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通常学級での
特別支援教育

川上 康則

東京都立矢口特別支援学校主任教諭

通常学級で特に気をつけたい特別支援教育のポイントを,新任・若手の先生方に向けて解説します。

川上康則(かわかみ・やすのり)

1974年,東京都生まれ。東京都立矢口特別支援学校主任教諭。臨床発達心理士,特別支援教育士スーパーバイザー。立教大学卒業,筑波大学大学院修了。肢体不自由,知的障害,自閉症,ADHDやLDなどの障害のある子に対する教育実践を積むとともに,地域の学校現場や保護者などからの「ちょっと気になる子」への相談支援にも携わっている。主な著書に,『こんなときどうする? ストーリーでわかる特別支援教育の実践』(学研プラス)など。

第19回 子どもの「負の部分」に
目が向いてしまうときに

2017.11.14

今日のポイント

  • 子どもの「できないこと」などの負の部分の情報ばかり集めても,決して解決の糸口は見いだせない。そうした見方は,教師の焦りの裏返しであることが多い。
  • 子どもが問題を起こすことを前提に関わる大人は,子どもから信頼されない。うまくいかないとき,課題が大きいときほど,その子のポジティブな面を見逃さないようにするとよい。
  • 特別支援の制度の活用を考える前に,まずは自分の見方を見直し,「ポジティブな子ども理解の視点」に立ってみよう。

画像,ポジティブな子ども理解の視点

平成19年度に通常学級での特別支援教育が始まって,すでに10年の月日が経過しました。この10年間の学校現場の全体的な意識の変化を,私は肌で感じてきました。しかし,まだまだ10年前とほとんど変わらない意識の先生に出会うこともあります。

例えば,つまずきのある子に対して「この子は褒めどころがない」と言い切る先生がいます。また,教育相談や特別支援教育についての相談票に「〇〇できない」「〇〇しようとしない」という言葉を並べる先生もいます。

子どもの実態を整理するときに,できないことや難しいことなどの負の部分(影の部分,ネガティブな部分)の情報ばかりを集めてしまうのは,もしかしたら「苦しい状況の中で何とか打開策を見いだしたい」という気持ちからくるものなのかもしれません。しかし,その多くから,本音の部分で「早く自分にとって好都合な状況を作り出したい」という教師の焦りがうかがえます。

このような,相手に対するネガティブな見方こそが,かえって大人も子どもも苦しませてしまう要因であるように思います。

子どもが問題を起こすことを前提に関わる先生は,何かあるごとに「またお前か」とぼやきます。何もないときですら「今日は何もしていないな,よしよし」などと,子どもの気持ちを逆なでするような不用意な言葉かけをしてしまうことがあります。これでは,子どもたちだって「あの先生は,自分のことを信用していない」と思うはずです。

これは大人にもいえることです。上司や先輩から「褒めるべきところがない」と言われたら,その人のもとで働くことが嫌になってしまうのではないでしょうか。

大切なのは,うまくいかないとき,難しいとき,課題が大きいときほど,相手のポジティブなところを見逃さないようにする,ということです。

例えば,「褒めどころがない」と思われる子であれば,叱られるようなことをしていない場面はすべて肯定的に見てあげる。「〇〇できない」という言葉が並んでいた子であれば,それと同じ数だけ「できている」ことを探す。このような「ポジティブな子ども理解の視点」こそが,問題解決の糸口となることが少なくないのです。

通常学級での特別支援教育を考える場合,「通級による指導を勧めたいのだがどうすればよいか」とか「学習支援員をつけたいのだが対象となるか」など,制度をどのように活用するかが議論の対象になりがちです。

確かに,そうした制度が,対象となる子どもの学びの充実のために必要なこともあります。しかし,制度の活用の前にやらねばならないこと,それは教師自身が変わることです。視点を切り替えてポジティブに子どもを見ることは,その第一歩だといえます。

私の経験では,教師というものは,経験年数が長くなるほど自分を振り返ることが苦手になっていくように感じられます。若手の先生方には,子どもの負の部分に着目してばかりの先輩教師の姿は「反面教師」にして,柔軟に自分を変えていける教師になっていってもらいたいと切に願います。

次回は,12月中旬予定です。

Illustration: Jin Kitamura