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通常学級での特別支援教育 第10回

通常学級での特別支援教育

2017年2月8日 更新

川上 康則 東京都立矢口特別支援学校主任教諭

通常学級で特に気をつけたい特別支援教育のポイントを、新任・若手の先生方に向けて解説します。

川上康則(かわかみ・やすのり)

1974年、東京都生まれ。東京都立矢口特別支援学校主任教諭。公認心理師、臨床発達心理士、特別支援教育士スーパーバイザー。立教大学卒業、筑波大学大学院修了。肢体不自由、知的障害、自閉症、ADHDやLDなどの障害のある子に対する教育実践を積むとともに、地域の学校現場や保護者などからの「ちょっと気になる子」への相談支援にも携わる。著書に、『通常の学級の特別支援教育 ライブ講義 発達につまずきがある子どもの輝かせ方』(明治図書出版)、『こんなときどうする? ストーリーでわかる特別支援教育の実践』(学研プラス)など。

第10回 保護者の理解を得るために

今日のポイント

  • 「あの親は、障害を受容しない」などと気軽に言ってはいけない。
  • 保護者に理解させようとする前に、自らが指導者・支援者として信頼に足る存在であるかを見直すことから始める必要がある。
  • 面談の際には、保護者の気持ちに徹底的に寄り添い、声にならないつらさにも耳を傾け、長期的にいっしょに歩んでいく覚悟をもつことが大切である。

「保護者に子どものつまずきを理解してもらうには、どのように伝えるとよいですか」といった質問を受けることがあります。答えは一つです。面談を終えたときに「面談して本当によかった」と納得し、穏やかな表情で明日に向かえる勇気がもてる、そんな伝え方が望ましいと思います。

ところが残念なことに、保護者を追い詰めたり、やり込めたりするような面談が後を絶ちません。例えば「こんなに大変な子は教師生活で初めてです」「こんなことでは将来困りますよ」「もっと手をかけてあげてください」などといった、その子の存在やそれまでの子育ての歴史を否定するようなメッセージを、保護者はどのように受け止めるでしょうか。「共に考える」という姿勢を欠いた教師の話に、保護者が心を開くことはありえるのでしょうか。

画像、保護者と先生

理解を促したいという気持ちが前面に出すぎてしまうと、かえって保護者は気持ちを閉ざしてしまうものです。今回は、面談における配慮のポイントを整理します。

【配慮 その1】 「障害受容」という言葉を使わないようにする

RKB毎日放送の神戸金史さんが、ご著書『障害を持つ息子へ ~息子よ。そのままで、いい。~』(ブックマン社)の中でこんなエピソードを紹介されていました。

何度も夢を見ました。
「お父さん、朝だよ、起きてよ」
長男が私を揺り起こしに来るのです。
「ほら、障害なんてなかったろ。心配しすぎなんだよ」
夢の中で、私は妻に話しかけます。

そして目が覚めると、いつもの通りの朝なのです。
言葉のしゃべれない長男が、騒いでいます。
何と言っているのか、私には分かりません。

ああ。
またこんな夢を見てしまった。
ああ。
ごめんね。
(以上、引用)

私たち教師は「あの親は障害の受容ができていない」などと平気で口にしてしまうところがありますが、実は、受容はそれほど簡単なことではありません。むしろ相当に困難な道のりなのだと理解しましょう。

【配慮 その2】 「うちでは困っていない」を尊重する

面談の中で子どものつまずきを伝えても「うちでは困っていない」という答えが返ってくることがあります。

私たち教師は「本当は困っているはずなのに」と決めつけてしまうところがありますが、実際には、家庭内で試行錯誤や工夫を繰り返して困らない状況を作りあげているのかもしれません。

あるいは、深刻な「困り」の連鎖が立て続けに起きていて、「こんなことくらいで音を上げていられない」という強い気持ちが「困っていない」という言葉にすり替わってしまっているのかもしれません。まずは、困らないための家庭内の取り組みを丁寧に聞き取ることから始めてみましょう。

【配慮 その3】 医療・相談機関、心理検査をすぐに勧めない

「医療機関や相談機関に行かせればなんとかなる」と勘違いしている学校関係者が少なくありません。なかには、自分の稚拙な指導を棚に上げ、「家庭や子どもに非があることを専門家に証明してもらおう」という考えをもつ人も実際にいます。そういったもくろみは、保護者に必ず伝わります。信頼関係なくして、特別支援教育は成立しません。

心理検査も同様です。心理検査は、行動の背景要因を知りたいという気持ちに応える「謎解き」であり、支援のヒントを何とか見いだしたいという熱い心に応える「宝探し」のために行われるべきであると考えます。

【配慮 その4】 「徹底的な傾聴」と「いっしょに歩む覚悟」を大切にする

我が子のつまずきを指摘された保護者が、そのつまずきと向き合い、適切な支援の必要性を理解し、子育てに前向きに取り組んでいこうという気持ちになるためには、信頼できる支援者の存在が不可欠です。

保護者に理解させようとする前に、自らが指導者・支援者として信頼に足る存在であるかを見直すことから始める必要があります。まずは保護者の気持ちに徹底的に寄り添い、声にならないつらさにも耳を傾け、長期的にいっしょに歩んでいく覚悟をもちましょう。

そこまでしても、もしかしたら保護者の信頼は得られないかもしれません。制度の申し込みなど、一度決まったことであっても、翌日には撤回されて裏切られたと思うこともあるかもしれません。それでも私たちは前向きに特別支援教育を「価値ある取り組み」として伝え続けていくことが大切だと思います。


〈参考文献〉

  • 神戸金史(2016)『障害を持つ息子へ ~息子よ。そのままで、いい。~』ブックマン社
  • 川上康則(2016)「特別支援学校:気になる子たちへの理解を促す個別面談」(曽山和彦編著『「気になる子たち」理解教育のきほん―クラスみんなで学ぶ障害理解授業の進め方』教育開発研究所、pp.64-65)

次回は、保護者との面談における配慮のポイントを整理します。

Illustration: Jin Kitamura


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