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本を読んで、考える練習をしよう 第5回

本を読んで、考える練習をしよう

2015年7月15日 更新

堀部 篤史 誠光社 店長

本のスペシャリストが、小・中学生に読んでほしい、とっておきの本をご紹介。

堀部篤史(ほりべ・あつし)

1977年京都府生まれ。立命館大学文学部在学中から、京都の人気書店・恵文社一乗寺店でアルバイトを始め、2004年から2015年8月まで店長を務める。2015年11月、京都市内に新しい書店「誠光社」を立ち上げる。著書に『本屋の窓からのぞいた京都』(マイナビ)、『街を変える小さな店』(京阪神Lマガジン)など。フリーペーパーや雑誌への連載も行う。

第5回 わたしたちの食べているもの

画像、「わたしたちの食べているもの」で紹介された本の表紙

『うちは精肉店』 写真・文:本橋成一/農山漁村文化協会
『地球の食卓 世界24か国の家族のごはん』 著:ピーター・メンツェル、フェイス・ダルージオ 訳:みつじまちこ/TOTO出版
『ティファニーのテーブルマナー』 文:W.ホービング 絵:J.ユーラ 訳:後藤鎰尾/鹿島出版会

給食にお弁当、3時のおやつに家族の食卓。わたしたちは毎日必ずなんらかのものを口にし、空腹を満たしながら生きています。家庭科の時間に、包丁の使い方や簡単な料理の作り方、その栄養価などについては教わりますが、料理の素となる食材やその食べ方については、驚くほどわれわれはなにも知りません。そのお肉や野菜がどこからやってきて、どのようにしてわたしたちの食卓に届くのか。また、日本以外の国ではどのようなものが食されているのか。今回は、調理し、食べることの前後に広がる食文化を知ることのできる3冊をご紹介します。

わたしたちの食卓に並ぶお肉は、もともとは生きている豚や牛でした。そんな当たり前の事実をわたしたちはしばしば忘れてしまいがちです。スーパーやお肉屋さんで見る、パックの細切れ肉やバラ肉に、牛や豚たち生き物の面影はありません。『うちは精肉店』は、とある精肉店の特別な1日を追った写真絵本です。大阪府貝塚市の北出精肉店は、お肉を売るだけでなく、子牛を飼い、育て、屠畜し、バラして販売用の肉にし、実際にお客さんに届けるところまでを家族で営みます。皮は捨てずに太鼓に仕立て、店のそばには獣魂碑を祀り、毎日手を合わせる。そんな精肉店は日本でも数少なくなりました。本書の取材中に町の屠畜場が閉鎖されることになり、北出精肉店による最後の屠畜の様子が記録されることになりました。残酷ではなく神聖で、シリアスではなくあたたかな気持ちになれる1冊です。

日本人が当たり前のように食べている食事は、実は当たり前ではありません。白米が主食であることさえも比較的珍しい食文化といえるでしょう。キューバにブータン、メキシコにアメリカ合衆国。『地球の食卓』は、世界24か国それぞれの1週間の食卓に密着取材し写真とデータで紹介したもの。食卓の様子にとどまらず、それぞれの家族が1週間で購入した食料品やその価格、レシピや、マーケットの様子などの文化的背景までをしっかり取材しているから、食事のみならず、各国のライフスタイルまでもが透けて見えるようで面白い。

『ティファニーのテーブルマナー』はタイトル通り、かの有名なジュエリーブランド、ティファニーが、もともと銀食器を購入する顧客向けに贈答した冊子です。子どもたちにも理解できるように、洒落たイラストとともに紹介されるテーブルマナーの数々は、不思議と堅苦しさよりも美味しいものを食べるという儀式の美しさを教えてくれるでしょう。食べることは空腹を満たすだけの行為ではなく、コミュニケーションの場であり、単調な生活を彩ってくれる娯楽の場でもあるのです。偏食やジャンクフードをたしなめる前に、食べることそのものの背後にある物語や楽しさを教えてあげるのも「食育」のひとつではないでしょうか。

次回は、文学の世界をいざなう絵本をご紹介します。

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