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第18回 古典に親しむ――架空インタビューで読む「平家物語」

そがべ先生の国語教室

2016年12月5日 更新

宗我部 義則 お茶の水女子大学附属中学校副校長

30年の教師生活で培った豊富な実践例をもとに、明日の国語教室に役立つ授業アイデアをご紹介します。

第18回 古典に親しむ
――架空インタビューで読む「平家物語」

今回は、古典学習を取り上げてみます。

中学校での古典学習は、「古典に一層親しむ態度を育成することを重視する」という学習指導要領の文言の通り、子どもたちが古典に関心をもち、言語文化を享受し継承・発展させていこうという気持ちになれることが大切です。そのためには、少なくとも小中学校の古典学習は「楽しい」「(知的に)おもしろい」と思えるようなものでありたいですね。

では、そのポイントはどこにあるのか。私は、古典学習の「楽しさ」「おもしろさ」の根源は、作品に対して「時を超えて変わらないものへの共感体験」と、「時代性ゆえの異化体験」とにあるように考えます。

「平家物語」の「扇の的」を例にしてみましょう。

「扇の的」はご存じの通り、屋島の合戦の後のエピソードです。
音読練習を経て、生徒たちに感想を求めるといろいろな疑問が提出されます。先ほど「共感」と言いましたが、「わからない」という素直な感覚も、大切にしていくべきです。「平家物語」という古典作品は、武士の物語ですから、平和な時代を生きる生徒たちには「異化体験」の面が、言葉や表記の問題とともにまず立ち上がってくるのです。この授業ではそれを逆手にとりました。

読み終わって疑問に思うことをグループで徹底的に出し合います。「ちょっとでもわからないことは出し合ってみよう」、そんなふうに投げかけました。

「酉の刻って?」「かぶらって何?」といった語句レベルの疑問。
「与一はどうして最初断ったの?」「なんで平家は扇を射ろ、って言ったのか?」「なぜ褒めてくれた相手を殺すの?」といった文脈レベルの疑問。
「平家はどうして海にいるの?」「なぜ源氏は追わないのか?」といった背景知識の疑問。

実にさまざまな疑問が出てきました。そこで、「では、今回は登場人物たちにその疑問をきいてみましょう。人物たちや作者へのインタビューをしてみましょう」と投げかけました。すると、「誰が答えるのですか?」というので、「どんな質問をするか考えて、その答えも与一ならこう答えるって考えるんです!」と説明すると、「たくさん疑問を出して損した~!」などと盛り上がりつつ、なんとも楽しげです。

画像、授業の様子
インタビューの様子を寸劇化して発表させるのもよい。

こうして、自分たちが出した疑問に、現代語訳や参考図書などの周辺情報を手がかりに答えを出していきます。そして、このQ&Aをインタビュア、与一、作者(信濃前司行長?)などの役を立てて台本化して演じるのです。

こういうインタビューで文学作品を読むという学習は小学校などでもときどき見かけますね。そこで、ちょっと難易度を上げるためにも、そして作品を人物たち=作品の世界の内側だけでなく外から眺める視座をもつために、作者を必ず登場させるというルールにしました。

あるグループの台本例を示します。


のぴた:

与一さん、与一さんは扇を射るときにはずいぶん迷っていたように見えたけど、どうしたんですか? 弓の名人の与一さんらしくないですね。

与一:

いや、扇を射るのはさすがの私も初めてでしたし、これを外したら源氏の一門が笑いものにされてしまいます。失敗したら命はないでしょう。だから、さすがに緊張しました。

のぴた:

でも、最後に踊った男を射るときには何のためらいもなかったですね。

与一:

ああ、そう言えば、あの男を射るときは全然緊張しなかったなあ。まあ、褒めてくれたようなものだから、今思えば気の毒な気もするけど……。

作者:

いやいや、のぴた君はよく気づいたのう。人を射るのはまさに武士の仕事。そういう武士の姿を描きたくてな。あんな場面を入れてみたんじゃ。

のぴた:

その最後の場面ですが、「『あ、射たり。』と言ふ人もあり」「『情けなし。』と言ふ者もあり」って、「人」と「者」って使ってますね。この組み合わせ、前にも見たような……。

作者:

おお! 序の「おごれる人も…たけき者も…」じゃろう、よくぞ気づいた。これは対句といってな、ちょっと変化が出てリズムが出るんじゃ。わしは対句が好きでなあ。


タイムマシンで過去に乗り込んだ「のぴた」君(どこかで聞いたような名前です。笑)が、与一と作者にインタビューするという設定です。遊び心で楽しみながら、「なぜ人を射るときは迷いもなかったのか」という問いに、作者が代わって答えている内容など、なかなか深い解釈と洞察があります。

この学習では、疑問を出し合う際に、現代語訳を確かめるために、ワークシートを使って読んだり、音読を通して歴史的仮名遣いの読み方を確認したり、通常の古典学習のようなことも実際には行っています。架空インタビューの言語活動が始まってからは、グループでああだ、こうだと話し合いながら、楽しそうでした。

「古典に親しむ指導」をするとき、「古典を楽しむ」ための指導は難しいかもしれません。しかし、「古典学習を楽しむ」という指導はできるはずです。

次回は、和歌の学習を取り上げてみます。

宗我部義則(そがべ・よしのり)

1962年埼玉県生まれ。お茶の水女子大学附属中学校主幹教諭。お茶の水女子大学非常勤講師、早稲田大学非常勤講師。平成20年告示中学校学習指導要領解説国語編作成協力者。編著書に『群読の発表指導・細案』(明治図書出版)、『夢中・熱中・集中…そして感動 柏市立中原小学校の挑戦!』(東洋館出版社)、『中学校国語科新授業モデル 話すこと・聞くこと編』(明治図書出版)など。光村図書中学校『国語』教科書編集委員を務める。

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