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第24回 リレー朗読で読む――「星の花が降るころに」(1年)

そがべ先生の国語教室

2017年8月30日 更新

宗我部 義則 お茶の水女子大学附属中学校副校長

30年の教師生活で培った豊富な実践例をもとに、明日の国語教室に役立つ授業アイデアをご紹介します。

第24回 リレー朗読で読む
――「星の花が降るころに」(1年)

「リレー朗読」というのはあまり聞かないなと思われたでしょう。それもそのはず。実は数年前から私が授業に取り入れている言語活動です。
一つの作品を一人数行ずつ、クラスの全員に割りあてます。作品の長さによっては2~3チーム作ります。例えば、33人の学級で短めの作品を読むときには、11人で3チーム作る……という具合です。そして、それぞれが担当部分をリレーするように朗読していきます。だからリレー朗読という名前なのです。

イラスト、教科書を朗読する中学生

1. 準備

例えば、「星の花が降るころに」(1年)ではこんなふうに行いました。

「星の花が降るころに」は、主人公の「私」が語り手の、一人称視点による短編小説です。
本校の1年生はだいたい各クラス33~34人なので、本文を17に分け、2チームで読むことにしました。分けるときに配慮したのは次の各点です。

  • だいたい同じような文量になること。
  • 場面の切れ目や、話のひと続きで区切るようにするが、ときには一人分の長さを優先して途中で切ることもあってよい。
  • 会話の「有り無し」はあまり気にしない。

担当部分に会話が入った方が朗読を工夫しやすく感じるかもしれませんが、この作品は一人称視点で地の文にも主人公「私」の心の中の声がたくさんちりばめられています。なので、会話の「有り無し」は重視しませんでした。

一人称視点の小説では、地の文にも語り手の心情や見方が投影されることが少なくありません。
例えば、冒頭の部分はこんな描写で始まります。

(1)銀木犀の花は甘い香りで、白く小さな星の形をしている。そして雪が降るように音もなく落ちてくる。(2)去年の秋、夏実と二人で木の真下に立ち、花が散るのを長いこと見上げていた。(3)気がつくと、地面が白い星形でいっぱいになっていた。(4)これじゃ踏めない、これじゃもう動けない、と夏実は幹に体を寄せ、二人で木に閉じ込められた、そう言って笑った。

(1)の二文は「銀木犀の花の描写」ですが、私が見ている実景とも思い出の中の情景ともつかぬ形で始まります。
そして(2)で思い出になりますが、この段階では自分たちの姿をまるで外から眺めているかのような語りです。
(3)ははっきりと「私」が見て感じていること(=「私」が投影された情景描写)であることが、「気がつくと」「いっぱいに」に表れています。そして、(4)では、「これじゃ踏めない……動けない」など「」こそありませんが、夏実の会話の言葉と、「と夏実は幹に体を寄せ」など状況の語り手としての「私」とが混在しています。

実は三人称で語られる小説でも、語り手は地の文において登場人物たちを外から客観的に語ったかと思うと、ふと人物の中に入り込み、彼らの心情や彼らの見方を投影した語りをすることがあります。
地の文にそういう語りの違いがあることは、朗読の工夫を通す以外には意識されることはあまりありません。逆に言えば、地の文を朗読するときには、こうした違いに敏感になって、わずかな声の表現の中で(あまりおおげさにやるとうるさいだけです)、その違いを聞き手に知らせていくことが大切なポイントになるのです。

2. 練習

リレー朗読では、分担する部分が短い範囲になるだけに、ただ音声化していくのではなく、「地の文」についてもこんなことに注意して読んでいくことを指導します。それによって、生徒たちは、朗読を通して「小説の語りの構造」に気づいていくことにもなるのです。生徒たちには次のように朗読のハードルを上げます。

「会話文を人物の気持ちにあわせて朗読するのは小学生にもできる。中学生の君たちは地の文をこそ、どう読むか工夫しよう。」

実際には、「誰が」「どこから(人物の外から、中から)」語っているか、という言葉で意識をさせると良いようです。そして、例えば、冒頭の部分の語りの読み解き方を例として示したうえで、各自の担当部分をどう解釈し、音声化するかを検討させていきます。

さて、もう一つ、リレー朗読で指導しておきたい工夫のポイントがあります。
それは、「前の人とのつなぎ方」です。

自分が読む前の部分は、別の人が読みますから、例えば、

  • 前の人が読み終わったらすぐ続くように読む。
  • 前の人が読み終わってから、少し間をとって読む。
  • 前の人が読み終えるかどうかのタイミングで声を重ねるように読み始める。

などの工夫ができます。ここで、「なぜそう読むのか」をきちんと説明できるようにしなさいと指示します。
ワークシートなどに書かせるのもよいでしょう。例えば「間をあけて読む」のであれば、それはなぜか、その間は何を表す間か、と考えさせ、言語化させるのです。

例えば、

私は戸部君をにらんだ。
「なんか用?」

「宿題をきこうと思って来たんだよ。そしたらあいつらがいきなり押してきて。」

という部分の★をどうつなぐか。ある子は、「少し間をあける」ことにしました。何故かと言えば、「なんか用?」と私に言われて、「あ、怒らせちゃった。弱ったな、と一瞬考えてから言い訳をする場面だと思うから」と答えました。

つまりリレー朗読は、

(1)自分が担当する部分について
・会話があればその読み方を、作中の状況や心情を読み取って工夫する
・地の文を、語りに応じて工夫する
(2)自分が担当する部分の前とのつなぎ方を工夫する。

という二つの工夫をしていくことになるのです。

それぞれが読み方を考え、個人で練習したら、4人で小グループ練習をします。

読む担当部分は、座席順に、例えば前から

座席順の図

のように、座席ごとに割りあてていきますので、小グループ練習では、例えば「1・2・11・12」の4人でグループを作り、「3・4・9・10」でグループを作るというように組みます。

こうすることで、例えば4と10が前の受け方を練習する姿を見て、3と9も自分はどうするかと考えることができます。必要に応じて、例えば10が2の部分を読んでやり、3がそれに続けて読むことで「前との続け方」の練習もできます。わかりますか?笑

もちろん、それぞれの担当部分の読み方についても相互批評し合い、もっとこう読んではどうか?などと話し合って磨き合っていきます。

3. 本番

こんなふうに練習したら、いよいよ本番です。

本番は、まず1チーム目が、1番から17番まで順にまさにリレーして朗読していくだけです。朗読するだけなのですが、心地よい緊張感の中で、それぞれの工夫された朗読が刺激し合うことになり、さらに朗読の質が高まります。この心地よさは、経験した生徒と教師にしかわかりません!!笑

授業では、細かな場面ごとの読解作業はやりません。
しかし、生徒たちは朗読の工夫を通してちゃんと読めます。

それでも、そのまま終わりにするのはもったいないかな……と思ったので、この後で、1時間だけこんな話題で話し合いをしました。

  • 題名の「星の花」というのは何のことか。
  • 「私」にとって「星の花」はどんな存在だったか。
    ・袋に入れてもっていた「星の形の花」を「ばらばらと落とす」ことにはどんな意味があるか。
    ・最後の「銀木犀の木の下をくぐって出た」にはどんな意味があるか。

全体は朗読でしか読んでいない生徒たちが、実にいろいろな気づきや解釈を出し合いました。

通読・登場人物の確認・分担・個人練習……1時間
グループ練習・2チームがリレー朗読………1時間
「星の花」の意味を読む 1時間……………1時間

全部で3時間の授業でした。この原稿を書きながら、生徒たちの朗読の声が耳によみがえって来ました。

次回は、「誰かの代わりに」(3年) を扱った実践をご紹介します。

Illustration: Chiaki Tagami

宗我部義則(そがべ・よしのり)

1962年埼玉県生まれ。お茶の水女子大学附属中学校主幹教諭。お茶の水女子大学非常勤講師、早稲田大学非常勤講師。平成20年告示中学校学習指導要領解説国語編作成協力者。編著書に『群読の発表指導・細案』(明治図書出版)、『夢中・熱中・集中…そして感動 柏市立中原小学校の挑戦!』(東洋館出版社)、『中学校国語科新授業モデル 話すこと・聞くこと編』(明治図書出版)など。光村図書中学校『国語』教科書編集委員を務める。

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