読書Q&A 学校図書館(理論編)
2015年1月1日 更新
赤木かん子 児童文学評論家
どうすれば子どもたちが集まる図書館になるのでしょう。本のそろえ方や整理のしかたなど、学校図書館の作り方や運営方法に関する悩みにお答えします。
A(回答)
今回は学校図書館の貸し出し方法についてのご質問がありましたので、お答えします。
はじめまして、私は今年の4月から中学校の図書館で学校司書をしているものです。今日は学校図書館のカードでの貸出方式をお聞きしたくメールさせていただきました。赤木さんのホームページや、その他図書館関係の本も参考にして書架をだいぶ整頓し、最近は生徒さんが「図書室の本もあなどれない」と言ってくれるようになったのですが、盗難・紛失防止で続いてきたと思われる、とても手間のかかる貸出方式が気になってきました。
現在、勤務先の中学校で生徒さんが本を借りるときはこのようにします。
- 個人カードをカウンターのラックから自分で探す
- 借りたい本に入っているブックカードに自分の年組と氏名・貸出日・返却予定日を書く
- 個人カードに本の名前・貸出日を書く
- カウンターにいる学年ごとの図書委員にカードを2枚とも渡す
- 図書委員は貸出ノートに貸出日と借りる人の組・氏名・本の名前を書いて、2枚のカードを輪ゴムでとめてカウンターに戻す
本で読んだだけの知識だけですが、これは「ニューアーク式」という貸出方式かと思います。ほかに「ブラウン式」「逆ブラウン式」「変形逆ブラウン式」という貸出方式があるようですが、「ブラウン式」がなんとなくわかるだけです。また、本には「ブラウン式は予約が便利」と書かれているのですが、その理由がわかりません。学校司書仲間や担当の先生に聞いてもわかりません。
貸し出し方法は、各学校に任されていますので、私はこの貸出方式を来年度から変更したいと思っています。パソコンを導入できれば解決することも多いのでしょうが、すぐには難しいでしょうから、カード式のままで出来る良い方法を提案したいと思っています。
今私が考えているのは、未使用の個人カード・ブックカードが数年分在庫で残っている状態なので、これを使って個人カードとブックカードをただ輪ゴムでとめるだけにし(記入は無しで)、返却期限の紙を新しくつくって本に図書委員がはさんで貸出しする、という方法です。返却日の管理をするには何も書かないという方法は無理かとも考えます。なお、今まで個人カードが沢山増えることがうれしかった生徒さんもいるので、変更によって個人カードに記入することが無くなる場合は、貸出以外で楽しみが出来る別の対応をしたいと思います(読書の記録が書き込めるようなものやシールを貼れるカードを用意するなど)。 赤木さんは中学校図書館の貸出方式をどうお考えですか?お返事お待ちしております。
読むだけで確かに面倒そうです。貸し出しで必要なのは、
1)貸し手(つまり図書館)が、誰になにを貸したか把握できること
2)借り手(つまり生徒さん)が、いつまでにその本を返せばいいのかわかること
3)図書館以外の人には誰が何を借りているのかわからないこと(守秘義務)
4)返した時点で誰が借りたかの記録が消滅すること
でしょう。また、公共図書館では始めから人数が多いので考慮に入れませんが、学校図書館では、いま生徒さんが何人か、というのも重要なファクターです。だって、60人しかいない学校ならやらなくていいこといっぱいあるもの。大事なことは、守秘義務を守ることと、なるべく手間を省いた合理的なやりかたを考えることです。
それを考慮すると、まず、個人カードが図書館に残るのは問題です。個人カードは本人自身が、何を、いつまで借りているのか見るのには好都合ですが、図書館に置きっぱなしでは、だれにいつ見られるかわかりません。正直言って、今の学校ではプライバシーなんてあってなきがごとし、ですが、だからといって、図書館もそれに加担していいということにはなりません。むしろ、図書館は、そういう個人情報は自分で守るんだよ、ということを積極的に解説する義務があるところです。誰だって教えられなければそういうことに自力でたどりつくのは難しいですが、教えられれば、「あ、そういうもんかあ」と考え、その次からは注意を払うようになるかもしれません。これは一生の問題、それもかなり重要な問題です。コンピュータを扱う際に、個人情報を見知らぬ人に教えてはいけないよ、というネチケットについて解説するのは、図書館情報学の仕事じゃあないですか!
ということを考えるのなら、人数が書いてないのですが、300人前後なら、ブラウン式が一番楽だと思います。まず、一人ひとりのカードケースを作ります。使ってないカードがたくさんあるなら、それを二つに折って、かたっぽをとめ(ホッチキスかテープで)その表にその生徒の名前を書くので充分です。クラスごとにまとめておき、借りたい本のカードを抜いたら、そのケースにはさみます。個人用のカードには書きたい人はかけばよろしい。でも、それは本人に持っててもらいます。そうすれば記録を残したい人は残せるでしょう。
ブックカードをはさんだケースは別の場所に置き場所を作ります。名前のあいうえお順でも(でもこれは返す時に名前を名乗らなくてはならないので、このご時勢では、だれがきいているかわからない公共図書館では怖いやりかたです)学年別でも、そこがやりやすい分類を考えてください。返す時にはカードケースからブックカードを引き抜いて、本に戻し、本人の名前を書いたケースはもとのところにしまいます。
このやり方だと、名前のカードケースからブックカードを引き抜いた瞬間に誰が借りたかの記録はなくなります。欠点はカードケースからカードが抜けやすいということです。少しお金をかけてもいいなら、B5サイズくらいの透明ファイルを買ってきて(100円ショップで10枚100円くらいで売ってます)それに名前を書き、なかにブックカードを入れるようにすると、割合抜けません。また、借りている間は誰が何を借りているのかわかってしまうので、一般の生徒には見えないところにカードはしまいます。もちろん机の上に乗せて、しかも、名前が見えるように向こうを向けて置く、なんてことは貸し出しの最中にも決してしないようにします。このやり方の欠点は大量の貸し出しには向かない、ということですが、中学校図書館で一日の貸し出しが2000件あるなんてことはありえないでしょうから、600人くらいまでの学校ならこれでしのげるはずです(ちなみに私はこのやり方で、一日4500件処理した図書館で働いていたことがありましたが、みんなこなしていました。熟練工の人間はコンピュータより凄腕です)。
つまりは、簡単ですばやく処理でき、便利で図書館としての職務を果たすことができ、守秘義務が守られるならどんなやり方でもいいと思いますよ。こういってはなんですが、しがない学校図書館が、県立や国立の図書館と同じやり方をしなくてもいいと思いませんか?ちなみにいま私が一番うんざりしているのは、学校図書館なのに、「本のカバーを外せ」という専門家のいることです。確かに国立図書館ではそうしていると思いますが、学校図書館でカバーをはいだら『ハリー・ポッター』真っ白け、ですよ?そんな本、誰が読む?それに今は昔と違ってカバーにしか、値段の書いてない本だってあるのに。消費税のせいで・・・・・・。それよりも、のりつきのビニールカバー(通称ブッカーね)を買ってくれ、という運動をしたほうが前向きだよ?確かに今は買ってくれないかもしれない・・・・・・、でも予算っていうものは一度通ってしまえばずっとつくものです。今は買えない・・・・・・、ならそれなりの工夫をしてしのぎはしますが、「いつかは・・・・・・」と思って仕事するのがプロ、だと私は思うんですけどね。
赤木かん子
児童文学評論家。長野県松本市生まれ。1984年に、子どものころに読んでタイトルや作者名を忘れてしまった本を探し出す「本の探偵」として本の世界にデビュー。以来、子どもの本や文化の紹介、ミステリーの紹介、書評などで活躍している。主な著書に『読書力アップ!学校図書館のつくり方』(光村図書)などがある。