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通常学級での特別支援教育 第4回

通常学級での特別支援教育

2016年8月9日 更新

川上 康則 東京都立矢口特別支援学校主任教諭

通常学級で特に気をつけたい特別支援教育のポイントを、新任・若手の先生方に向けて解説します。

川上康則(かわかみ・やすのり)

1974年、東京都生まれ。東京都立矢口特別支援学校主任教諭。公認心理師、臨床発達心理士、特別支援教育士スーパーバイザー。立教大学卒業、筑波大学大学院修了。肢体不自由、知的障害、自閉症、ADHDやLDなどの障害のある子に対する教育実践を積むとともに、地域の学校現場や保護者などからの「ちょっと気になる子」への相談支援にも携わる。著書に、『通常の学級の特別支援教育 ライブ講義 発達につまずきがある子どもの輝かせ方』(明治図書出版)、『こんなときどうする? ストーリーでわかる特別支援教育の実践』(学研プラス)など。

第4回 教師としての軸・枠・型・幅をもつ

今日のポイント

  • クラスが落ち着かない、トラブルの対応に追われているなどのクラスは、夏休み中に学級経営の課題点を見つめ直す必要がある。
  • 教師としての「軸・枠・型・幅」の未形成は、子どもたちを混乱させ、クラスの荒れを引き起こすことが多い。これらを一刻も早く整理しておく必要がある。
  • 通常学級の指導と特別支援教育に垣根はないことを理解する。

夏休みが始まりました。子どもたちがいない期間の学校はとても寂しいものですが、その一方で、授業研究や教材研究に集中することができます。また、ここまでのクラスの様子を振り返りながら、学級経営における課題点を見つめ直すことができる期間でもあります。
1学期に「子どもたちのために一生懸命やってきたけれど、どうしてもクラスが落ち着かなかった」とか、「小さなトラブルが頻繁に起き、その対応に追われてしまった」という先生はいませんか? もし、そんな事態に陥ってしまったとしたら、その「原因」と「解決プラン」について、この夏休み中に整理しておきましょう。

画像、教師としての軸・枠・型・幅

本来であれば、けんかや口争いなどのトラブルは人間が育つ栄養素です。人は、思いどおりにいかないことに対して「折り合いをつける」ことを学び、やりすぎてしまったことに対して「加減する」ことを学びます。一緒にいる時間があればこそ、なんらかの摩擦は当然あるものです。こうしたトラブルを、生きた教材として用いることができれば、クラスの安定はより強いものになるはずです。
ところが、そこまでたどり着けず、ただただトラブルの処理に追われ、疲弊している先生に出会うことがあります。そうした先生に限って、課題を一つ解決したとしても、まるで「モグラたたき」のように新たなトラブルが発生します。保護者も巻き込んだ形になってトラブルが大きくなってしまうこともあります。そうした事態を防ごうと、丁寧に個別対応しているはずなのに、「だってアイツが先に……」とか「オレは悪くないのに……」といった自分本位な言い分が返ってきて、それに振り回されます。結局は授業時間に食い込んでしまい、なんとなくウヤムヤなまま指導が終わってしまうというのがよく見られるパターンです。

このように、対応が後手に回ってしまう背景には、その先生自身の問題があります。それは、教師として必要な「軸・枠・型・幅」が未形成であるということです。

(1) 軸:ぶれない価値観・道徳観のこと。

〈例〉
どんな子どもを育てたいか。どんな教師であり続けたいか。
何を正しいこととするか。何を大切にするか。
いつ、どんな行動を褒めるか。いつ、どんな行動を叱るか。

(2) 枠:どこまでを正解とするか、主導権をどこまで教師がもつか、決定権のどこまでを子どもに委ねるかなどの範囲・回数・程度。

〈例〉
「集まりましょう」などの号令のときに、どの位置にいるのを正解とみなすのか。

(3) 型:一つ一つの具体的な指導場面において、何を、どの程度まで、何分・何秒で行えば終わりとなるのか、また示したことがうまく達成できていないときにいつ切り替えるか、といった流れや展開の標準スタイル。

〈例〉
先生が集合の号令をかけたら、今していることをやめる。
→集まったら、自発的に座って待つ。
→座ったら、口を閉じる。
→口を閉じたら、先生を見る。
→先生は、子どもたちの視線が集まったら話す。

(4) 幅:(1)~(3)の各項目において、子どもの実態に合わせたり、0%~100%までの範囲の中で調節したりすること。また、今、どの立ち位置にいるのかを意識すること。

(1)~(3)が未形成な状態で教壇に立つと、子どもは混乱します。混乱の結果、クラスの荒れが起きていると言ってもよいでしょう。子どもたちを責めるのではなく、一刻も早く(1)~(3)を整理する必要があります。
ひと昔前まで、「若いというだけで子どもたちの人気が集まる」と言われていました。だから、「もっと子どもたちと遊んだり、ふれ合ったりすればいい」とアドバイスする人もいます。しかし、現実はそう単純にはいきません。遊ぶ時間などまずありませんし、頼りになる大人でなければ担任は務まらない時代です。「子どもが好き」、「子どもの気持ちに寄り添って」などの情熱は、もっていて当たり前です。ただただハートフルなだけでは、子どもたちの目には「ユルい」と映ってしまいます。「若さ」への幻想を捨て、教師としての軸・枠・型を考えなければなりません。

(4)は、すぐに習得できるものではありません。失敗を繰り返しながら身につけていくものだと思います。別の見方をすれば、地道に築き上げていかねばならないものでもあります。なぜなら、幅をもたせないと「自分の軸に固執する」、「自分の枠に当てはまらない人やものを嫌う」、「自分の型にはめようとする」といったことが起きうるからです。

特別支援教育の分野では、「枠・型」を「構造」と呼び、子どもが自ら理解して行動するために環境設定することを「構造化」と呼んで、実践を積み上げてきました。また、「幅」については、「子どもの実態を踏まえた指導」を大切にしてきました。通常学級の指導と特別支援教育の間に垣根はありません。これまでに蓄積された特別支援教育の知見を、ぜひ、普段の実践に役立てていただきたいと思っています。

次回は、「話を聞けない、指示が入らない子」の背景について考えます。

Illustration: Jin Kitamura


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