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スペシャルインタビュー 新沢としひこ [前編]

「飛ぶ教室」のご紹介

2017年5月2日 更新

「飛ぶ教室」編集部 光村図書出版

児童文学の総合誌「飛ぶ教室」に関連した企画をご紹介していきます。

スペシャルインタビュー 新沢としひこ 「お父さんって何だろう?」 [前編]

「飛ぶ教室」第49号の特集は、「飛べ、おとうさん!」。子どもたちの歌を数多く手がけるシンガーソングライターの新沢としひこさんに、「おとうさん」をテーマにした歌「お父さんの歌」を書きおろしていただきました。
この歌の創作秘話や新沢さんのお父さんについてうかがったお話を、2回に分けてお送りします。

新沢さん自らが演奏する「お父さんの歌」の動画は、こちらから。

新沢としひこ「お父さんの歌」

お父さんの歌って、むずかしい?

「お父さん」をテーマに、素敵な歌を作っていただきましたが、ご苦労はありましたか?

新沢 楽しかったけど、すごく大変でした。歌詞に何かお父さんのイメージを固めて入れ込んでしまうと、それに当てはまらないお父さんがいっぱい出てきます。例えば、「力強い」「優しい」と限定的に書いたら、そうじゃないお父さんもいるというふうに。だから、今回は、「みんなそれぞれに違うお父さんがいる」っていうことで書こうと思ったんです。もちろん、お父さんを知らない子どもだっていますが、そんな子でも自分の理想のお父さんのイメージを作れたらいいなって。

ただ、「お父さん」を歌にするということは、「お母さん」のそれとは、やっぱりちょっと違いますね。

どんなところが違いますか?

新沢 お父さんとお母さんでは、子どもとの距離の取り方が少し違うかなって、僕は感じていて。母親は子どもとの結びつきが強いけど、父親はそれよりはちょっと距離がある。だから、父親は、母親よりも絶対的イメージがあまりないのかなと思いました。

「子どもとの距離が違う」というのは、おもしろいですね。「お父さんの歌」がそういった絶対的イメージの歌詞でないからか、初めて読んだとき、自分の父のことをつい思い巡らせました。

新沢 よかった! 誰もが自分のお父さんのことを考える歌にしたいなと思ったので。
僕、この歌を作りながら、もうひとつ気づいたことがあるんです。これまでに子どもの歌をいっぱい書いてきたけれども、歌詞に出てくるお父さんやお母さんは、どこか登場人物としてだけのものが多かったんだなあって。つまり、お父さんやお母さんへの愛を歌ったような歌、そういうものが、僕の歌にはすごく少なかったんですよね。

それはちょっと意外な気がします。

新沢 それは、きっと、両親が共働きで、僕は一つ上の姉と双子のように仲良く育って、家族の中での距離がいちばん近かったのが姉だったという環境だったからだと思います。なので、今回のような、ある種、客観的な歌ができたのかもしれません。

子どものすることをおもしろがる父

新沢 僕の父親は、僕が子どもの頃から保育園の園長で、母親はその保育園の保育士さんだったんです。父は、外では人に慕われる立派な先生。でも、家ではいちばん手のかかる、子どものような人だったんですよ。母にわがままを言って叱られたりしてね。涙もろいし、ちょっと間抜けなところもありました。

ただ、子どもに対する眼差しは、いつも穏やか。子どものやることには常に感心している人でした。僕は父親に、一度も叱られたことがないんですよ。

一度もですか?

新沢 はい。父は、子どもの中にある、子ども性だとか創造性だとかを見守るのが、とても好きだったんだと思います。

僕、父親の書斎やそこにある文房具で遊ぶのがとても好きで、両親が家にいないときにも、よく遊んでいたんですね。あるとき、その書斎にあった穴あきパンチが好きになったんです。ちょうど姉とままごとをやっているときだったので、その穴あきパンチの丸い破片をごはんにしてみようってひらめいた。新聞紙を使ってちょっと茶色い麦飯のようなご飯にしたり、広告を使ってカラフルにしたり。1枚の紙から効率よく、たくさんご飯を作るために折り方や折る回数を工夫したり、綺麗な丸にするために重なりに気をつけたり。そうやっていくと、丸い破片だけでなく、穴だらけの紙もでき上がる。それを窓に貼ってみたりして遊んでいました。すると、仕事から帰ってきた父親が僕らの様子を見て、「おもしろいね!」って。「書斎にあるものを勝手に使って駄目じゃないか!」なんて怒ったりせず、おもしろがってくれる。

書斎にある父の本も好きで、「さくらんぼ保育園保育実践」みたいな、子どもにはちょっと理解がむずかしそうな本も、おもしろそうなところをつまんで読んでいたんですが、それをまた父親が見て、「おまえ変わった本読んでるな」って。

そういう父の眼差しを子どもながらにすごくうれしく感じていました。僕がすることは、父親はいつもおもしろがってくれるし、決して否定されないと感じていたんです。

そうすると、お父さんは、新沢さんの将来についても自由に進んでいけばいいと思われていたんでしょうね?

新沢 いや、それが、父親はどうも僕を保育の世界の人にしたかったみたいです。それは、「保育士さんの仕事はすばらしい仕事だから、みんなやったらいい」っていう思いが、父の中にあったからなんですけどね。

思い返せば、例えば、僕が絵を描いていると、父親が「いいね、どんどん描きなさい」って言う。続けて、「絵を描くことは、将来保育園で働くときにとっても役に立つからね」って。音楽をやっているときも同じで、僕が何をやっても、「それは全部、保育士になったときに役に立つから」って(笑)。

そういうふうに言われて、新沢さんは、反抗心は起こらなかったんですか?

新沢 そうですね。そんなことは言いつつも基本的には自由にやっていいって言われていたから、保育士に結びつけた話は特に気に留めていなかったですね(笑)。でも結果的に保育の仕事にも関わったのだから、長年の父の刷り込みが成功したということかもしれません。……今思うと恐ろしい教育だよね(笑)。


写真:鈴木俊介

新沢としひこ(しんざわ・としひこ)

1963年東京都生まれ。シンガーソングライター。「さよならぼくたちのようちえん(ほいくえん)」ほか、「世界中のこどもたちが」「にじ」「ともだちになるために」など、作詞作曲は多数。

「飛ぶ教室」49号の内容は、こちらからご覧いただけます。

飛ぶ教室 第49号(2017年春)

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