そがべ先生の国語教室
2015年12月9日 更新
宗我部 義則 お茶の水女子大学附属中学校副校長
30年の教師生活で培った豊富な実践例をもとに、明日の国語教室に役立つ授業アイデアをご紹介します。
第9回 「比べる」ことで「読む力」を引き出す(1)
――「走れメロス」(2年)
前回、「比べる」という思考・活動が、「考える力」を引き出し伸ばしていくために効果的だと述べました(第8回参照)。
今回は、「比べる」ことによって「読む力」を高めていく授業の例をご紹介しましょう。
「走れメロス」とそのモチーフになった「人質(シラー作)」を比較して読む授業です。
ご存じの通り、太宰治の「走れメロス」には、創作のモチーフになった詩が存在します。シラーの「人質」という詩です。「人質」にはいくつかの訳が知られていますが、太宰が見た可能性が高い『新編シラー詩抄』(訳:小栗孝則/改造社 1937年 ※光村図書『学習指導書』にも掲載)を使いました。
授業の概略は次の通りです。
- 太宰治「走れメロス」とシラー「人質」とを比べ読みして、作者が原詩に何を肉付けし、どう書き換えて小説化したのか、創作上の意図や、その変更から「走れメロス」を読み解く。
- 学習における取り扱い方
- 「違い」の発見によって「なぜ変えたのか」という問いを引き出すことで、読みの目的と読んで表現する「必然性」を生み出す。
- 気づいた「違い」について、自分の読み・解釈をつくり、他者との交流を経て、自分の解釈をまとめるという流れで展開する。
- 主題や人物の心情等の読解・追究自体は目標とせず、小説化にあたっての書き手の意図、小説における設定や表現の効果を読む読みの学習の成立を目ざす。
「走れメロス」と「人質」を比べると、生徒たちはどんな「違い」に気づくでしょうか。
「走れメロス」をA3用紙1枚に印刷した全文プリントで通読し、ひとしきり感想を話し合った後、次のように話して「人質」の全文プリントを配布し、次のように投げかけました。
「実は、太宰のメロスには元になった作品があります。ドイツの詩人で歴史学者でもあるシラーという人が書いた『人質』という題の詩です。読んでみましょう」
詩を読み終えた生徒たちは、一斉に沈黙しました。「感じたことを言って良いよ」と促すと、口々に、「そっくりすぎる」「メロスって太宰が作ったんじゃなかったの?」「これはパクリのレベル」などと感想を話しました。
そんな生徒たちに、私は次のように問いかけました。
「太宰は『走れメロス』を発表した際、『古伝説とシルレルの詩から』と明記していて、話の原典が存在することを表明しています。だから、パクリというのとは違いますね。一種の『詩のノベライズ(小説化)』なのです。それに、お話としてはどちらがおもしろかった?(生徒たちは「メロス」だと答えました。)この文量の『人質』から、この文量の『走れメロス』へと小説化する際に、相当な書き足しや変更をしていますよね。気づきましたか?」
すると、生徒たちは次々と「走れメロス」と「人質」の違いを挙げていきました。続きは次回ご紹介します。
Illustration: Chiaki Tagami
宗我部義則(そがべ・よしのり)
1962年埼玉県生まれ。お茶の水女子大学附属中学校主幹教諭。お茶の水女子大学非常勤講師、早稲田大学非常勤講師。平成20年告示中学校学習指導要領解説国語編作成協力者。編著書に『群読の発表指導・細案』(明治図書出版)、『夢中・熱中・集中…そして感動 柏市立中原小学校の挑戦!』(東洋館出版社)、『中学校国語科新授業モデル 話すこと・聞くこと編』(明治図書出版)など。光村図書中学校『国語』教科書編集委員を務める。