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本を読んで、考える練習をしよう 第9回

本を読んで、考える練習をしよう

2015年12月7日 更新

堀部 篤史 誠光社 店長

本のスペシャリストが、小・中学生に読んでほしい、とっておきの本をご紹介。

堀部篤史(ほりべ・あつし)

1977年京都府生まれ。立命館大学文学部在学中から、京都の人気書店・恵文社一乗寺店でアルバイトを始め、2004年から2015年8月まで店長を務める。2015年11月、京都市内に新しい書店「誠光社」を立ち上げる。著書に『本屋の窓からのぞいた京都』(マイナビ)、『街を変える小さな店』(京阪神Lマガジン)など。フリーペーパーや雑誌への連載も行う。

第9回 我らが隣人 犬と猫

画像、犬と猫の本の表紙

『ダーシェンカ あるいは子犬の生活』 著:カレル・チャペック 訳:保川亜矢子/メディアファクトリー
『猫語のノート』 著:ポール・ギャリコ 訳:灰島かり/筑摩書房
『ノラや』 著:内田百閒/中央公論新社

犬派か猫派か。そんな二択が前提とされるほど、われわれ人類のパートナーとして親しまれ続けている動物たち。言葉が通じないからこそ、言語以前のコミュニケーションについて考えさせてくれる大事な存在です。古くから多くの作家たちが犬猫について考察し、綴っています。言葉が通じないものたちへの愛情や、信頼関係のあり方は、人間関係を育む上でも大きなヒントを与えてくれるのではないでしょうか。

園芸をはじめとする多彩な趣味をもち、幅広い作風の名作を残した、「ロボット」という言葉の生みの親でもあるチェコの作家、カレル・チャペック。本書はダーシェンカという子犬が誕生してから成長していく過程を、好奇心と細やかな観察眼とともに綴った犬エッセイの名作です。ここ日本でも数多い版で刊行されていますが、チェコ語原本からの訳、同郷の芸術理論家であり「ポエティズム」を提唱したカレル・タイゲによる装丁がすばらしいメディアファクトリー版(現在絶版)をおすすめいたします。初邦訳時に添えられた佐藤春夫の序文の文句「この本を店頭から持ってかへることは犬好きにとっては愛らしい仔犬を一疋抱えて歸る時と同様に楽しいものに相違ない」はまさに言い得て妙。

チャペックが犬派であれば、ポール・ギャリコは「どちらかといえば」猫派。『猫語のノート』はロングセラー『猫語の教科書』の姉妹版。英国デボン州のログハウスで暮らしたギャリコはなんと27匹の猫と、1匹のグレートデーンとともに生活を送りました。シャム猫にアビシニアン、三毛猫にトラなどなどあらゆる種類の猫とともに暮らしてきたギャリコでも、その本質は謎めいていると綴ります。本書はすべて猫の主観で綴った、ポエムのようなエッセイ集。ユーモアあふれる語り口で猫の考えていることを、自在に表現。猫が書いた詩まで登場するファンタジー好きにはたまらない1冊です。

最後に、日本で猫を溺愛した作家の例を一つ。目的もないのに借金をしてでも汽車旅に出るような、変人で、気難しいイメージのある内田百閒ですが、愛猫にはめっぽう弱かったようです。ある日突然失踪してしまったノラの帰りを懇願しながら、メソメソと涙する大作家の姿は滑稽なだけでなく、読めばその切なさや、哀しみを共感してしまうこと必至です。猫だけでなく、汽車旅や食事など、さまざまなものごとに人並み以上の執着を持った作家だからこその気取りのない語り口が清々しくもあります。

共感能力、コミュニケーション能力、豊かな感性を育んでくれる犬猫たちとの関係。ペットを飼えない環境にいる読者には、このような幸福な事例が用意されているのです。

次回は、漫画に関する本をご紹介します。

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