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通常学級での特別支援教育 第5回

通常学級での特別支援教育

2016年9月12日 更新

川上 康則 東京都立矢口特別支援学校主任教諭

通常学級で特に気をつけたい特別支援教育のポイントを、新任・若手の先生方に向けて解説します。

川上康則(かわかみ・やすのり)

1974年、東京都生まれ。東京都立矢口特別支援学校主任教諭。公認心理師、臨床発達心理士、特別支援教育士スーパーバイザー。立教大学卒業、筑波大学大学院修了。肢体不自由、知的障害、自閉症、ADHDやLDなどの障害のある子に対する教育実践を積むとともに、地域の学校現場や保護者などからの「ちょっと気になる子」への相談支援にも携わる。著書に、『通常の学級の特別支援教育 ライブ講義 発達につまずきがある子どもの輝かせ方』(明治図書出版)、『こんなときどうする? ストーリーでわかる特別支援教育の実践』(学研プラス)など。

第5回 話を聞けない、指示が入らない子

今日のポイント

  • 「話を聞かない、指示が入らない」子には、実は「話を聞けない」という事情がある。
  • 脳の働きの一つである「注意(attention)」のつまずきの背景を理解し、指導の工夫を加えるとよい。
  • 子どもを変えようとするよりも、授業をおもしろくすることや、子どもたちから「この先生の授業は聞く価値がある」と認めてもらえることのほうが先。

私は、通常学級を巡回相談などで回る立場です。現場で困っていることをお聞きすると、以下のような相談をいただくことがあります。

「一斉指導の際に話を聞かない子が多くいる。どのようにすれば、話を集中して聞けるようになるのか、アドバイスをいただきたい」
「話を聞かない子が、意欲的に話を聞くことができるようになる声かけやこつがあれば教えてほしい」

どちらもきっと、切実な悩みなのだろうと思います。今回は、話を聞けない、指示が入らないといわれる子どものつまずきの背景と指導について考えてみます。

授業で先生の指示を聞くためには、その指示に意識を向けているかどうかがポイントになります。意識を向けることを、「注意(attention)」とよびます。注意は、脳の働きの一つです。

画像、注意のアンテナ

注意は、さまざまな刺激や情報の中で、必要な情報を選択的につかみ取るときに働きます。そのため、よく「アンテナ」にたとえられます。このアンテナの感度には個人差があり、「強度(強さ)」と「選択性(情報の選び方)」が関係しています。「強度(強さ)」が弱いと、意識レベルが低い状態が続き、ボンヤリする場面が多くなります。「選択性(情報の選び方)」につまずきがあると、情報の取捨選択が難しく、授業内の他の刺激に振り回されるという姿がよく見られます。ここまでを整理すると、以下のような式で「注意」の機能を理解することができます。

注意のアンテナの感度=「強度(強さ)」×「選択性(情報の選び方)」

ここからは、注意機能のつまずきが授業参加にどのように影響するかを具体的に整理していきます。

1 「注意の持続」のつまずきへの配慮

一つの物事に長時間取り組むためには、「注意の持続」が必要になります。「注意の持続」につまずきがあると、一斉指示や説明の聞き逃しや聞き間違いが多く、また作業をすぐに投げ出してしまう姿も見られます。手遊びが多い、姿勢が崩れやすいなどの姿も見られます。

【指導の工夫】

  1. 指示や説明を長引かせず、子どもが考える・動く活動に早く切り替えます。
  2. 文字など視覚情報を併用して、指示内容をわかりやすく伝えます。
  3. 一度注目を促してから、端的に話します。

2 「注意の選択」のつまずきへの配慮

無関係な刺激に振り回されず、特定の情報に意識を向けることを「注意の選択(選択的注意)」といいます。「注意の選択」につまずきがあると、授業中に、ざわつきの中で教師の指示だけを聞き取れなかったり、黒板の文字をノートに書き写すのに時間がかかったりします。

【指導の工夫】

  1. 意欲や態度の問題といった決めつけは避けるようにします。
  2. 指示の後で「ここまでで大切なことを隣の人と確認してね!」などのように、記憶した内容を直後にアウトプットさせるペアトークを取り入れます。

3 「注意の分散」のつまずきへの配慮

一度に複数の情報に注意を向け、同時的に処理するためには、「注意の分散」が必要になります。「注意の分散」につまずきがあると、他者の意見を聞きながら大切なキーワードをメモしたり、黒板の文字を書き写しながら自分の考えをまとめたりするといった同時的な処理が難しくなります。

【指導の工夫】

  1. 授業内容を焦点化して、子どもの気持ちが途切れないようにします。
  2. いつまでに何をどの程度学ぶのか、ゴール(到達目標)を明確にします。
  3. 「何ページの何行目」などの指示の際には、指定箇所を指で押さえさせて、運動・動作面で複数・同時的な処理の一つを補わせます。
  4. 「わかった人はグー、まだピンと来ない人はパーを挙げましょう」などの発問で全員が参加できる場面を作り、参加感を高めます。

4 「注意の転換」のつまずきへの配慮

今している行動から別の行動へと切り替えをスムーズに行ったり、また元の行動に戻ってきたりできるためには「注意の転換」が必要となります。「注意の転換」につまずきがあると、いつまでも自分のペースに固執する、集団のペースになかなか折り合いがつけられないといった姿が見られます。

【指導の工夫】

  1. 「ギャラリーウォーク」(クラスメイトのノートを参考にするために、静かに教室を回れる時間)のような「認められた離席」の場面を作ります。
  2. 子どもはすぐには変わりません。長期的な対応を覚悟し、少しでも折り合いをつけてくれるような「変化の芽」を見過ごさないようにします。

ここまで、注意という機能のつまずきと指導の工夫について述べてきました。しかし、もっと重要なことがあります。苦言を呈するようで申し訳ないのですが、もし、立場を替えて、お笑い芸人さんがこんなことを言っていたら、どう思いますか?

「舞台で一生懸命笑わせようとしているのに笑わない観客が多い。どのようにすれば笑ってもらえるのか、アドバイスをいただきたい」
「ノリの悪い観客が、意欲的に場に溶け込むことができるような声かけやこつがあれば教えてほしい」

きっと多くの方が「もっとおもしろい話をすればいい」とか「芸を磨け」と答えると思います。授業も同じです。話を聞かない子を変えようとするよりも、授業を魅力的でおもしろいものにすること。そして、「この先生の授業は聞く価値がある」と子どもたちが信頼を寄せてくれることのほうが先だと思います。

次回は、支援の空回りについて解説します。

Illustration: Jin Kitamura


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