本を読んで、考える練習をしよう
2015年3月31日 更新
堀部 篤史 誠光社 店長
本のスペシャリストが、小・中学生に読んでほしい、とっておきの本をご紹介。
堀部篤史(ほりべ・あつし)
1977年京都府生まれ。立命館大学文学部在学中から、京都の人気書店・恵文社一乗寺店でアルバイトを始め、2004年から2015年8月まで店長を務める。2015年11月、京都市内に新しい書店「誠光社」を立ち上げる。著書に『本屋の窓からのぞいた京都』(マイナビ)、『街を変える小さな店』(京阪神Lマガジン)など。フリーペーパーや雑誌への連載も行う。
第1回 自分は何を考えているのか
『すき好きノート』 谷川俊太郎/アリス館
『大切にしたいものは何?』 鶴見俊輔と中学生たち/晶文社
春になり、新しい季節がはじまり、子どもたちはあらたな学びの世界へと足を踏み入れます。不安になる子も、躊躇する子も、与えられるがままに受け入れる子もいるでしょう。この時期に「学びのスイッチ」が押されるかどうかが、創造性や集中力、広範囲な好奇心を身につけられるか否かの大きな分岐点になるのではないでしょうか。
あたらしいことに触れ、学ぶ前に、何を知っておくべきか。自分という人間が、何を考えていて、どんな言葉を使い、何を好んでいるかというのもそのひとつでしょう。また、「自分が何を知らないのか」を知ることも学ぶ意欲を刺激する大切なきっかけです。自分の限界や輪郭を知ることで、はじめてそれぞれの学問と自分との関係性が把握でき、勉強との「つき合い方」が理解できるのではないでしょうか。
詩人である谷川俊太郎さんの問いかけに、言葉でも絵でも好きな方法で回答するというのがこの『すき好きノート』。左開きと右開きで、子どもむきと大人むきの設問が分かれており、親子で、先生と生徒で一緒に取り組むのも楽しいはずです。
「いちばんすきなともだちだあれ それともそれはひみつかな かおをかいたらわかるかな」
ただのQ&Aではなく、どちらでもない、言葉にできない、という多層的な選択肢を提示するのが詩人ならでは。ときには答えることのできない問いがあり、ときには言葉でなく絵や音楽などほかの手段でしか出せない答えもあるでしょう。「すきな質問」を問いかけられるなど、読者と著者の関係が入れ替わるような仕掛けも用意されており、詩人とのコミュニケーションを楽しむことができる1冊です。
一方思想家である鶴見俊輔さんは中学生たちとの対話に際して、「自問自答」を促し、「答えをもちこす」という選択肢を推奨します。「ムカツクこと」、「塾で学ぶこと」などさまざまなお題のもと中学生たちに対話をうながすものの、鶴見さんは生徒たちの意見に安易な回答は出さずに、うなずき、感心し、問いをさらに繰り上げることで、「答えをもちこし」にします。自然な対話の中で、中学生たちが答えを得るのではなく、つぎつぎにあらたな疑問を呼び、好奇心を刺激されていく様子が楽しめます。
自分を知るということは、自分が何を知らないかということを知ることでもあります。これらの本に触れ、「学びのスイッチ」が押されてくれることを望みます。
次回は、外で遊びたくなる本をご紹介します。
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