「語りかける」英語教育
2017年5月22日 更新
達川 奎三 広島大学教授
明日の授業のスパイスとして、英語を学ぶ楽しさを「語る」「語りかける」視点から解き明かします。
達川奎三(たつかわ・けいそう)
1958年広島県生まれ。広島大学外国語教育研究センター教授。兵庫教育大学大学院修了(学校教育学修士)の後、広島大学大学院教育学研究科修了(教育学博士)。中・高等学校の英語教員研修などに数多く携わっている。著書に『COMMUNICATION STRATEGIES FOR INDEPENDENT ENGLISH USERS』(英宝社/編著)、『Global Issues Towards Peace』(南雲堂/編著)など。光村図書『COLUMBUS 21 ENGLISH COURSE』編集委員。
第3回 やり取りをスムーズにする方法
外国語を学ぶ主たる目的の一つは、それを用いてコミュニケーション(意思疎通)をすることです。しかし、語彙や文法をひととおり習得すれば自動的にコミュニケーション能力が備わるかというと、必ずしもそうではありません。語彙や文法に加え、コミュニケーションをスムーズにするための「方略」(strategies)を身に付けておくことも大切です。
コミュニケーション方略(communication strategies: CS)については、下のリストが参考になります。
(1) Paraphrase |
【言い換え】 |
---|---|
(2) Borrowing |
【借用】 |
(3) Appeal for assistance |
【援助の要請】 |
(4) Mime |
【身振り】 |
(5) Avoidance |
【回避】 |
Tarone (1981)
以下に、これらの方略のいくつかを説明してみましょう。
使いたい語が表現できないとき 【言い換え】
どんな人でも、全ての単語を知っているわけではありません。例えば、“a (potato) peeler”が欲しいのにその言葉が思い浮かばないなら、
“I want to get a cooking tool. I need one to take the skin of potatoes off.”
「調理器具が欲しいの。ジャガイモの皮を剥くものが必要なんだけど」
と言えば、相手は“a (potato) peeler”(ジャガイモの皮むき器)をイメージしてくれるでしょう。
相手の言葉が聞き取れないとき 【援助の要請】
聞き取れないときは、聞き取れなかったことを直接相手に伝えたり、もう一度言ってもらうよう頼んだりします。
〈例1〉
A : This is Joe Smithson of ABC Company. Could I please talk to Ms. Suzuki?
こちらはABC社のジョー・スミッソンです。鈴木さんをお願いします。
B : Good morning … Sorry, I didn’t quite catch your name. Mr....?
おはようございます…すみません。お名前がよく聞き取れなかったのですが…。
また、自身の理解に確信がもてないときにも、繰り返しを求めます。
〈例2〉
A : Do you know the prize in this advertising campaign?
この広告キャンペーンの景品が何か知ってる?
B : No. What is it?
知らない。何?
A : They give the winner a free trip to the moon!
無料で月旅行に招待してくれるんだ!
B : They give what?
何をくれるって?
A : A free trip to the moon!
無料の月旅行だよ!
B : Wow!
すごい!
誤解や間違いなどを避ける 【回避】
さらに、予想されるコミュニケーションの挫折(相手の誤解や間違い)をできるだけ回避することも大切です。
A : Excuse me, but is this the through train to Himeji?
すみませんが、これは姫路直通の電車ですか。
B : I’m afraid not. You should change trains at Kobe.
違うと思います。神戸で乗り換えが必要ですから。
A : I’m sorry. Where?
すみません。どこですか。
B : At Kobe. That means you should change trains two stops from now.
神戸です。つまり、ここから二つ目の駅で乗り換えが必要です。
「神戸」とだけ言うよりも、「二つ目の駅(次の次の駅)」と言い添えると、尋ねた人はより安心することでしょう。このような一言を添えることは、相手への「思いやり」を持つことが前提とも言えます。
最後に時刻の表現をめぐる場面を見てみましょう。
A : We are going to take the five to two train.
私たちは2時5分前の電車に乗ります。
B : Pardon?
何とおっしゃいましたか。
A : The five to two train.
2時5分前の電車です。
B : Is it 5:22?
5時22分ですか。
A : No. It's 1:55. That means five minutes before two o'clock.
いいえ。1時55分です。つまり、2時の5分前です。
B : Oh, I understand.
ああ、わかりました。
英国と米国では時刻の表し方が異なることが多く、誤解が生じる可能性があります。
このように自分が知っている表現を言い換えたり、事前に間違いを避けたり、聞き返したりしてお互いの意思疎通をよりスムーズに行うよう心がけることは、実は日本語でのコミュニケーションでも無意識にやっていることです。ちょっとしたコツを意識して、英語でも円滑なコミュニケーションを図りたいものです。
Illustration: 福々 ちえ