
学力を伸ばす学級経営Q&A
2019年6月14日 更新
神山 安弘 専修大学客員教授
「主体的・対話的で深い学び」の視点から学級経営を考えるヒントを紹介します。
神山安弘(かみやま・やすひろ)
1951年横浜市生まれ。専修大学客員教授。元東京都江東区立明治小学校統括校長。文部科学省「全国学力・学習状況調査の分析・活用の推進に関する専門家検討会議委員」などを歴任。
第8回 6月の学級づくりのポイント
~学級のみんなが参加できる「対話的な学び」~
学級は、教師が子どもの個性や可能性を見つけ「育てる」場所であり、子どもが自分の力を発揮しながら「育つ」場所です。優れた学級経営は、子どもの心や学力を育てます。そして、学級づくりが進むと「子どもの力」は伸びます。
このコーナーでは、若い先生方から寄せられた質問をもとに、私の長年の経験を通して見えてきた「子どもの学力を伸ばす」学級経営の在り方についてお答えします。
小学校では新学習指導要領が2020年4月から完全実施されます。移行期間の今年度はその趣旨を理解し、授業改善を図ることが大切です。そのポイントが「主体的・対話的で深い学び」の視点からの授業改善の取り組みです。
そこで今年度の「学力を伸ばす学級経営」は、『主体的・対話的で深い学び』について理解を深め授業改善をするための具体的な内容を中心に連載をしたいと思います。
Q.新しい学級を担任して3か月になります。子どもたちは友だちや学級にも慣れてきたので、授業の「対話的な学び」を充実させたいと思いますが、どのようなことを大切にすればいいでしょうか。
◆6月の学級づくりのイメージ
6月の学級づくりは、今年度、学級担任として目指した「学級づくり」や「授業づくり」を一定の段階まで創りあげる時期です。4月からの学級経営では、友だちや教師との人間関係の構築、学習規律や生活規律、授業の進め方のルールなど、繰り返し指導し定着を図ってきたと思います。その成果を子どもとともに確認する時期だといえます。
また、保護者が学校公開など授業を参観する機会もあり、子どもが活躍する授業を実践し保護者との「信頼関係」を築いていくことも大切なポイントです。
◆「対話的な学び」の実際から
若手教師の国語科の授業を参観しました(4年生「大きな力を出す」「動いて、考えて、また動く 」)。授業はどの子も「参加」する「対話的な学び」にするように構成され、次のように展開されていました。
【本時の学習課題】
筆者の考えに対して自分の考えをまとめ、伝え合おう。
【学習活動】
①自分の考えをノートに書く。
②グループで書いた文章を読み合い交流する。
③自分の考えやグループで話し合ったことを全体で交流する。
④「学習感想」を書き、発表する。
この授業を参観して、子どもの学びから「あれ!」と思うことがありました。教師が目指した方向に学習活動が向かっていない場面が見られたからです。
教師が「予想した授業」と「実際の授業」のギャップ
「①自分の考えをノートに書く」活動は、筆者の考えを理解し、自分の考えをまとめることです。ところが、本時までに「筆者の考え」を理解できていないまま、自分の考えを書き、交流に参加していた子がいたのです。
「②グループで書いた文章を読み合い交流する」活動では、子どもが自分の体験をもとに個性豊かに多様な自分の考えをノートに書き、内容を交流します。しかし、子どもは友だちの多様な内容を理解することや、活用することができないまま交流を行っていました。
「③自分の考えやグループで話し合ったことを全体で交流する」活動では、教師が「何を」「どのように」するのかという活動の具体的な内容を指示しなかったため、個人やグループの受けとめに違いが生じ、伝え合う活動の「学びの方向」が曖昧になっていました。
事例から「対話的な学び」を進めるためのポイントを学ぶ
1 対話的な学びの「目的」
何のために「対話的な学び」をするのかを明確にすることです。目的を明確にすることで学びの必然性が生まれます。そして、何を伝え合うのか、伝え合った成果をどのように活用するのかなど「目的」を明確にして実践することが大切です。
2 対話的な学びの「進め方」
どのように「対話的な学び」を進めるのかを明確にすることです。学びの方向である進め方が、はっきりすると学びが焦点化します。授業では「伝え合う」「交流する」「話し合う」の言葉が使われていますが、具体的な活動内容を示し、目的に応じた進め方を選択し授業を行うことが大切です。
3 対話的な学びの「成果の共有」
どのように「対話的な学び」の成果を学級で共有するのかを明確にすることです。共有するための具体的な方法を示すことで学習のゴールのイメージがもてます。「対話的な学び」の成果を共有することで、授業の目標の達成状況も確認できます。
◆どの子も『参加』する「対話的な学び」を実践するために、子どもに「学ぶ力」を育てていきましょう。
1 子どもが授業の「課題」を把握する力
子どもが授業の「課題」を理解することは、主体的に学ぶスタートラインに立つことです。学習課題を提示し何を学ぶのかを確認するなど授業の構成や学習活動の目的を示すことで、子どもは「見通し」をもち学習に取り組むことができます。
2 子どもが「自分の考え」をもつ力
子どもが課題に対する「自分の考え」をもつためには、考える材料と考える時間が必要です。また、ノートやワークシートに「自分の考え」を表現させることは、「対話的な学び」の準備だけではなく、子どもの学びの変容を見取るための大切な記録となります。
3 子どもが対話的な学びを「進める力」をもつ力
・協働的に学ぶことの「意欲」や「態度」
子どもが協働的に学ぶことが楽しいと感じることや新しい発見があることです。協働的な学びの楽しさを実感することで意欲や態度は育まれます。
・自分の考えを「伝える力」や友だちの考えを「聞く力」
自分の考えを伝える力、友だちの考えを聞く力を育てることは学級経営の基本です。伝えることや聞くことは、他者と共に生きることの大切な条件です。
・友だちの考えを「理解する力」や「活用する力」
友だちの考えを理解することは、他者への思いや応援する心の表出です。活用することは、新しい自分を発見することや新しい考えを生みだす創造的な営みです。
次回は、「思考ツール」を活用した対話的な学びについて取り上げます。
Illustration: みずうちさとみ