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本を読んで、考える練習をしよう 第10回

本を読んで、考える練習をしよう

2016年1月25日 更新

堀部 篤史 誠光社 店長

本のスペシャリストが、小・中学生に読んでほしい、とっておきの本をご紹介。

堀部篤史(ほりべ・あつし)

1977年京都府生まれ。立命館大学文学部在学中から、京都の人気書店・恵文社一乗寺店でアルバイトを始め、2004年から2015年8月まで店長を務める。2015年11月、京都市内に新しい書店「誠光社」を立ち上げる。著書に『本屋の窓からのぞいた京都』(マイナビ)、『街を変える小さな店』(京阪神Lマガジン)など。フリーペーパーや雑誌への連載も行う。

第10回 漫画は勉強の敵?

画像、本の表紙

『コミック 文体練習』 著:マット・マドン 訳:大久保 譲/国書刊行会
『杉浦茂の摩訶不思議世界 へんなの』 著:中野 晴行/晶文社
『がんまとえへの漫画』 著:長新太/トムズボックス

「漫画ばっかり読んでいないで勉強しなさい」

私の世代なら誰もが聞き覚えのある文句です。「漫画」である『ドラえもん』の中でさえ、のび太はママに同じような言葉で叱られていました。「漫画」が立派な文化として確固たる地位を築いた今、「子どもの教育にとって有害」なんて認識は時代錯誤となりました。それでもなお、漫画が小説より格下のように捉える人は少なくないのかもしれません。

その一つの要因として、「絵」や「文法」ではなく、恋愛や流行など取り上げられる題材に着目されがちなことが挙げられるでしょう。しかし、漫画の本質は「絵」や「文法」にあります。

マット・マドンによる『コミック文体練習』は、日常のささやかな一瞬を、99ものバリエーションで描き分けた実験作です。9個まで描かれた、部屋から冷蔵庫に探し物をしに行き、何を探していたか忘れるというスケッチを、「ファンタジー」、「SF」、「擬人化」、ときに一コマで描くなどありとあらゆる手法を総動員。「どのように語るのか」という視点で同じ出来事でも大きく変化します。それを知ることは、あらゆる創作において有益なスキルとなるでしょう。

杉浦茂の漫画は、いわゆる現代のストーリー漫画と一線を画しています。手塚治虫が取り入れた映画的なコマ割りで、物語に絵が隷属するのではなく、奇妙奇天烈なキャラクターを微に入り細に入り描くことそのものに喜びを感じているような杉浦漫画は若い世代にとってはシュールに映るのではないでしょうか。『杉浦茂の摩訶不思議世界 へんなの』は、子どもたちですら童心にかえることのできる杉浦ワールドへの入門編。「のびのび」という形容詞がこれほどあてはまる作品を知りません。

最後に、絵本作家である長新太さんも、若かりし頃同人漫画誌に実験的な作品を提供していました。トムズボックスさんから復刻刊行された『がんまとえへの漫画』に掲載されるのは、漫画といえどもコマ割りのあるものではなく、一コマの風刺漫画。抽象的でスタイリッシュ、ウィットに富んだ絵の数々は、絵本で長さんを知った子どもたちに驚きを与えてくれるはずです。

絵本の次は小説、という固定概念を捨て、絵と文字の組み合わせの延長として漫画を捉え、子どもたちにコミックを与えてあげるのもひとつの美学教育なのかもしれません。

次回は、エドワード・ゴーリーの本をご紹介します。

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