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本を読んで、考える練習をしよう 第8回

本を読んで、考える練習をしよう

2015年10月26日 更新

堀部 篤史 誠光社 店長

本のスペシャリストが、小・中学生に読んでほしい、とっておきの本をご紹介。

堀部篤史(ほりべ・あつし)

1977年京都府生まれ。立命館大学文学部在学中から、京都の人気書店・恵文社一乗寺店でアルバイトを始め、2004年から2015年8月まで店長を務める。2015年11月、京都市内に新しい書店「誠光社」を立ち上げる。著書に『本屋の窓からのぞいた京都』(マイナビ)、『街を変える小さな店』(京阪神Lマガジン)など。フリーペーパーや雑誌への連載も行う。

第8回 ブルーノ・ムナーリの「ファンタジア」

画像、ブルーノ・ムナーリの本の表紙

『ムナーリの機械』 著:ブルーノ・ムナーリ 訳:中山エツコ/河出書房新社
『闇の夜に』 著:ブルーノ・ムナーリ 訳:藤本和子/河出書房新社
『ファンタジア』 著:ブルーノ・ムナーリ 訳:萱野有美/みすず書房

今回はちょっと趣向を変えて一人の作家についてご紹介いたします。イタリア出身の絵本作家であり、プロダクトデザインやアート、教育の分野で幅広く活躍したブルーノ・ムナーリをご存じですか? 昔、小学校国語教科書2年の「一本の木」という教材の中で、ムナーリが紹介されていたので覚えていらっしゃる方も多いかもしれません。また、本連載の第3回でも『きりのなかのサーカス』という絵本をご紹介させていただきました。

ムナーリはそのキャリアを、戦前イタリアの芸術運動「未来派」に参加することでスタートさせました。機械を礼賛するその一派において、ムナーリはあくまで機械は人間に使われるべく滑稽な存在だと定義し、ナンセンスの機械というオブジェや、友人たちを笑わせるための絵本を制作します。その絵本『ムナーリの機械』では、「目覚まし時計をおとなしくさせる機械」、「疲れたカメのためのトカゲ・モーター」など徹底的なナンセンスぶりが発揮されています。湯気から犬の尻尾までをも機械の一部分に取り入れるユーモアと発想の飛躍は、子どもたちの感覚に近いものでしょう。

ブルーノ・ムナーリは絵本という平面上の表現メディアに奥行きを与えました。以前ご紹介した『きりのなかのサーカス』ではトレーシングペーパーを重ねることによって、霧に覆われたサーカスへの道のりをページ越しに表現。『闇の夜に』では、ページの端から顔を出す猫を、ページの向こうに追いかけていく感覚、それぞれ異なった形の穴をくり抜くことによって洞窟のなかを進んでいくような奥行きを表現しました。この発想は、絵とお話だけでなく、本をオブジェとして捉えるデザイナー的感性が大いに注ぎ込まれているのです。

ムナーリはすぐれた論理家でもありました。実質的なデビュー作となった「ナンセンスの機械」というオブジェについて、アレキサンダー・カルダーの「モビール」の模倣だと批判された彼は、その制作過程や発想法の違いを言語化し、さらには人がアイデアを思いつく際の思考回路を理論にしようと試みました。『ファンタジア』という本では、植物のトゲからスペインの大衆版画、現代美術作品から日本の盆栽までをも引き合いに出し、なぜそのような形にいたったのか、どのような過程でこのアイデアが生まれたのかを丁寧に綴ります。そのひとつひとつの例をかみ砕いて紹介すれば、子どもたちの創造力を刺激するユニークな授業になるのではないでしょうか。

芸術作品やデザインにおいて過程より結果に重きが置かれがちな今、まさに考える練習になるのがムナーリの絵本とことばなのです。

次回は、犬と猫にまつわる本をご紹介します。

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