
探求的な学習で鑑賞を深める
2015年9月14日 更新
一條 彰子 東京国立近代美術館主任研究員
教育普及プログラムに力を入れる東京国立近代美術館の、学芸員の方にお話を伺いました。
第3回 「鑑賞教育.jp」は、授業に使ってほしいツール
――前回(第2回参照)、子どもたちに見せる作品の目安というお話で、「鑑賞教育.jp」というサイトのことが出てきました。このウェブサイトについて、もう少し詳しく教えてください。
一條:このサイトはほかの国立美術館の学芸員、大学の研究者と一緒に行った科研費研究(※)の成果の一つです。発達段階(学年)と学習課題を参照したキーワードを組み合わせて、ふさわしいと思われる作品を一覧にしたものです。
作品は全て国立美術館・博物館の所蔵作品で、日本の古典作品から現代美術にいたるまでラインナップされています。作品画像をクリックすると学校の電子黒板やプロジェクター投影にも耐えられる解像度の画像を見ることができます。また、部分拡大もでき、詳細な観察も可能です。さらに発達段階に合わせた作品解説や、教師や大人向けの文脈に則った解説も読むことができます。当館や国立美術館に出向くのが難しい地域の学校でも活用できるように制作しました。
「鑑賞教育.jp」のサイトには、「鑑賞教育キーワードmap」というページがあり(画像左)、ページ上部にある[学年][キーワード]にチェックを入れると、鑑賞にふさわしい作品のページにアクセスできる(画像右)。
©JSPS KAKEN 24300315
――収蔵品を使った教育普及プログラムの研究がテーマだったそうですが、海外の美術館での視察などがウェブサイトに反映されているのですか。
一條:この研究のために、アメリカやオーストラリアの美術館や学校を視察したのですが、例えばアメリカの学校ではナショナル・カリキュラム(日本の学習指導要領にあたる)で学科別教育目標が明確に定められているんです。何年生では環境問題を学ぶために化学ではこれを学ぶ、であるとか。ニューヨークのグッゲンハイム美術館やニューヨーク近代美術館、メトロポリタン美術館などもそれに従って学年と学科を組み合わせたスクール・プログラムを組んでいます。日本の学習指導要領はアメリカのものとは性格が違いますから、研究者で話し合って、子どもの発達段階、鑑賞対象、鑑賞の方法、学習課題などを吟味して、現在のキーワードに行き着きました。
――このウェブサイトに挙げられているキーワードは、他館の収蔵品にも応用できるのでしょうか。
一條:ぜひ、トライしてほしいと思います。日本の公立美術館の多くは所蔵品を持っていますから、学校の先生とも協働して、その地域ならではの発達段階にふさわしい鑑賞作品を考えるきっかけにしてもらえるとうれしいです。もちろん、「鑑賞教育.jp」も学校で積極的に活用してもらいたいと思っています。
――本日は、ありがとうございました。
(※)科研費研究……日本学術振興財団による研究助成事業の一つ、科学研究費助成事業の助成金を受けた研究こと。
関連書籍
奥村高明 著 定価:本体1,950円+税 / A5判、192ページ / ISBN978-4-89528-895-8
上野行一 著 定価:本体2,500円+税 / A5判、296ページ / ISBN978-4-89528-894-1
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