本を読んで、考える練習をしよう
2015年9月30日 更新
堀部 篤史 誠光社 店長
本のスペシャリストが、小・中学生に読んでほしい、とっておきの本をご紹介。
堀部篤史(ほりべ・あつし)
1977年京都府生まれ。立命館大学文学部在学中から、京都の人気書店・恵文社一乗寺店でアルバイトを始め、2004年から2015年8月まで店長を務める。2015年11月、京都市内に新しい書店「誠光社」を立ち上げる。著書に『本屋の窓からのぞいた京都』(マイナビ)、『街を変える小さな店』(京阪神Lマガジン)など。フリーペーパーや雑誌への連載も行う。
第7回 算数は何のためにあるの?
『ハッピーになれる算数』 著:新井紀子/イースト・プレス
『ぞうのさんすう』 著:ヘルメ・ハイネ 訳:いとうひろし/あすなろ書房
『数学はあなたのなかにある』 著:クレマンス・ガンディヨ 訳:河野万里子/河出書房新社
「算数の勉強をして何の役に立つんですか?」
いまなお日本中の教室でそんな疑問が声に出されているのかもしれません。だって僕もそう思ってましたから。でも、大人になったいま、本屋さんを営む中でさまざまな場面で算数を使うことがあります。でもそれは単純に数式を使う、という意味あいではなく、算数を学ぶ過程で得た考え方を応用する、ということなのかもしれません。数字と仲良くするコツは、公式を使って答えを出す、ということだけではないようです。
『ハッピーになれる算数』はタイトルからして、意外性あふれる1冊。著者曰く、算数を学ぶコツは「仕組みがわかると体が楽」な体質になることだと言います。なにごとにもその仕組みを理解しようとする癖を身につけることが難解な公式を身近なものにする最良の方法です。一見何の意味もなさそうに見える円周率も、なぜ2より大きくて、4よりも小さいのか。そんな風に考えるだけでそこに物語が浮かび上がります。「家から駅までの道のりを分速80メートルで歩いたとき……」なんていう問題に、なんか変だと思う人は多いでしょう。これは反対に普通の物語の話法ではないと考えることです。でもその変だと思う違和感こそが算数の問題を解くヒントなのです。本書を読むにつれ、算数も国語や哲学にちょっと似ているんじゃないかななんて思うはずです。
ベルリンに生まれ、大学で美術と経営学を学んだという著者による『ぞうのさんすう』で描かれる数字の概念は少し哲学的です。毎日うんちをする象。1年間で365個のうんちがひねり出されたかと思うと、次の年は毎日ふたつと、うんちの数が毎年ひとつずつ増えていきます。1日のうんちの数が50まで増えたある日、こんどは毎年ひとつずつうんちの数が減っていくではないですか。折り返し地点を迎え、すこしずつ減っていくうんちの数から象は自らの行く先を察知します。最終的にゼロという数字の概念を理解した象は安心して自らゼロになることを受け入れるのです。算数のはなしというにはあまりにも余計な描写ばかりで、あまりにも観念的な内容ですが、これもまた数字を身体感覚で受け入れるということなのでしょう。
男と女の「足し算」が、細胞を分裂させる「割り算」を引き起こし、それが増えて「掛け算」になって、やがて小さなひとりの人間として母から生まれ出て「引き算」になる。『数学はあなたのなかにある』の著者クレマンス・ガンディヨは、数学が複雑なのは人間が複雑だからだと綴ります。 xもyも小回りの中で擬人化された異色の数学本で、苦手意識を払拭してみてはいかがでしょうか。
次回はブルーノ・ムナーリの本を紹介します。