって思いました。
そのあだち充作品にも触れている森山裕之さんの「漫画と日曜日」(本誌:p42)は、ただの評論ではなく、自身の子どもの時代に思いをはせながら、漫画と自分の経験や感情を重ねて書かれている。漫画を読むって、こういうことだなって思いますね。
コミカライズとオリジナルの構想
森 長崎さんの「焼かれた魚」(本誌:p73)、すごくいい話だなと思いました。長崎さんの漫画化は、どのお話も、元のよりかなり湿気が抜けているように思います。それがすごく面白い。これ、長崎さんの持ち味なのかな?
長崎 そこは、自分でも最近意識するようになりました。ストーリーを追っていくようなものは、特にそうですね。「焼かれた魚」はネームを何回も書いたんですよ。主人公の秋刀魚の気持ちをモノローグで追ったネームもあったんですけど、なんか湿っぽくなっちゃって。これは違うな、と(笑)。
森 この原作も読みましたが、長崎さんのこの感じ、ちょうどいいって思いました。秋刀魚は最後に海に戻ったけど、別に喜ぶでもなくて、感情がよく分かんない(笑)。それがすごくリアル!
長崎 原作のテキストを読んだとき、作者の小熊秀雄にドライなイメージをもったんです。
森 作者はこのお話に教訓を込めてるわけでもなく、寓話的でもなく。「焼かれた魚」そのものが書きたかったんじゃないかって思いますね。
長崎 それが出せたらいいなって。
森 すごく出てました。
長崎 ありがとうございます。
森 ほかにもいろんな短編を漫画にされていますが、それぞれの原作の全ては描けないですよね? どこかの場面を集中して描くことになると思うんですが、そういうのって「ここだな」って、感覚で分かるんですか?
長崎 今回「タゴールの『妖精』」を描いてくれた森泉岳土さんなんかは、そのあたりがものすごくお上手で、きちんと翻訳されてる。私は部分的に描くってなかなかできなくて。全てをこまごまと追って描いちゃうんですよね。
森 そうなんですね。漫画化したいという決め手って何ですか。
長崎 決め手は……、やっぱり「ドライさ」かな(笑)。
森 (笑)。ウエットな感じの世界観を漫画にしたいとは思わない?
長崎 うーん、自分が漫画にするのに、ウエットさを漂わせないといけない感じだったら、難しいのかなって思いますね。といっても、ウエットではない作品でも、難しいものもあります。たとえば、宮沢賢治は挑戦したんだけど、意外と難しくて。世界観があまりにも……。
森 強い?
長崎 うん。はっきりし過ぎてるというか。その時は、描ききれなかったんですね。でも、森さんの作品は描きたい!
森 描いてください!
長崎 森さんとご一緒した『ショート・トリップ』、自分の中でコミカライズのルーツみたいになっています。お話が短いから、いわゆる挿絵とも違うし、かといって絵本の考え方でもなく、絵をがちでぶつける感じで。お話もドライだし(笑)。
森 たしかに、湿気がない(笑)。長崎さんの絵、毎回、ストーリー性のあるものでしたよね。長崎さんの宮沢賢治、読んでみたいな。あと、オリジナルでは描かないの?
長崎 オリジナルはまだなんですけど、もし描くとしたら、子どもで描くと思うんですよね。あと、ドライで、男気あふれる感じで(笑)。
森 湿気のかけらもなし、みたいな(笑)。楽しみにしてます!
人物写真:長岡博史
森絵都(もり・えと)
1968年東京都生まれ。作家。『リズム』でデビュー。著書『宇宙のみなしご』『つきのふね』『カラフル』『DIVE!!』『クラスメイツ』『みかづき』ほか。
長崎訓子(ながさき・くにこ)
1970年東京都生まれ。イラストレーター。文学漫画集『Ebony and Irony』『MARBLE RAMBLE』、作品集『Daydream Nation』『COLLAGES』ほか。
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