学力を伸ばす学級経営Q&A
2019年9月4日 更新
神山 安弘 専修大学客員教授
「主体的・対話的で深い学び」の視点から学級経営を考えるヒントを紹介します。
神山安弘(かみやま・やすひろ)
1951年横浜市生まれ。専修大学客員教授。元東京都江東区立明治小学校統括校長。文部科学省「全国学力・学習状況調査の分析・活用の推進に関する専門家検討会議委員」などを歴任。
第9回 9月の学級づくりのポイント
~「思考ツール」を活用した対話的な学びについて~
学級は、教師が子どもの個性や可能性を見つけ「育てる」場所であり、子どもが自分の力を発揮しながら「育つ」場所です。優れた学級経営は、子どもの心や学力を育てます。そして、学級づくりが進むと「子どもの力」は伸びます。
このコーナーでは、若い先生方から寄せられた質問をもとに、私の長年の経験を通して見えてきた「子どもの学力を伸ばす」学級経営の在り方についてお答えします。
小学校では新学習指導要領が2020年4月から完全実施されます。移行期間の今年度はその趣旨を理解し、授業改善を図ることが大切です。そのポイントが「主体的・対話的で深い学び」の視点からの授業改善の取り組みです。
そこで今年度の「学力を伸ばす学級経営」は、『主体的・対話的で深い学び』について理解を深め授業改善をするための具体的な内容を中心に連載をしたいと思います。
Q1.9月になり長い夏休みが明けて子どもたちが教室に帰ってきました。子どもを学校生活のリズムに早く戻し、充実した授業を実践したいと思います。どんなことに気をつければよいでしょうか?
◆9月の学級づくりのイメージ
9月の学級づくりのテーマは、長い夏休みの生活から子どもの「心と体」をリセットし、「学び」に磨きをかけることです。4月から繰り返し指導してきた「学校生活のリズム」「学級生活のルール」「学習規律や学習ルール」の確認と徹底です。夏休み期間中、子どもが過ごす家庭生活は多様です。まず、規則正しい学校生活のリズムに戻すことです。ポイントは「学級経営」の確認、「子どもの変化」への対応、「授業」の充実です。
(1)「学級経営」の確認
子どもの学校生活の基盤は「学級」です。9月からの学級が、子どもが安心して自分を発揮でき、友だちや先生がいる学級が大好きになるような学級づくりを目指しましょう。4月から継続してきたこと、9月から新たに実践することなど「学級の目標」「学級生活の約束」「子どもの目標」などを確認し「学級経営」を行いましょう。
(2)「子どもの変化」への対応
長期間の夏休みは子どもが大きく成長・変化する時期です。新しいことへの挑戦の経験、友人関係の変化、家庭での生活や環境の変化などによる心や体の変化や学習への意欲、学級の人間関係、物事の考え方など多様な変化が表出します。学級担任として、9月は子どもが大きく「変化」するという認識をもち「子ども理解」に努めましょう。
(3)「授業」の充実
4月から子どもたちに定着を図ってきた「学習規律・学習ルール」を確認しましょう。真面目に意欲的に授業に向かう態度の確立、発言の仕方・話の聞き方、考えをまとめる技術、話し合いのルール、ノートづくり、そして、授業づくりで最も大切な「授業はみんなで創る」ことを確認しましょう。
Q2.9月からの授業改善にあたって、どのようなことに気をつけて進めればよいでしょうか?
◆9月に教師が確認したい授業改善のポイント
学年のスタートをした4月に、学級担任として目指した「授業づくり」を確認し、9月からどのように授業改善を実践するのか自分の目標を明確にしましょう。具体的には、以下の3点がポイントです。
①授業改善の「課題」を明確にする。
②課題解決の「方策」を決める。
③成果の検証を「いつ」「どのように」するのかを決める。
『思考ツール』を活用することは授業改善の「課題」の一つです。『思考ツール』を活用した対話的な学びは、子どもが「参加」しやすいことや友だちと共に学ぶ楽しさを実感することができる学習活動です。また、「学び合い」を通して変化する思考を「可視化」することができます。
『思考ツール』を実践するためには、教師の確かな教材研究や子どもが学びに向かう意欲・学習技術の基礎などの準備が必要です。
前回(第8回)、確認した「対話的な学び」を進めるためのポイントの「目的」「進め方」「成果の共有」を実践します。そして、活動場面では、対話的な学びが子どもにとって「必然性」があり、学び合う意欲が高くなる学習課題を設定します。そして、対話的な学びの基本である子どもの「話す力」「聞く力」の指導を確認し実践します。
◆『思考ツール』を活用した対話的な学びの実践
(1)『思考ツール』を活用した授業の実際
5年国語科で『思考ツール(ピラミッドチャート)』を活用した授業です。学習課題「よりよい学校にするための方法をグループで話し合おう」を設定し、グループごとに以下のステップで「ピラミッドチャート」を活用します。
①個人の意見を付箋に書く。
②ピラミッドの底辺に全員の付箋を貼る。
③グループで意見をよりよい考えへと練り上げる。
④意見をつなげたり、補ったりして上の段へ書き込み、さらに重要な内容を最上段へと絞り込む。
授業は、「ピラミッドチャート」を進める視点を「自分たちの力で実現できること」「今の学校に必要なこと」と焦点化し、個人の意見や情報を整理し、実践できる活動をグループで一つ選びます。次に各グループ決まった内容とその理由を学級全体に報告します。そして、各グループの意見から学級として実践する内容を決定します。
(2)学習活動のねらいと『思考ツール』の活用
学習活動のねらいに対応した『思考ツール』は、思考を整理するのに有効な活動です。光村図書「国語」教科書6年P260~261に代表的なツールが紹介されているので、参考にしてみてください。
例えば、「ベン図」は、異なる立場の情報を整理し共通点や相違点を明らかにできます。「ウエビングマップ」は、中心にテーマをおきイメージを広げたいときに使います。「座標軸」は、2つの価値から情報を分析する複眼的思考をするときに活用できます。
他にも多数の『思考ツール』がありますが、子どもの発達段階を考慮することや育てたい「思考スキル」を検討し活用することが大切です。授業で『思考ツール』を使うことが目的ではなく、学級の実態から学習活動を活性化することや子どもに育てたい「思考スキル」など、活用する目的を明確し実践することがポイントです。
(3)『思考ツール』を活用するために
『思考ツール』の学習訓練
『思考ツール』は、子どもが意欲的に学習活動に「参加」することができます。そのために、子どもがツールを活用する基本的な訓練(習得する時間の確保)が必要です。
指導計画に位置付ける
『思考ツール』を活用するには、育てたい「思考スキル」を明らかにし、学年、教科、教材の年間指導計画に『思考ツール』を活用する授業を位置付けます。
「個の育成」と「集団の育成」
『思考ツール』を活用する授業は、子どもが主体的に学びに向かう力や友だちと協働して学ぶ力を活用する活動です。「学級経営」の充実が授業づくりの基盤になります。
次回は、低学年から実践する「対話的な学び」についてです。
Illustration: みずうちさとみ