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スペシャルインタビュー 新沢としひこ [後編]

「飛ぶ教室」のご紹介

2017年5月8日 更新

「飛ぶ教室」編集部 光村図書出版

児童文学の総合誌「飛ぶ教室」に関連した企画をご紹介していきます。

スペシャルインタビュー 新沢としひこ 「お父さんって何だろう?」 [後編]

「飛ぶ教室」第49号の特集は、「飛べ、おとうさん!」。子どもたちの歌を数多く手がけるシンガーソングライターの新沢としひこさんに、「おとうさん」をテーマにした歌「お父さんの歌」を書きおろしていただきました。
2回に分けてお送りしている新沢さんへのインタビューの後編。新沢さんの作家への意識を目覚めさせることになった、お父さんからの贈り物とは?

新沢さん自らが演奏する「お父さんの歌」の動画は、こちらから。

新沢としひこ「お父さんの歌」

父からの最大の贈り物

新沢 小さい頃から僕は、何かっていうとノートに詩を書いたり、童話を書いたりしてたんです。そういう僕を見ていたからか、小学校4、5年生のあるとき、父親が一冊の「白い本」をくれました。本の形状でありながら、何も書いてない本です。「何を書いてもいいんだよ」って言って。書くことが大好きな僕にとって、それは無限の宝箱みたいに思えました。

その本に、僕はさっそくお話を書き始めました。「魔法のししゅう糸」というタイトルで、主人公の女の子の名前は「アンドレア」。アンドレアがおばあちゃんからもらった不思議な刺繍糸のお話です。例えば、刺繍糸で虫を刺繍すると、その虫が本物になるっていうもので、その不思議な刺繍糸を使って夢をかなえていくというお話。そういう構想が完璧にできて、目次を書いて、お話を3ページくらい書いたら……、なんだか満足しちゃってね、あとはそのまま真っ白(笑)。でも、気持ちは作家になったみたいだったんですよ。だって、形は「本」だから。僕の中の作家性みたいなものに火をつけたのは、まぎれもなく父にもらったあの「白い本」だったと思います。

父への一度だけの反抗

新沢さんはお父さんに怒られたことがないということでしたが、一方で、お父さんに対して反抗したことはありますか?

新沢 僕も父親に対して怒るという感情はなかったですね。……あっ、でも、一度だけ、ものすごく腹を立てたことがありました。高校生のときです。

その頃の僕は、自分でどんどん詩を書いたり、歌を作ったりしていました。それを父はおもしろがってくれていたんですね。自分の仕事仲間に「としひこは歌がうまいんだよ。ちょっと歌ってみなさい」なんて、披露させられたりもしたんですよ。少し恥ずかしくはありましたが、怒る感じではなかったんです。

でもそんなある日、「本屋で見つけた。参考になると思うぞ」と、父がまたしても1冊の本を。それは、詩の書き方の本でした。それを手にした瞬間、僕はすっごく腹が立ったんです。冗談じゃないって。「自分なりにたくさん詩を書いてきて、これからだって自分なりに書きたいんだ。こんな本を見て書きたくはない!」「僕にだって自分で自分の詩を書くっていうプライドがあるんだ!」って、父親に怒りをぶつけました。自分のやっていることについて、「プライド」という言葉を使ったのは、このときが初めてです。

でも、父へのその憤りがあったことで、自分が大事にしていることがわかりました。いっぱしの作家みたいな、プロ意識が芽生えるきっかけになった出来事ですね。

「白い本」にしても、詩の書き方の本にしても、新沢さんの作家としてのターニングポイントには、お父さんがいらっしゃいますね。

新沢 そうですね。これ以外にも、僕の節目節目には、父が何かしら存在しているように思います。これまでたくさんの歌を一緒に作ってきた中川ひろたかさんとの出会いのきっかけも、父の勧めてくれた保育所でのアルバイトでしたし。やっぱり、父親は僕のことをよく見て、見守っていてくれているんだなあって思いますね。いまだに僕のコンサートに顔を出して、いちばんいい席に座って、いちばんにこにこ聴いています。僕のそういう様子をとても喜んでくれているので、僕はこういう形で親孝行してるのかなって、ちょっと思ったりしますけど。

……父親の話をすればするほど、僕が父からの影響をものすごく受けてきたことが分かってきて、やっぱり怖い(笑)。

「お父さん」とは?

新沢 今回、「お父さんの歌」を作るにあたって、「お父さん」というものについてすごく考えました。結局、正解みたいなものはないと思うんだけど、それでも「世代の先輩」という意味合いはあるんじゃないかなって思うんです。一世代前の人(お父さん)は、どう生きてきたかっていうのを見せる。次の世代の人(子ども)は、それに対して反抗するもよし、従うもよし。そうすることで、子どもは自分を知っていきますから。

「お父さん」というものは、いいも悪いもそうだし、近くにいる、いないも含めて、子どもの中に何かしら「生きる形」を見せること。それが「お父さん」の役割の一つなんじゃないかなって思うんですよね。


写真:鈴木俊介

新沢としひこ(しんざわ・としひこ)

1963年東京都生まれ。シンガーソングライター。「さよならぼくたちのようちえん(ほいくえん)」ほか、「世界中のこどもたちが」「にじ」「ともだちになるために」など、作詞作曲は多数。

「飛ぶ教室」49号の内容は、こちらからご覧いただけます。

飛ぶ教室 第49号(2017年春)

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