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第10回 「比べる」ことで「読む力」を引き出す(2)――「走れメロス」(2年)

そがべ先生の国語教室

2015年12月15日 更新

宗我部 義則 お茶の水女子大学附属中学校副校長

30年の教師生活で培った豊富な実践例をもとに、明日の国語教室に役立つ授業アイデアをご紹介します。

第10回 「比べる」ことで「読む力」を引き出す(2)
――「走れメロス」(2年)

「走れメロス」とそのモチーフになった「人質(シラー作)」を比較して読む授業の続きです。(これまでの流れは、第8・9回をご参照ください。)

第8回 「比べる」ことで「考える力」を引き出す

第9回 「比べる」ことで「読む力」を引き出す(1)

「走れメロス」を読んだ後に、シラーの詩「人質」を読ませました。そして、「太宰は、『人質』を『走れメロス』へ小説化する際に、相当な書き足しや変更をしていますよね。気づきましたか?」と、生徒たちに問いかけました。

すると、生徒から「書き出しが違う」「『人質』のメロスには寝てしまう場面がない」など出てきました。
そこで、「両者を徹底的に比べて、どんな違いがあるかをリストアップしてみよう」と呼びかけました。生徒たちも夢中になって違いを調べ上げました。実は「メロス」と「人質」には大小さまざまな違いがあります。生徒たちはいろいろな違いを指摘しました。発表の際には、「○○について、『人質』の詩では……だけど、メロスでは……に書き足されている」などと、比べていう言い方を徹底します。次の写真は、生徒たちが気づいた両者の違いをストーリーの展開に沿って描き出したものです。

画像、走れメロスの板書

さて、実は、いろいろな違いに気づきながら、生徒たちはいつの間にか、「なぜ(冒頭の)シラクスの街の場面を付け足したんだろう」「『人質』のメロスの方が英雄っぽい。なんで弱音を吐くようにしたんだろう」「フィロストラトスが、メロスの忠僕からセリヌンティウスの弟子に変更になってる。なんでこんな変更をしたのだろう」と次々疑問があがってきます。比べるといろいろ気づくとともに、疑問が生まれてくるのです。

そこで、「これだけの違いの中から一つ取り上げて、なぜ書き換えたのか、書き換えたことでどんな違いが生まれてくるのか、作者・太宰治と「走れメロス」の謎を解き明かしていこう」と呼びかけました。生徒たちもがぜんやる気になっています。

こうして、同じ疑問、関連して話し合える疑問を選択した生徒どうしでグループを組み、あれこれ話し合いながら解釈をまとめていきました。学習者たちの解釈の例(要旨)を紹介します。

【疑問】
「走れメロス」では、なぜメロスが倒れて眠ってしまう場面を加えたのか。そのことによって、「走れメロス」はどんな話として生まれ変わったのか。

【学習者の解釈(要旨)】
「人質」のメロスは、最後まで強くまさに勇者である。「人質」では人を信じられない王と、人は信じられるというメロスが対決していて、この二人の対立を軸に、人は信じられるかどうかをめぐって話が進んでいく。しかし、「走れメロス」では、メロスは途中で「いっそ悪徳者として生きるか」などと言いながら、走るのをやめてしまう。信じること、信じられることをやめてしまおうとするメロスが描かれている。では、太宰の「走れメロス」で対立しているのは、誰と誰か。絶対にゆるがずに対立しているのは、実は王とセリヌンティウスではないか。王城でこそ王とメロスが対立しているように見えるが、太宰のメロスは走り出す前の結婚式の場面から、戻りたくないと思うなど揺れる人間で、フィロストラトスの言葉の通り、セリヌンティウスこそ、どんなにからかわれてもメロスを信じて疑わない。人は信じられないという王と対立しているのは、メロスは絶対に帰ってくる=人は信じられると考えて揺るがないセリヌンティウスで、メロスはその間(信じられる、信じられないの間)を揺れる弱さをもった人間に書き換えられているのだ。

画像、走れメロスの板書

上の写真はこのグループが説明に使った板書図です。どうでしょうか。こんな解釈が生徒の中から立ち上がって、彼らなりの「メロス論」が確かに立ち上がってきているといえるのではないでしょうか。

「比べて読んで、違いについて解釈して意味づける」……この授業で学習者たちが取り組んだ言語活動です。「比べる」という思考・活動が「読みの力」を高めている様子がうかがえます。 

次回は、読書指導についてご紹介します。

宗我部義則(そがべ・よしのり)

1962年埼玉県生まれ。お茶の水女子大学附属中学校主幹教諭。お茶の水女子大学非常勤講師、早稲田大学非常勤講師。平成20年告示中学校学習指導要領解説国語編作成協力者。編著書に『群読の発表指導・細案』(明治図書出版)、『夢中・熱中・集中…そして感動 柏市立中原小学校の挑戦!』(東洋館出版社)、『中学校国語科新授業モデル 話すこと・聞くこと編』(明治図書出版)など。光村図書中学校『国語』教科書編集委員を務める。

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