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本を読んで、考える練習をしよう 第11回

本を読んで、考える練習をしよう

2016年2月24日 更新

堀部 篤史 誠光社 店長

本のスペシャリストが、小・中学生に読んでほしい、とっておきの本をご紹介。

堀部篤史(ほりべ・あつし)

1977年京都府生まれ。立命館大学文学部在学中から、京都の人気書店・恵文社一乗寺店でアルバイトを始め、2004年から2015年8月まで店長を務める。2015年11月、京都市内に新しい書店「誠光社」を立ち上げる。著書に『本屋の窓からのぞいた京都』(マイナビ)、『街を変える小さな店』(京阪神Lマガジン)など。フリーペーパーや雑誌への連載も行う。

第11回 エドワード・ゴーリーの奇妙な世界

画像、犬と猫の本の表紙

『ギャシュリークラムのちびっ子たち』 著:エドワード・ゴーリー 訳:柴田元幸/河出書房新社
『Edward Gorey HIS BOOK COVER ART & DESIGN』 著:スティーブン・ヘラー/Pomegranate
『エドワード・ゴーリーの世界』 著:柴田元幸・江國香織 編:浜中利信/河出書房新社

エドワード・ゴーリーという作家をご存じですか。大人向けなのか子ども向けなのかもわからない小さなサイズの奇妙な絵本を、私家版や変名も含めて大量に出版し、2000年に他界した後もアメリカではカルト的な人気を誇るイラストレーターであり絵本作家。最近ではここ日本でも柴田元幸さんの名訳を得て、知名度と人気を集めています。

細密な線描で、不条理で不気味な世界を描きながら、不思議に不快な読書感はなく、中毒性すらもった作品群は読者の年齢を問いません。登場人物は不幸な目や残酷な仕打ちを受けますが、そこに道徳観や宗教観などは介在せず、ただただシュールな展開が繰り広げられるため、あっけらかんとした印象すら覚えます。

代表作といって思い当たるものはありませんが、アルファベット絵本の体裁をとった『ギャシュリークラムのちびっ子たち』を読めばその世界観は一目瞭然です。「Aはエイミー かいだんおちた」、「Bはベイジル クマにやられた」とアルファベット順のイニシャルをもつ子どもたちの受難が何の説明もなく描かれます。

幼少期から貪るように本を読み、映画やバレエを愛したゴーリーは、イラストレーターとしても数多くの装画を手がけました。ブラックな短編を得意としたサキや、カフカの不条理世界には彼のイラストはぴったりですが、チェーホフやプルーストの表紙をゴーリーが手がけていたなんて驚きです。『Edward Gorey HIS BOOK COVER ART & DESIGN』は、ゴーリーのスタイリッシュな一面が楽しめる、本好き、小説好きにもたまらないビジュアルブック。

ここまで読まれて「子どもに見せるのはちょっと」というためらいの声が聞こえそうです。しかし、彼の作品には「不幸」や「受難」の瞬間が単発的に描かれるだけで、加害者はおらず、むしろ読者に滑稽さすら感じさせるでしょう。おりこうさんや正義漢ばかりが登場し、道徳的なハッピーエンドの本を読むだけではこの世界の複雑さは理解しがたいもの。『エドワード・ゴーリーの世界』は、シュールレアリズムの作家たちをはじめ同時代の才能にも愛された特異な才能を知るうえで格好の入門書。簡単には説明のつかない不条理の世界をぜひお楽しみあれ。

次回はいよいよ最終回。「読書」について考える本をご紹介します。

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