はじめよう、対話による鑑賞の授業
2015年1月22日 更新
美術における鑑賞を通した言語力育成が求められています。全国各地の学校や美術館で行われる美術鑑賞の授業の形として、先生や学芸員の解説を一方的に聞くのではなく、生徒自身が主体的に発言をし、対話をしながら美術作品に対する見方や価値意識を深めていく「対話による鑑賞授業」が注目されてきています。
授業前の準備について教えてください。
授業の前にまず行うことが四つあります。
(1)作品の選定
(2)授業を受ける生徒の実態把握
(3)シミュレーション
(4)環境設計
(1)作品の選定
いっぽう、より密接に表現との関連で鑑賞の授業を行うときや、地域や我が国の伝統と文化の学習につなげたいときなどには、そうした目標に沿って作品を選定しなければなりません。もし表現につなぐ鑑賞の授業であれば、表現の発想に結びつくような表し方のおもしろさがあふれた作品から選ぶことが必要になるでしょう。
(2)授業を受ける生徒の実態把握
次に考えなければいけないことは、生徒は作品をどのように見るだろうか(実態把握)ということです。一般的な見方の傾向や特徴を理解することも有意義ですが、もっと大切なことは、これから授業を行う生徒たちの顔を思い浮かべて具体的に考えることです。
一人ひとりが作品と出会ったときに発する言葉を想像してみましょう。空想好きなAくんなら、この作品を見てどんなお話をしてくれるだろうか。Bさんは観察が鋭いから、この隅っこに描かれたものに気づくに違いない。Cくんは形や色の象徴的な意味を探る傾向が強い。Dさんなら……、という具合に。
学級全体としての集団の特質までもわかってくると、授業をする前から対話の展開がおおよそ見えてくることもあります。
(3)シミュレーション
対話を学習活動ととらえ、作品に対する生徒の反応・発言を予測することと、それを教師がどう受けとめ、授業を進めていくかを事前に考えておくこと。これらをまとめることを私はシミュレーションと呼んでいます。シミュレーションは授業に先立つ心の準備、ウォーミングアップです。シミュレーションを行わずに授業をするのは、準備体操をせずにプールに飛び込むようなもの。とりわけ初めて対話による鑑賞の授業に取り組む先生は、納得がいくまでシミュレーションすることを心がけてください。
以下に、シミュレーションの例を挙げます。
(4)環境設計
シミュレーションを終えたら、あとは環境設計です。授業を教室で行う場合、作品のデジタル画像を使います。パソコンとプロジェクターとスクリーンを用意し、机と椅子は下のイラストのように配置します。スクリーンは大きいに越したことはありません。真っ暗にすると生徒の顔が見えにくくなり、先生との1対1対応のやり取りになりがちです。対話は言葉による情報のやり取りだけではありません。言葉の速さや抑揚などはもちろんですが、話すときの表情やしぐさ、息づかいなど非言語的なふるまいの果たす役割が大きいのです。
スクリーンに近いほうは暗くして、後ろの側面から明かりが入るような環境設計を工夫してみてください。
対話による美術鑑賞の決定版!
『風神雷神はなぜ笑っているのか 対話による鑑賞完全講座』 (上野行一 著)