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「語りかける」英語教育 第4回

「語りかける」英語教育

2017年6月20日 更新

達川 奎三 広島大学教授

明日の授業のスパイスとして、英語を学ぶ楽しさを「語る」「語りかける」視点から解き明かします。

達川奎三(たつかわ・けいそう)

1958年広島県生まれ。広島大学外国語教育研究センター教授。兵庫教育大学大学院修了(学校教育学修士)の後、広島大学大学院教育学研究科修了(教育学博士)。中・高等学校の英語教員研修などに数多く携わっている。著書に『COMMUNICATION STRATEGIES FOR INDEPENDENT ENGLISH USERS』(英宝社/編著)、『Global Issues Towards Peace』(南雲堂/編著)など。光村図書『COLUMBUS 21 ENGLISH COURSE』編集委員。

第4回 さまざまな意味をもつ単語たち

英語を学んでいると、語彙力を伸ばしたいと願うようになります。語彙力とは、どれだけ多くの単語を知っているか(「広さ」「語彙サイズ」)と、その単語の使い方をどれだけ理解しているか(「深さ」)の二つの側面から捉えることができます。言語の運用という視点から見ると、後者は大変重要です。そこで今回は、この「深さ」の側面から、英単語の語義がどのように変化していくのかについて注目してみたいと思います。

まず、英単語の“mouse”は、どんな意味でしょうか。多くの人は「ネズミ」と言い、またある人は「コンピュータのマウス」と答えるでしょう。歴史的には「ネズミ」という意味が先にあり、後に「コンピュータのマウス」の意でも使われるようになったことは御存知の通りです。また、“keyboard”も、従来は「(ピアノなどの)鍵盤」や“electric keyboard(鍵盤楽器)”のことでしたが、現在では、コンピュータのキーボードを意味することが多くなりました。このような現象を「語義変化」と呼びます。

語義変化は、大きく次の四つのパターンに分けられます。

(1) 意味の「堕落」=否定的な意味をもつようになった単語。
(例) silly
幸せな、恵まれた

無邪気な

(現在の意味)馬鹿な、愚かな

(2) 意味の「向上」=肯定的な意味をもつようになった単語。
(例) nice
愚かな、無知な

派手な、無精な

非常に念入りな、慎重な

(現在の意味)同意できる、心地よい、親切な、魅力的な

(3) 意味の「拡大」=より一般化した意味をもつようになった単語。
(例) office
ある特定の宗教的な勤め(僧侶や修道女のみがofficeを行うことができ、それは毎日執り行われた。)

(現在の意味)公的な役職や義務、人々が働く部屋

(4) 意味の「縮小」=より特化した意味をもつようになった単語。
(例) mete(現在はmeatと綴る)
固体の食料(全般)

(現在の意味)特定の種類の動物の肉

ところで、“toast”という単語には二つの代表的な意味があります。「(パンの)トースト」と「乾杯、祝杯」という意味ですね。この二つの意味は語源的にどう関連しているのでしょうか。私は多くの英語母語話者(教員)に尋ねてみましたが、きちんと答えられた人は一人もいませんでした。

ある書籍には、「当時(中世の頃)も人々は食事の際にワインを飲んでいたが、ワインの質(味)が悪く、それを補うためにトーストの欠片を入れた。」とあります。そのため祝杯のワインにはパンの“toast”が欠かせず、そこから“toast”という語に「乾杯」の意が加わったと考えられます。実際、OED(Oxford English Dictionary)には、シェークスピア作品中の次のような文が引用されています。

“Go, fetch me a quart of Sacke, put a toast in’t.”
Sacke(ワイン)を1クォート持って来てくれ、トーストを入れてだ。

(1598 Shakes. Merry W. iii. v. 3)

辞典(辞書)における語義の配列には、次の3種類があります。

  1. 歴史主義……通時的辞書と呼ばれ、その代表例は上述のOEDです。
  2. 頻度主義……それぞれの語義の中で、頻度に基づいて編纂されたもので、代表例としてはCOBUILD などがあります。
  3. 中核的意味主義……根底に流れている共通の意味を押さえ、派生的な意味関係などを解説している、一般的な学習用辞書などです。

1のOED のような通時的(語源や語義変化などが古い順に示された)辞書を活用すれば、現在なぜその意味で使われているのか、あるいはどうして複数の異なる意味をもつようになったのか、などについて理解できるでしょう。

英単語の“salary”(給料)や“sausage”(ソーセージ)はともに“salt”(塩)に起源をもつことはよく知られています。

また、“court”(法廷、宮廷、テニスなどのコート)“paper”(紙、新聞、文具)“spring”(春、ばね)“train”(列車、訓練する)などのように、私たちの周りには複数の意味をもつ単語が溢れています。

先生がそれぞれの単語がもつ意味の背景を少し丁寧に探って説明することで、生徒も興味をもち、英語学習がより楽しくなるでしょう。

Illustration: 福々 ちえ


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