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通常学級での特別支援教育 第20回

通常学級での特別支援教育

2017年12月15日 更新

川上 康則 東京都立矢口特別支援学校主任教諭

通常学級で特に気をつけたい特別支援教育のポイントを、新任・若手の先生方に向けて解説します。

川上康則(かわかみ・やすのり)

1974年、東京都生まれ。東京都立矢口特別支援学校主任教諭。公認心理師、臨床発達心理士、特別支援教育士スーパーバイザー。立教大学卒業、筑波大学大学院修了。肢体不自由、知的障害、自閉症、ADHDやLDなどの障害のある子に対する教育実践を積むとともに、地域の学校現場や保護者などからの「ちょっと気になる子」への相談支援にも携わる。著書に、『通常の学級の特別支援教育 ライブ講義 発達につまずきがある子どもの輝かせ方』(明治図書出版)、『こんなときどうする? ストーリーでわかる特別支援教育の実践』(学研プラス)など。

第20回 二次的障害に陥らせないための
三つのポイント

今日のポイント

  • 周囲からの無理解や誤解などにより、つまずきに対する適切な支援が届かないままだと、副次的なつまずきへと進行してしまうことがある。これを「二次的障害」という。
  • 二次的障害の現れ方はさまざまであり、本来のつまずきが悪化するケースから、本来のつまずきにはなかったことが見られ、より深刻化していくケースまである。
  • 二次的障害に陥らせないためには、(1)ポジティブな自己理解、(2)貢献感覚、(3)レジリエンス(心のしなやかさ)の三つのポイントが大切になる。

画像、ポジティブな自己理解

二次的障害の予防的な対応の必要性

学習につまずきのある子は、「できない・わからない」という状況が続くと、やがて理解しようとすらしなくなっていきます。
行動につまずきのある子は、叱咤され続けることで、大人への不信感を強くしたり、自己否定が進んだりすることがあります。
対人関係づくりにつまずきのある子は、周囲の無理解などにより、不安感や強いストレスを感じて適応困難に陥ることがあります。

このように、本来のつまずきに対する適切な支援が届かないままだと、失敗経験が繰り返され、副次的なつまずきへと進行してしまうことがあります。これを「二次的障害」といいます。通常学級における特別支援教育は、本来のつまずきへの対策にスポットライトが当てられがちですが、実は、二次的障害の予防のために必要だと言っても過言ではありません。

二次的障害の原因の大半は環境要因であるとされています。具体的に言えば、周囲の人による無理解や誤解です。家族や関係者がなかなか認めようとしない場合もあれば、教師が知識不足で見過ごしたり、偏った見方で誤解したりしている場合もあります。

児童精神科医であった故・佐々木正美先生は生前、「教育現場には、【熱心な無理解者】が少なからずいる」とおっしゃっていました。私も自戒を込めて、この言葉の重さをしっかりと受け止めたいと思います。

二次的障害の現れ方

特別支援教育総合研究所の研究を参考にすると、二次的障害は具体的に以下のような形で現れることが整理できます。

  1. 本来見られているつまずきが悪化するケース
    例えば、ADHDの多動性や衝動性が激しくなっていく、など。
  2. 本来のつまずきにはないことが見られ始めるケース
    例えば、些細なことでイライラする、など。
  3. 本来のつまずきにはないことに対する「併存症」という診断がつくケース
    例えば、反抗挑発症(反抗挑戦性障害)など。
  4. 併存症があるうえで、さらなる状態の悪化が見られるケース
    例えば、素行症(破壊的行為障害)など。

これらは、(1)から(4)に進むにしたがって、より深刻化していくと捉えることができます。

心にとどめておきたいのは、本来のつまずきが改善されていくときは時間をかけて徐々によくなっていくものですが、悪化するときには比較的短期間に一気に崩れ落ちていくものであるということです。
したがって、前年度に、本来のつまずきが落ち着いているように思われていた子どもであっても、その翌年度に無理解な教師による不適切な指導が行われれば、いとも簡単に(1)の状況に陥ることがあるのです。さらに、そのことがまるで学級崩壊の原因であるかのように勘違いされている場合もあります。

大切なのは、正しく理解し、臆せず関わることだと思います。

二次的障害に陥らせないための三つのポイント

私は、二次的障害に陥らせないためのポイントが三つあると考えています。

一つ目は、「ポジティブな自己理解」です。自分の得意な部分は生かし、苦手な部分は受け止めながら、前向きな自己像を形成できるようにしていくことが大切です。特に、「自分探し」で揺れ動きやすい思春期の年代に関わる教師は、このことを常に意識しておく必要があると思います。

二つ目は、「貢献感覚」です。これは、「誰かに必要とされるという実感によって、人は幸福感を得る」というアルフレッド・アドラーの考え方をもとにしています。「支援を必要とする子」は、常に支援される側にいたいわけではありません。彼らも、誰かの役に立っていると実感することで、自分自身の存在意義や所属感を高め、成長していきます(※)。

三つ目は、「レジリエンス」です。レジリエンスは、近年さまざまな場で取り上げられている考え方で、困難や課題に対する「心のしなやかさ」を意味します。従来までは精神的な強さといえば、どんなに困難な状況でも屈せず立ち向かうといった「タフさ」がイメージされていましたが、このレジリエンスは、「激しい風雨にもしなやかにそよぎ、大雪にも春の訪れまでしなりながら耐える木」のようなイメージで、受け止めながらも立ち直ることのできる力であるとされています。

二次的障害を引き起こさないためには、上記の三つのポイントのような「視点」をもって臆せず関わることが大切です。視点をもつと意識が変わります。やがて、瞬時の判断と行動に、普段意識していることが現れるようになるはずです。

※ アドラーのいう「貢献感覚」は、アブラハム・マズローの「承認欲求」とは別のものとして整理されています。承認欲求は、自分が集団から価値ある存在と認められたり、尊重されたりすることを求める欲求とされていますが、貢献感覚は、たとえ他者から認められなくても、誰かのために貢献していると感じること自体が生きるエネルギーになるという考え方です。

〈参考文献〉

独立行政法人国立特別支援教育総合研究所「発達障害と情緒障害の関連と教育的支援に関する研究 ―二次的障害の予防的対応を考えるために―」(2012)

次回は、自分で考えて行動できる子を育てるポイントを紹介します。

Illustration: Jin Kitamura


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