みつむら web magazine

本を読んで、考える練習をしよう 第3回

本を読んで、考える練習をしよう

2015年5月22日 更新

堀部 篤史 誠光社 店長

本のスペシャリストが、小・中学生に読んでほしい、とっておきの本をご紹介。

堀部篤史(ほりべ・あつし)

1977年京都府生まれ。立命館大学文学部在学中から、京都の人気書店・恵文社一乗寺店でアルバイトを始め、2004年から2015年8月まで店長を務める。2015年11月、京都市内に新しい書店「誠光社」を立ち上げる。著書に『本屋の窓からのぞいた京都』(マイナビ)、『街を変える小さな店』(京阪神Lマガジン)など。フリーペーパーや雑誌への連載も行う。

第3回 デザイン感覚を身につける

画像、「デザイン感覚を身につける」で紹介された本の表紙

『あおくんときいろちゃん』 作:レオ・レオーニ 訳: 藤田圭雄 / 至光社
『アンリくん、パリへ行く』 絵:ソール・バス 文:レオノール・クライン 訳: 松浦弥太郎 / スペースシャワーブックス
『きりのなかのサーカス』 作:ブルーノ・ムナーリ 訳:谷川俊太郎 / フレーベル館

画用紙に円を描いて、そのなかに小さな点を二つ、その下に縦棒と横棒を一本ずつ引けばあっという間にヒトの顔のできあがり。

シンプルな線で描かれたキャラクターをひと目で猫だと認識したり、言語の分からない外国で見かけるサイン標識が何を意図しているのかを直感的に理解できるのは、われわれが「デザイン」という概念をもっているからです。イメージの分類や認知はコンピューターが苦手とすることの一つだといいます。今回はそんな人間的な能力の一つである、デザイン感覚を楽しんで身につけることのできる3冊をご紹介しましょう。

『スイミー』でおなじみのレオ・レオーニは、雑誌のアートディレクター出身であったことをご存じでしょうか。"Fortune"をはじめとする米国の高級グラフ誌を色鮮やかでモダンなグラフィックで彩ったレオーニによるもっとも有名な絵本の一つ、『あおくんときいろちゃん』は、色彩そのものを擬人化して描いた作品です。青い円形に「あおくん」という名前を付けたとたんに、抽象的な色とかたちは生命を吹き込まれ、まわりの茶色い四角形はお家、同じかたちの色彩の集まりが学校で学ぶ子どもたちの姿だと認識できてしまうのが不思議。あおくんときいろちゃんが交わった部分が緑へと変色する様子は、友愛とも共感とも解釈できる見るものの感性を刺激する奥深い作品です。

ヒッチコックをはじめとする数々の名作映画のタイトルバックデザインで知られるデザイナー、ソール・バス唯一の絵本『アンリくん、パリへ行く』は非常に映像的な絵本です。パリへと旅をする主人公アンリくんの姿は具象で描かれることはなく、単純な線でグラフィック化された足のアップや、空中から俯瞰したバスの様子など、カットの切り替えのごとく視点がめまぐるしく変わります。おはなしの内容だけではなく、描き方によって絵本の中にはリズムが生まれるのです。

最後に紹介するのはイタリアのグラフィック/プロダクトデザイナー、ブルーノ・ムナーリ。彼の代表的な絵本の一つである『きりのなかのサーカス』は、緻密な仕掛けが随所に施された美しい作品です。トレーシングペーパーを重ねることによって霧の中を、すこしずつサーカスへと近づいていく遠近感を表現する手法は、絵本が絵と文字だけでなく、紙の厚みも含めたトータルな表現であることに気付かせてくれるはずです。

デザインという言語では説明しづらい美意識を、感覚的に教えてくれるのも絵本の素晴らしさです。

次回は、夏にぴったりの本をご紹介します。

関連記事

記事を探す

カテゴリ別

学校区分

教科別

対象

特集