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本を読んで、考える練習をしよう 第6回

本を読んで、考える練習をしよう

2015年8月27日 更新

堀部 篤史 誠光社 店長

本のスペシャリストが、小・中学生に読んでほしい、とっておきの本をご紹介。

堀部篤史(ほりべ・あつし)

1977年京都府生まれ。立命館大学文学部在学中から、京都の人気書店・恵文社一乗寺店でアルバイトを始め、2004年から2015年8月まで店長を務める。2015年11月、京都市内に新しい書店「誠光社」を立ち上げる。著書に『本屋の窓からのぞいた京都』(マイナビ)、『街を変える小さな店』(京阪神Lマガジン)など。フリーペーパーや雑誌への連載も行う。

第6回 文学のこころにふれる

画像、「文学のこころにふれる」で紹介された本の表紙

『木に持ちあげられた家』 作:テッド・クーザー 絵:ジョン・クラッセン 訳: 柴田元幸/スイッチパブリッシング
『遠い町から来た話』 著:ショーン タン 訳:岸本 佐知子/河出書房新社
『名前のない人』 著:クリス・ヴァン・オールズバーグ 訳:村上春樹/河出書房新社

「文学とは何か」。みなさんはこの問いに対する簡潔な答えをおもちですか? もし子どもたちにこのような質問をぶつけられたら。私なら即答できるどころか、まごついてしまうでしょう。そもそも私たちが子どもだった頃も、このような問いの答えを教えてくれる先生はいませんでした。あえて冒頭の設問に答えるのであれば、文学とは一言で定義できず、わかりやすい正解のないものであり、理解するのではなく、親しみ、肌でそのエッセンスを感じて初めて理解できるものなのかもしれません。

『どこいったん』や『くらやみ こわいよ』など、長谷川義史さんによる関西弁訳でも人気を博した、カナダ人イラストレーター、ジョン・クラッセン。彼が絵を担当した『木に持ちあげられた家』という絵本は、文学の香り高い1冊です。自然の中の一軒家で暮らし、日々黙々と芝生を調える父。そこには美しい調和が保たれていたように見えますが、子どもたちはいずれ成長し、その家を出て町へと住まいを移します。ついに手放され、売家となったその家は自然と共生し、その姿を変えてゆきます。この作品は、お話らしい起承転結がなく、淡々とした描写とは裏腹に、時の流れとそれに伴う無常観や、幼少期への愛着が描かれています。

オーストラリア出身の気鋭のイラストレーター、ショーン・タンが描く作品は、現実離れした架空の世界でありながら緻密な設定がなされた不思議なリアリティを持った傑作揃い。子どもの頃街外れでよくみかけた水牛の存在、僕の家にやってきたちょっとおかしな交換留学生、敗れた地図の端っこを目指すちょっとした冒険旅行。『遠い町から来た話』は、シュールだけど不思議に身近に感じてしまう物語の断片が詰め込まれた、文学のタネとも呼びたくなるような1冊。絵本の次にもう少し長い物語を読みたい子どもたちにも最適です。

最後は、日本が誇る作家、村上春樹が愛し、自ら翻訳を手がけたC.V.オールズバーグの絵本『名前のない人』をご紹介。絵も文もてがけるオールズバーグの作風はどこか神話めいていて、絵本を閉じた後も不思議な余韻がのこります。「名前のない人」は一体誰だったのか。そんなことを話し合うのも文学を肌で感じる第一歩なのかもしれません。

多感な時期に、このような答えのない、不思議な物語に親しめるかどうかは、大人になって小説や文学の世界にすんなり足を踏み入れるための大いなる助走になるのではないでしょうか。小説や文学が苦手な大人の皆さんもここから始めてみるのもいいかもしれません。

次回は、「算数」にまつわる本をご紹介します。

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