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子どもの心を耕す外国語活動 第1回

子どもの心を耕す外国語活動

2016年4月26日 更新

加賀田 哲也 大阪教育大学教授

「かかわり合い、伝え合い、つながり合う」ことを目ざした、小学校英語の実践をご紹介します。

加賀田哲也(かがた・てつや)

1965年福岡県生まれ。大阪教育大学教育学部教授。米国シアトルの州立ワシントン大学(理論言語学)および大学院(教育心理学)を修了後、大阪大学大学院人間科学研究科博士課程後期修了。博士(人間科学)。大学で教員養成に携わる他、小学校、中学校、高等学校などで英語授業改善のための指導や教員研修に当たっている。光村図書中学校英語教科書『COLUMBUS 21』編集委員を務める。

第1回 はじめにあえて考える、外国語教育の意義とは?

はじめまして。加賀田といいます。
この連載では、子どもの心を耕す(=子どもの人間的な成長につながる)外国語教育について考えていきたいと思います。

まずは、私のプロフィールから。私は、現在、教員養成系の大学で英語教育を専門に教えていますが、学生の頃は、言語学、教育心理学(その中でも臨床心理学)、そして大人になってからは人権教育を学びました。大学で英語教育を講じる身としては、異端かもしれません。しかしながら、臨床心理学や人権教育を通して得た知識や実践は、外国語教育に十分生かすことができると確信しています。

挿絵、つながり合い

小学校での外国語活動を考えるとき、目ざすことは三つあると思います。(1)スキル面の理解や習熟に加え、(2)自己理解や他者理解、それに(3)人間関係調整能力の習得です。私はここ25年余り、外国語教育の中で、「言語」「心理」「人権」といった概念をいかに融合すれば、外国語教育が子どもたちの人間形成に貢献できるかについて研究しています。

私が目ざす外国語活動は、「かかわり合い、伝え合い、つながり合う」の三拍子がそろったものです。つまり、最終的には学級全体が「つながり合う」ことを目ざすことになります。そのためには、子どもたちをつながらせるための活動を設計する必要があります。私がお世話をしている小学校では、この「つながり合う」ことを意識した活動を行うことで、クラス内の男女の仲がよくなった、特別な支援を要する子どもたちが積極的に活動に参加するようになった、等の声をよく耳にします。
昨今、他者とかかわることができない、あえてかかわろうとしない子どもたちが増えているといわれています。また、日本の子どもたちの自己信頼感や自己肯定感の低さも指摘されていますが、このことが他者との関係性の構築に深く関係していると思われます。

さて、「自己実現」という洒落た言葉がありますが、自己実現は「人との関係性の中で結実する」といわれています。決して一人では到達できないわけなんです。常に「自己理解→他者理解→さらなる自己理解→さらなる他者理解→……→自己実現」というプロセスをとるんですね。
したがって、自己信頼感や自己肯定感が低い子どもたちには、とりわけ他者とかかわらせることが必要です。心理学的には、自己理解の深さは他者理解の深さに比例する、また、人権教育的には、自己を大切にしようと思う心の深さは、他者の人権を尊重しようとする心の深さに比例するといわれています。つまり、まずは自己をしっかりと理解し大切にしなければいけません。

ですから、子どもたちが自身に目を向けさせる活動が大切なんです。言い換えると、外国語活動では、いかに他者とかかわらせ、子どもたちの気持ちや考えをありのままに表現させ、つながらせ、子どもたちの自己信頼感の回復や自己肯定感の高揚へとつなげていくかが鍵となります。

次回からは「かかわり合い、伝え合い、つながり合う」ことを目ざした活動を紹介していきます。

次回は、「色」や「形」を使って自分や他者への理解を深める活動を紹介します。

Illustration: Atsushi Hara


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