みつむら web magazine

通常学級での特別支援教育 第37回

通常学級での特別支援教育

2019年6月10日 更新

川上 康則 東京都立矢口特別支援学校主任教諭

通常学級で特に気をつけたい特別支援教育のポイントを、新任・若手の先生方に向けて解説します。

川上康則(かわかみ・やすのり)

1974年、東京都生まれ。東京都立矢口特別支援学校主任教諭。公認心理師、臨床発達心理士、特別支援教育士スーパーバイザー。立教大学卒業、筑波大学大学院修了。肢体不自由、知的障害、自閉症、ADHDやLDなどの障害のある子に対する教育実践を積むとともに、地域の学校現場や保護者などからの「ちょっと気になる子」への相談支援にも携わる。著書に、『通常の学級の特別支援教育 ライブ講義 発達につまずきがある子どもの輝かせ方』(明治図書出版)、『こんなときどうする? ストーリーでわかる特別支援教育の実践』(学研プラス)など。

第37回 ゲームにはまりがちな子どもたちが
期待する授業とは何か

今日のポイント

  • 従前「よい」とされてきた伝統的な授業は、教材研究と教授法研究によって支えられてきた。しかし、今はこれだけでは通用しない。学習者である子どもをより鋭く分析する視点を含めて考えていくことが大切である。
  • ゲーム(ビデオゲーム)にはまる子どもたちは少なくない。学校現場では、とかくゲームを「良くないもの」「好ましくないもの」とみなす傾向が強いが、むしろゲームがなぜ子どもたちを惹きつけるのかを分析し、その要素を授業に活用したほうが、教育活動は充実する。
  • 学習につまずきがある子を「授業の面白さに敏感な子どもたち」と捉え直してみよう。思わず参加したくなる・活動したくなるような授業づくりをめざすきっかけになる。

「学習者の分析」をベースに据えた授業に

今も昔も、よい授業は子どもたちを魅了し、力を伸ばします。では、従前「よい」とされてきた授業と、昨今の子どもたちが求めている授業は同じでしょうか。答えは「No」です。

画像、言葉よりも先に手が出る子

従前「よい」とされてきた伝統的な授業は、教師の一斉指示が通る授業、教師の発問に対し子どもたちが挙手で応じる授業、冒頭で示されたねらいに向かって全員が意欲的に学習に向かう授業・・・などのイメージがもたれてきました。ピーター・H・ジョンストン(2018)は、このような授業観の背景には、教師は「教室で知識を与える者」であり、子どもは「知識を受け取る者」という位置づけがあると看破しています。

つまり、従前であれば、「教材研究」と「教授法研究」を中心とした準備をすれば、一応は授業が成立していた(あるいは、成立しているかのごとく思われていただけかもしれませんが)のです。

たしかに、教材研究も教授法研究も非常に重要で、欠いてはならない不易なものです。しかし、それだけをしていても授業がうまくいかない現実が今の教室には広がっています。以前までのような授業の「成功モデル」をそのまま行ってもうまくいかないのです。

今、求められているのは、学習者である子どもたちが何に興味をもち、それがなぜ子どもたちを魅了するのかを分析する視点をもつことです。そしてさらに、学習者である子どもたちの立場から、授業を見つめ直すことが大切です。

ゲームはなぜ、多くの子どもたちを魅了するのか

子どもたちが魅了される物の一つに「ゲーム(ビデオゲーム)」があります。ゲームは、学校現場では「良くないもの」「好ましくないもの」と見なされる傾向が根強いようですが、むしろ、ゲームがもつ魅力を丁寧に分析し、その要素を授業に取り入れるほうが教育活動は充実します。

ゲームが子どもたちを惹きつける理由は、以下のように整理できます。

(1)難易度の設定がうまい。

簡単すぎても、難しすぎても飽きられてしまいます。これは授業も同じです。しかもゲームのほうは、飽きられてしまったときには見向きすらされなくなります。優れたゲームは、「少し手ごわいけれども、がんばってやってみるか」という難易度をキープし続けているので、プレイヤーを数百時間も惹きつけることができるのです。

(2)ほめて育てて、達成感を高めさせるのがうまい。

「レベルが上がる」「一機増える」「ライフが回復する」など、適切な時期に「ごほうび」を得ることができます。ごほうびの獲得を目指して行動するため、プレイヤーのモチベーションを高く保つことができます。また、「リプレイ」などの機能を用いることで、うまくできた場面を即時にフィードバックできます。

(3)目標設定と参加感をもたせる工夫がうまい。

初期の目標はとても近いところに設定されていて、すぐに手が届くようになっていますが、次第に目標までの道のりが伸ばされていきます。プレイヤーに気づかれないように進めていくステップの組み方が絶妙です。また、最終目標もブレることがありません。加えて、中間目標が示される場面では複数の選択肢が示され、参加者自身が選択できるようになっています。こうした工夫を通して、プレイヤーに「自ら取り組んでいる」という実感をもたせています。

授業づくりに活用していくために

もはや「先生だから無条件に話を聞いてもらえる」という時代ではありません。「ちゃんと聞きなさい」とか「授業を聞きたい人の権利を妨げないように」と注意すれば、先生のほうに視線を向けるはずだろうと思うのは、もうすでに時代錯誤的な考え方になりつつあります。

特に、集中の持続時間が短い子どもたちや学習への動機づけが弱い子どもたちは「つまらない」と感じるのが早いです。彼らをいわば、「授業の面白さに敏感な子どもたち」と捉え直すことから始める必要があります。

聞かせようとするよりも、子どもたちが思わず取り組みたくなる授業をつくること、すなわち「自発的に心が動く」場面を生み出すことが、今の子どもたちの実態に見合う授業のあり方です。昨今の子どもたちが期待する授業を実現するためのヒントが、今回のゲームのもつ魅力の分析から見いだせそうです。

ゲームについてはまださまざまな捉えられ方があります。特に、特別支援教育の分野では「ゲーム障害(ゲーム依存)」という新たなキーワードが国際的に議論されている段階でもあります。教育現場で「ゲームが子どもたちの考える力を奪っているのではないか」という否定的な見方が根強いのもまた事実です。

しかし、子どもたちを取り巻く環境は劇的に変化しています。学校だけがそうした流れと無縁というわけにはいきません。ゲームについても、否定的な見方でとどめるのではなく、授業の効果的な進め方を教えてくれる媒体として見つめ直してみるというのはいかがでしょうか。

【参考文献】
ピーター・ジョンストン著、長田友紀・迎勝彦・吉田新一郎編訳『言葉を選ぶ、授業が変わる!』ミネルヴァ書房、2018年

次回は、衝動的に人のものに触ってしまう子について取り上げます。

Illustration: Jin Kitamura


関連記事

記事を探す

カテゴリ別

学校区分

教科別

対象

特集