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本を読んで、考える練習をしよう 第4回

本を読んで、考える練習をしよう

2015年6月19日 更新

堀部 篤史 誠光社 店長

本のスペシャリストが、小・中学生に読んでほしい、とっておきの本をご紹介。

堀部篤史(ほりべ・あつし)

1977年京都府生まれ。立命館大学文学部在学中から、京都の人気書店・恵文社一乗寺店でアルバイトを始め、2004年から2015年8月まで店長を務める。2015年11月、京都市内に新しい書店「誠光社」を立ち上げる。著書に『本屋の窓からのぞいた京都』(マイナビ)、『街を変える小さな店』(京阪神Lマガジン)など。フリーペーパーや雑誌への連載も行う。

第4回 なんでも観察してやろう

画像、「なんでも観察してやろう」で紹介された本の表紙

『月刊 たくさんのふしぎ 第360号 クモと糸』 文・池田博明 絵・荒川暢/福音館書店
『海辺のずかん』 松岡達英/福音館書店
『目からウロコの日常物観察』 野外活動研究会編/農山漁村文化協会

集めて、分類して、並べて、比較し、観察する。自然界のあらゆるものを対象とした、博物学と呼ばれる学問の基本的な方法です。博物学にとどまらず、たくさんの物事をよく観察して比較するという行為は、文学や芸術など広い範囲での批評性を育む第一歩といえるでしょう。肝心なのは「何を観察するか」を見つけること。ちょっと視点を変えるだけで子どもたちのまわりには、観察対象があふれていることに気がつくはずです。

カタツムリやコオロギ、カマキリにアメンボなどなど、30年前には住宅街にもありふれていた生きものたちの姿をすっかり見かけなくなりました。しかし、クモの巣を見たことのない子どもたちは今もなお少ないでしょう。しもた屋の軒先に、押し入れの隅っこに、玄関の軒下に、いつの間にかクモは立派な巣をつくります。『月刊 たくさんのふしぎ 第360号 クモと糸』は、一見同じものとして見過ごしがちなクモの巣のバリエーションの豊富さを紹介するだけではなく、その造形美をまるで芸術品のごとく、細密なタッチで描いた美しい絵本です。本書を開けば、なにかと煙たがられ、見つければすぐに処分されるクモの巣にも、細かな違いや、驚くべき緻密さをもっているということに気がつくはずです。

『海辺のずかん』は、1983年に初版が刊行されて以来、30年以上にわたり読み継がれてきました。その間に、日本の海辺の光景は随分様変わりしたでしょう。ここに描かれている生きものたちのいくつかは、簡単に見つけることが困難かもしれません。しかし、それを差し引いても、海辺には多様な生物が存在し、普段の生活とは違う発見に満ちていることに変わりはありません。水中眼鏡をつけてのぞく、磯の岩に貼り付いている貝や海藻に目を凝らす、いつもと違う夜の海を眺めて見る。そんな観察の方法を教えてくれるのが本書です。

海や山にでかけずとも、日常のなかにも観察物はあふれています。道ばたにうち捨てられた空き缶一つとっても、よく見ればそれぞれに捨て方や場所に特徴があり、パターンというものが見えてきます。さらには、すでに使われていないがそのまま掲示されている看板やポスターから、時間をさかのぼって街の姿を想像することもできるでしょう。人々の暮らしぶりの変化、行動パターン、生活の知恵。路上にはさまざまな発見が隠されており、それらを眺め歩くだけで街は一変してしまいます。『目からウロコの日常物観察』という本には、そんな路上ワークショップのヒントが満載。

インターネット学習の普及が進み、教材が日々進化する中、目と手を使ってありふれたものに法則を見出す「観察」行為は、決して忘れてはならない学びの根本だといえるでしょう。

次回は、食にまつわる本をご紹介します。

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